第11話 エピローグ

「うっ、う~ん……」


 ゆっくりと、オレ----有賀刀祢が目を開けると、そこに映ったのは真っ白な天井だった。

 清潔感溢れる、純白の天井とやらで、家の天井とは全く違っていた。


「知らない、天井だ……」

「リアルにそれいうヤツ、初めて見たわ」


 オレの独り言にそうツッコみながら、三日月三言は安心したようにホッと肩を下したようだった。


「ここ、病院。ダンジョンボスを倒して、あんた、1週間眠ってたって訳。凄いわね、小説みたい」

「1週間!? ……本当だ」


 机の上に無造作に置かれたオレのスマホ、起動して映し出されたのは1週間後の日付。

 それと大量のメール……まぁ、ほとんどが迷惑メールだろうから後で消しておくとして。


「花子は?」

「3日前に退院したわ。あんたの場合、うちの歌の影響と同時に、着ぐるみで無理したツケ、って奴らしいわ」

「そうしなきゃ、勝てなかったしな」


 そう、あの時はああしなければ勝てなかった。

 ダブルエム----アイツはそれだけ強力な相手だった、と言う訳だ。


「それよりも----あの歌、なんだったんだ?」


 と、そこでオレは一番、彼女にぶつけたかった疑問を投げかける。

 あの、なんでも出来そうな、そんな気分にさせてくれる魔法の歌は。


「…………」


 彼女は心底嫌そう、いや恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、懐から1枚の紙をオレに渡した。

 それは初めて見る彼女の冒険者証----つまりは、彼女の冒険者としての身分証明書だった。



 ===== ===== =====

 【三日月 三言】

 冒険者ランク;D

 クラス;吟遊詩人

 レベル;Ⅱ

 命題;歌が上手くなる代わりに、歌詞が自作ポエムとなる

 ===== ===== =====



「自作ポエム……?」

「~~~っ!! 口にすんな、アホっ!!」


 ていっと、彼女はオレの頭を殴ると、そのまま冒険者証を奪い取った。


「ふんっ……!!」

「なっ、なるほど……自作ポエム、それは言いたくないわな」

「えぇ、そうよ。うちは強力なバフとデバフを操るけど、歌詞が全部黒歴史の自筆ポエムしか使えないって言う……まぁ、後は察して」


 つまりは、だから頑なに歌いたくなかった。

 だから、常にナイフや忍者刀といった武器で、暗殺者っぽい戦い方をしてた、と言う訳か。


「アニメ声、コンプレックスでさ。なおかつ歌詞は黒歴史ポエム……言いたくないって言うか、恥ずかしいって言うか。

 だから、普段は家で録音した"暗殺者らしい戦いが出来る歌"って奴をヘッドホンから流して、自分にバフかけてんの。

 はい、質問終わり! この話、忘れて! 忘れて!」


 もう、やめやめっ!

 彼女はそう言って、顔を真っ赤にして帰ろうとする。


 だから帰る前に、オレは言いたいことがあった。


「----でも、恥ずかしくても歌ってくれてありがとう」


 そう、彼女は恥ずかしかったに違いない。

 自分のスタイルを暗殺者に偽装するくらい、アニメ声な事と、自作ポエムでバフとデバフをかける事。

 必死に隠していたのに、オレ達のために、あの場で歌ってくれた。


 オレと花子は、ずっと忘れないだろう。

 彼女の美しい、力と元気を貰ったあの歌の事を。


「~~~~っ!! ……ども」


 恥ずかしそうに、真っ赤な顔で彼女はそう呟く。


「あっ、あとあと!! ダンジョンボスのドロップアイテム、うちが貰ったし。

 良いでしょ、あんたは着ぐるみ、花子は前に弓矢を貰ったんだし」

「あぁ、それで問題は----ん?」


 と、そう話していて、オレは一つ気付いたことがある。

 入り口近くまで行って、つまりは彼女の全身が見えるようになったからこそ気付いた事って言うか。


「三言、お前それ……」

「え? あぁ、この制服・・の事ね」


 そう、三言が着ている白い制服だ。

 純白を思わせる真っ白い制服に、胸元には百合の花をモチーフにした腕章。

 この辺りであの制服を着る学校は、たった1つだけ----。


セントリエック女学院----」


 "聖"なんて御大層な名前がついているのから分かる通り、ここ日本でも指折りのお嬢様学校。

 芸術系の才能を持つ人間が豊富にいて、3か月かに1回のペースでなにかしらの大臣賞だったり、大会優勝なんかして、メディアに晒されまくっている、超有名校!!


「いや、お母さ……んっ! んんっ! 母ね! 母に楽させたくて、ちょっとまぁ、頑張った的な?」

「頑張って入れるところじゃないだろう、そこ……」


 確か、入学倍率25倍だとか聞いたことがある……。


「----あっ、そうだ」


 と、思い出したように三言はこちらに戻ってきて、1枚の紙を取り出した。

 そこには【聖リエック女学院 文化祭 一般人参加チケット】と書かれていた。



「もし良ければ、だけどさ。

 ----あっ、花子みたいに【毒婦ってる】って言ったら破くからね? あくまでも、パーティーメンバーとしての善意で、渡すだけだからさ」



「言わないさ」


 と、オレは答えて、彼女のチケットを受け取る。


「……あっそ。まぁ、楽しみにしといてね」



《完》

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