第2話 ちぐはぐパーティー

 オレの名前は、有賀刀祢。

 神の悪戯か、高火力【剣士】ではなく、【着ぐるみ】などと言う職業になってしまった冒険者である。

 そして、【着ぐるみ】となってしまったせいで、元々組んでいたパーティーを追放されてしまった者である。


 パーティーを追放されたオレは、新たに2人の冒険者とパーティーを組むことにした。

 【吟遊詩人】なのに短刀を使った暗殺術が得意と言う、三日月三言。

 派手な見た目とは裏腹に小心者の、【弓使い】の山田花子。


 既にこの3人で、1か月近く冒険して、最初は慣れなかったが、それなりに安定してきた。

 この前は、Eランクダンジョン《海辺の夜明け》のボスも倒せたし。

 Eランクを軽く片付けられるようになったから、1つ上のダンジョン、Dランクダンジョン《無限の封印遺跡》に向かったのも間違いじゃないんだ。


 ただ、このダンジョンは----オレが前のパーティーで、最後に一緒に冒険してたダンジョンだってだけで。

 2人には、何の問題もないのだ。



 追放されたことに恨みがあるかと言われれば、多少はあるが、そこまで大きくはない。

 元々、剣を使い捨てにする代わりに、高火力を発揮できるという強みがあるからこそ、俺はそのパーティーに所属させてもらったのだから。


 前のパーティーは前衛を俺と【騎士】、後衛を【魔法使い】と【忍者】という、パーティーでやっていた。

 【騎士】の彼女が敵を倒していき、ボスや強敵の際は俺の剣消費前提の瞬発的高火力攻撃をする。

 【魔法使い】は指示を出しながら、適宜、得意属性たる土属性の魔法を放つ。

 【忍者】は短刀と手裏剣で、全体的な底上げをする、と言う編成だった。


 まぁ、簡単に言えば、俺と言う高火力がなくても良い、バランスが取れたパーティー。

 俺は強敵専門の、パーティーの切札的な役目だったし、瞬発的高火力を失った俺はお払い箱が相当だ。

 俺が居なくても、あのパーティーなら無理さえしなければ、普通に戦えるしな。


「(----まっ、気にしてないけど。ほんと、全然。これっぽっちも。

 うん、本当に。全然、まったく)」


 そうだよ、俺のモットーは、座右の銘は、【人生万事塞翁が馬】!!

 良い事も悪い事も、後になって見ないことには分からない。

 だから悩むなんて勿体ないという、安易に喜んだり悩むなんて、バカらしいっていう----。


「あのさ」


 と、オレが自分をそうやって励ましていると、いつの間にか、三言がオレの前に立っていた。

 最初にあったあの時と同じく、つまらなさそうな雰囲気で。

 彼女は短刀をオレの心臓にいつだって突き刺せるような形で、オレに問いかける。


「さっきから、なに?」


 ざっくりとした問いだった。


「なにって、なんかオレ、した?」

「いや……なんていうか、花子を見捨てて、先行ってるじゃん」


 「後ろ見てみ」と言うので、振り返ると、そこには岩陰に隠れながらもゆっくりこちらへ近付くパーティーメンバーの姿が。


「(----しまった!!)」


 【着ぐるみ】という職業になったが、オレが戦士などの近接系統の職業であるのは変わらない。

 対して、【弓使い】の山田花子は遠距離系統----つまりは後ろからの攻撃を主に行う職業。

 同じオーラ系統ではあるのだが、彼女とオレとでは、オレの方が身体能力は高い。


 だから、オレが先に先にと言ってしまったせいで、このような距離が出来てしまったのだろう。

 

「花子はさ、そりゃあ【弓使い】で後ろから攻撃するし、本人の性格的な面もあるから前に前に来るタイプじゃないけど」

「それは……この1か月で、身に染みて分かってる」


 山田花子----彼女が冒険者として活動する理由は、命題だ。

 《弓の集中力が上がる代わりに、見た目が派手になる》という、地味で目立たないを信条として生きてきた、小心者の彼女にとっては、この命題は絶望通告に等しかったのだそうだ。


 だからこそ、冒険者として活動して、この命題を変える事が出来るアイテムを見つける。

 これが、山田花子が冒険者として戦う理由なのだそうだ。


「なに、いつもだったらこんなに先に行かないじゃん? 焦ってんの?」

「かも、しれないな」


 いつもだったら、彼女の心情や性格を考慮して、ある程度、テンポを落としてダンジョン攻略をしている。

 いくら後ろから攻撃する【弓使い】と言っても、下がりすぎも良くないしな。


「すまない、ちょっとこのダンジョンに気を取られていた」

「いや、うちに謝られても」

「確かに、そうだな……すまない、花子!!」


 大きな声で謝るように言うと、後ろの方から



「ぜんぜぇん、だいじょうぶでしゅぅぅぅぅぅ!!」



 などという返答が帰ってきた。


「三言、気付かせてくれて、ありが……」

「…………」


 三言にもお礼を言おうとするのだが、彼女は言いたい事は言ったとばかりに、ヘッドフォンを耳に当てて、こちらの声をシャットアウトしてしまう。

 まるで、オレの声なんか聴きたくないとでも言わんばかりである。


「(そう言えば、なんで三言が冒険者になってるのかは聞いたことがなかった)」


 オレの、苦学生なりの貧乏脱却術。

 山田花子の、小心者なりの命題撤回術。


 オレと花子が、冒険者として頑張る理由はそうやって話してきたつもりだが----



 ----三日月三言、常にダンジョン内でヘッドフォンをしている、歌わない【吟遊詩人】。

 彼女は、なんでダンジョンに潜っているのだろう?

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