第8話 《虚無の封印遺跡》の決戦(2)
『では、退屈晴らしのボス魔物ごっこを始めますかねぇ~?』
大画面スマホに映るダブルエムがニヤニヤ笑い、巨大な蟹となった身体が動き始める。
大きな機械音と共に、ガシガシッと8本の脚に切れ目が入って行く。
『では、まず第1陣! 一般的なボス魔物とほぼ同等の力を持つ #小蟹メカ #発進 !!
それじゃあ、行きましょう! せーの、#ポチッとな』
ダブルエムの掛け声と共に、蟹メカの脚の切れ目から大量の子蟹メカ達がぞろぞろと現れる。
うじゃうじゃ、まるでGを彷彿させるかのように無限に増殖する子蟹メカ達は、どんどんこちらに向かって来る。
「ひっ、ひぃぃぃぃ!! いっぱい出てくるですぅぅぅぅ?!」
「……泣き言より、手動かす」
「そうだな、行くぞ! 2人とも!」
俺は【アングリーベアー】の着ぐるみに換えて、そのままボス熊特有の怪力でてきじんをかき分ける。
そして、俺の攻撃で倒しきれなかった残りの子蟹メカ達を、花子の爆発する弓矢と、【吟遊詩人】らしからぬ三言のナイフさばきで倒して行く。
どんどん倒して行くが、蟹メカがどんどん子蟹メカを放ってくるため、全然減っている感じがしない。
むしろ、どんどん増えて行ってるんじゃないだろうか?
「……本体、行くわ」
「ちょっ!! おいっ、三言!!」
制止を呼びかける前に、既に三言は蟹メカの方に向かって行く。
『おやっ?! 1人、こっちに来るみたいですね!!
なら、第2弾! #ブースターハサミ攻撃 !! そーれ、#ポチッとな』
ガチャンっと、小蟹メカの放出が止まり、蟹メカが次の攻撃に移行する。
蟹メカのハサミが三言の方に向けられると、そのままハサミだけ白い煙と共にこちらに向かって来るではないか。
簡単に言うと、蟹ハサミがロケットミサイルのように、三言の方に向かって来る。
「……そんな蟹、いねぇ」
ぐるんっと、新体操選手でも見た事がないくらい綺麗な身のこなしを披露した三言は、ロケットミサイルのように飛んできた蟹ハサミを避けていた。
「そして……止め」
と、忍者刀に持ち替えていた三言は、そのまま忍者のような身の軽さで蟹メカの脚を垂直に上っていく。
そのままぴょんっとアホ毛のように飛び出た彼女の顔が映った大型スマホに、忍者刀を斬りつけ----
「----?!」
----そして、逆に忍者刀の方が折れてしまった。
『その忍者刀がどれだけ硬いかは分かんないけど、私の【蟹】の職業の強みは鋭く切れるハサミ、そして硬い甲羅!!
そして、それはこの顔にも甲羅の特性は適用され、ダイヤモンドよりも硬い甲羅とほぼ同等の硬さを持っている!!』
----だから、不用意に近づきすぎですよ?
大型スマホの画面が一瞬真っ黒になったかと思ったら、そこから粘々した何かが三言を包んでいた。
「----っ?!」
『第3弾! 名付けて、#蟹みそネット !!』
そのまま、粘々した蟹みそネットに包まれた三言は、ころころ転がりながら、地上へと落ちてしまう。
ポロっと、彼女がいつも付けていたヘッドホンも、ボスの間の床に落ちた衝撃で壊れて、彼女のそばを離れてしまっていた。
『では、これで最後!! 第4弾!! #蟹ハサミ #ドリル攻撃 !! それ、#ポチッとな』
蟹みそで出来たネバネバのネットを三言が取り除こうとするが、三言の身体に向かって、ハサミだけ高速で回転しながら落ちてくる。
ドリルが大岩を無残に真っ二つに砕くように、あの回転する蟹ハサミが三言の身体を貫くのも、時間の問題だろう。
「ヘッドホンっ……!!」
三言は逃げようとするが、ネバネバとした蟹みそネットが絡まり、もう間に合わない。
三言が諦めかけたその時----
「そんな蟹、いねぇよぉぉぉぉぉぉぉ!!」
オレの熊パンチが、蟹メカの体勢を崩したのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『どっひゃあああああ??』
【アングリーベアー】の《怪力》、そして【ミサイリングバード】と呼ばれる高速移動の鳥型ボス魔物の《俊足》----。
その2つを【継ぎ接ぎ】のスキルで掛け合わせた、この攻撃!!
さしもの、蟹メカも、体勢を崩さざるを得ないだろう。
「(にしても、
しかし、倒したという感覚は、一切ない。
それはじわじわ出てきた、両腕の拳の痺れからも理解できる。
まるで金属で出来た何かを、思いっきり素手で殴った時のような感覚。
つまりは、全然、壊れたという印象は丸っきりなかった。
敵は、まだ生きている。
「ほら、ヘッドホン」
「あっ……りがと」
ヘッドホンをオレから受け取りながら、三言は小さく返事をしていた。
うん、素直でよろしい。
まったく、1人でこの大ボス級と戦う前に、もっとパーティーメンバーと一緒に行動して欲しいモノだ。
独断専行、し過ぎ禁止、ってね。
で、素直ついでにもう一つだけ。
「なぁ、三言。今からアイツを絶対倒せる必殺技を撃って良いか?
その後、オレ、もしかすると倒れるかもしれないんだが」
三言はオレの言葉に、少し戸惑っているかのようにも見えた。
しかし、オレの顔を見ながら、彼女はこう言ってくれた。
「----ぶちかませっ!!」
その言葉を聞いて、オレも覚悟を決めた。
今から、オレの必殺技----文字通り、相手を倒す必殺技の準備を始める。
『いてて……もうっ! 怒っちゃったよ! えーと、確か第5弾……いや、第6弾だっけ?』
むくりと、オレの熊パンチでひっくり返っていた蟹メカが起き上がる。
そして、ダブルエムが次の攻撃を何にしようかと迷っているその顔に、
----ぶしゅんっ!!
『----うわっ!? なにこれ眩しってかほんとなにこれ?!』
花子の煙幕弾付きの弓矢がぶつかり、辺りが真っ黒----いや、虹色になってしまったダブルエムが体勢を崩して、くらくらし始めた。
本来ならタコの墨かってくらい真っ黒になるはずの煙幕弾なんだが、派手であることを運命づけられてしまった花子が作ると、あんな風に極彩色の虹色の煙に何故かなってしまうらしい。
とは言え、相手の視界を塞ぐという、効き目は一緒だ。
「よしっ、行くぜ! 【継ぎ接ぎ】!!」
オレは、自分が着替える事が出来る着ぐるみ全てを確認する。
《ゴブリンキング》、特殊能力は《腐肉食》。効果は、腐ったものを食べると体力が回復する。
《アングリーベアー》、特殊能力は《怪力》。効果は、熊魔物のボス魔物たる怪力を発現する。
《彷徨う騎士団長》、特殊能力は《剣技》。効果は、剣を使う際に補正ダメージと技術補正。
《幻惑の月貝》、特殊能力は《幻影》。効果は、貝の表面に幻覚作用のある映像の投影。
《機械兵長》、特殊能力は《機械統率》。効果は、自分のレベル以下の機械型魔物の統率命令。
オレが使える着ぐるみは、この5つ。
この5つのどれを使っても、三言が傷一つ付けられなかった蟹メカの身体に傷をつける事は出来ないだろう。
5つの能力を全部使っても、同様だろう。
だから、【継ぎ接ぎ】のスキルを使って、とっておきをくらわしてやる。
「まずは、ゴブリンキング。この着ぐるみ一着分を、"
----ガシンッ!!
「くっ……!!」
本来、【着ぐるみ】の職業の効果は、倒した魔物を着ぐるみとして着る事。
そこには多少の弱体化補正がかかるとは言え、意味合いとしては魔物1匹分の力を宿した服を着るのと同じこと。
そうすることで帳尻を合わせている着ぐるみを、オレは右腕のみに、その力全てを発現させる。
当然、苦しい。
右腕1本に、ボス級の魔物ががっしりとしがみついているようなものだからな。
だが、オレはさらにこれに、加えていく。
「同様に----アングリーベアー、彷徨う騎士団長、幻惑の月貝を、"
----ガシンッ! ガシンッ! ガシンッ!
1体でも辛い右腕1本に、さらにボス級魔物を3体分加える。
「そして、機械兵長。お前も右腕に凝縮したいところだが、流石にそれだと動けなさすぎる。
だから、お前の身体で、オレ自身を補強する!!」
4体分のボス級魔物を腕に、そしてそれを支えるために機械兵長の着ぐるみで辛うじて動ける程度に。
辛うじて動けるだけのリソースを手に入れたら、それ以外の部分を全て、右腕に載せておく。
これこそ、オレが見つけ出した【着ぐるみ】の奥の手。
着ぐるみ1体分だけ相手に近付けるように補正し、残りの着ぐるみを凝縮して、身体の一部分に集める。
完成した着ぐるみを着たオレは歩いて近付き、そのまま蟹メカの懐に右手を添える。
よし、ここまで来たら、後は喰らわせるだけだ。
「喰らえ、【
----ぶんっ!!
右腕を、機械兵長の、ただ規則的に槍を振り下ろすプログラミング機構を用いて、ただ一直線に、蟹メカに叩き込む。
ボス級魔物の4体分----いや、機械兵長のパワーの一部をも取り入れた強力な一撃は、そのまま蟹メカの身体を貫通して、そして----
『ん?! やばンゴーッッ!!』
そのまま、蟹メカは爆発し、オレは放った衝撃の反作用で吹っ飛ばされる。
----ゴキリッ!!
「~~~~っ!! 絶対、骨いったな」
オレが今までこれを使わなかった理由は、ただ単純に燃費が悪いからだ。
相手に攻撃をくらわす右腕に複数体の魔物の力を凝縮させて、出来るのはたった一発の攻撃だけ。
放ったらオレの腕は確実に骨折し、右腕に集めた着ぐるみは全て衝撃によって修復不可能なくらいボロボロになる。
ただ、その分----効果はあった。
===== ===== =====
Dランクダンジョン《虚無の封印遺跡》のボス魔物を倒しました
有賀刀祢は 《歯車兵長の着ぐるみ》を 使えるようになりました
オーラ系統職業【蟹】が 解放されます
確定ドロップとして、清魔石(小)が 3つ ドロップします
確定ドロップとして、機械兵士のスペシャルアームズが 9つ ドロップします
===== ===== =====
「ほら、いつものボス魔物を倒した際に出てくる画面が----」
===== ===== =====
続いて
===== ===== =====
「----は?」
だい、2、せん……??
どういう事だと理解する前に、オレは背後から放たれた着物の帯に吹っ飛ばされていた。
『はいっ!! と言う訳で、#もう少し遊ぼう #冒険者の諸君』
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