第7話 《虚無の封印遺跡》の決戦(1)
緊急依頼、【Dランクダンジョン《虚無の封印遺跡》を乗っ取った冒険者、ダブルエムの討伐】。
事態を危険視したダンジョン担当の市役所は、多くの冒険者をDランクダンジョン《虚無の封印遺跡》へと派遣することにした。
具体的にはAランク以上の冒険者----いわゆる、トップクラスの冒険者達を派遣することにしたのであった。
しかし、Aランク以上の冒険者達でも、この依頼を達成することは出来なかった。
彼らがダンジョンに入ると、いきなりダンジョンの構造が変化し、ダンジョン奥地に居るとされるダブルエムの元へ辿り着けないのだ。
色々と調査した結果、Bランク以上の冒険者だとダンジョン最奥まで辿り着けず、Cランク以下でないとダブルエムのいる所まで辿り着けないのだ。
辿り着いたCランク以下の精鋭達----そこまで辿り着ける精鋭達は、"殺しはしない"という謎のプライドを持つダブルエムによって殺されこそしなかった。
殺されこそしなかったものの、なにかしら恐ろしい経験によってトラウマを植え付けられたのか、もう二度と挑もうだなんて事にはならなかったのだが。
「と言う訳で、Dランクパーティーのオレ達も、その緊急依頼とやらに駆り出されたと言う訳だな」
「なるほど、分かりみ」
「こっ……怖いでしゅよぉぉぉぉ!!」
……見事に想定通りの反応を見せる2人に、オレは笑みさえ浮かべてしまっていた。
今のが、オレ達がこのDランクダンジョン《虚無の封印遺跡》にいる経緯なのである。
正直な所、受けたいか受けたくないかで言えば、断然受けたくない依頼ではあったのだが、ここまでの経緯を市役所の熱い担当者さんからキスしてしまうくらいの近さで、熱量持って語られたら、受けるしかないだろう。
……うん、暑苦しい40歳くらいのおっさんが担当だってのも、あるけど。
もう聞きたくないという意味で、安請け合いしちゃった感あるけど。
「でもさ、なんか魔物、出てこなくね?」
「そう言えば、少ない、です……ひぃ! 素人意見でごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ!!」
「いや、花子。少ないで正しい。どうやらダブルエムとやらは、このダンジョンのボスの地位を乗っ取ったみたいだからな」
正確に言えば、ボスの間を占拠した。
そしてボスの間を奪還しようと攻め込んできた、《歯車兵士》達を片っ端から倒しているんだとか。
だから今、このダンジョンにはオレ達を攻めようというような魔物はほとんど居ない状況にある。
「こうして、ボスの間まで魔物1体とも出会わずに済むくらいには」
と、ボスの間に入るための扉脇に、まるで山のように積まれた《歯車兵士》達の残骸を尻目に、オレ達はボスの間へ、意を決して踏み込んだのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
『おやっ、今度は変な人達がやってきましたね。 #即攻撃! #即対処! #帰還厳守!』
と、入ると共に中に居た人(?)の腕が伸びて、というかコードになってこちらへと向かって来る。
その伸びてきたコードを、三言が短刀で切りさいていた。
『へぇ~…… #興味津々 #よく防げた #凄いね本当
コード攻撃を防ぐ冒険者は多かったけど #透明コード を防いだのは、#初めて』
パチパチパチ、と、中に居た人(?)----今回の依頼の
どうやら相手はあのたくさんのコード攻撃に合わせて、目には見えないように透明にしたコードも放っていたようで、三言はそれをも切って防いでいたみたいだ。
「(----本当、【吟遊詩人】に思えないくらい、三言は頼りになる)」
頭代わりの大画面スマホ、手足はうねうねとしたコード、そして腹の真ん中にはグルグル回り続ける粉砕機----。
間違いなく、探していたダブルエムその人であった。
『うん、嬉しいよ。そろそろこのダンジョンとはおさらばしようと思っていたからさ、最後に出会えた冒険者が、優秀な冒険者ってのは嬉しい限りだね。 #作戦終了 #撤退前に #未来の希望』
「きっ、希望ですか……?」
怯えながら訪ねる花子の質問に、ダブルエムは嬉しそうに答える。
『実を言うとね、ここで1つ研究をしていたのですよ。しかしながら、その研究にもある程度の成果が出て、ここの研究所ではこれ以上は無理だと判断した #英断した私 #マジ優秀』
すっと、彼女の背後には多くの残骸が、部屋の外にあった以上の残骸の山が積まれていた。
他にも色々な機械系魔物達が頭や腕を取り外された状態で、ボスの間に置かれていた。
良く分からない機器類もたくさん置かれており、どうやら本当にここで研究していたのは事実みたいである。
『ですので、この機会にボス魔物の役割もしてみようかな、と』
パクパクパクッと、いつの間にか隅にあった魔物の残骸の山が消えていた。
そしてその近くには、彼女の手足代わりのコードが伸びていた。
「まさかあいつ、話している最中にコードを伸ばして、"食べた"のか?」
ダブルエムの職業が【工場】と呼ばれるもので、食べた物を新たな姿にすることが出来る能力を持つ。
その事については、ダブルエムの恐ろしさを伝えた最初の、3人なのに1人にされた冒険者によって伝えられている。
精神的に耐え切れずに自殺したかの冒険者は、ダブルエムの恐ろしさを書き記し、そのまま自分で心臓を何度も、何度も、何度も潰して死んだ。
だからこそ、このダブルエム討伐のために緊急依頼が用意され。
そして、ダブルエムが魔物の残骸を食べた事を、オレ達は恐ろしく感じているのだった。
『不老不死を目指すとね、退屈こそが敵なんだよ。そんな退屈を紛らわしてくれるかもしれない存在、未来ある若い冒険者がどれだけ重要なのか。
さぁ、楽しませてくれよ。 #黄金召喚 #黄金召喚』
----バリバリボリッ!!
----ガガガガッ!!
----チィィィンッッッ!!
大きな音と共に、彼女の身体の部分が大きく膨らんでいく。
本来は、物などを代償として召喚獣を召喚する、【召喚士】のスキルの1つ、【黄金召喚】。
それを今、ダブルエムは自分の身体に取り込んだ、巨大兵士達の残骸に対して【黄金召喚】を行っているようだった。
巨大兵士の残骸を糧として新たなボス魔物として生まれつつあり、その一部としてダブルエムも自ら取り込まれてるようであった。
コードの腕はがっしりとしたハサミとなり、コードの脚は8本に増えてしっかり彼女の大きくなった身体を支えていた。
そして心臓を守るかのように、赤い甲羅が現れると、完全に彼女の変化は止まっていた。
『#完成 #ダンジョンボス魔物 #《蟹》歯車兵長 #withダブルエム ってねっ!!』
ぴょんっと、まるでアホ毛が飛び出てるかのように、赤い甲羅の上に飛び出た彼女の大型スマホの顔が、こちらに堂々と。
ボス魔物の出現を、宣言していた。
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【《蟹》歯車兵長 with ダブルエム】 レベル;? 《虚無の封印遺跡》ボス魔物
硬い甲羅と鋭いハサミが武器の生物たる蟹が世界の中心たる世界を閉じ込めた【世界球体=蟹世界=】の力を取り込んだ、ダブルエム作成の機械型魔物。倒すと、オーラ系統職業の1つ、【蟹】を使用することが出来るようになる
硬い甲羅はあらゆる物を防ぎ、鋭いハサミはあらゆる物を切り刻む。横にしか移動できないという欠点を除けば、騎士以上に強い生物である事は間違いないだろう
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