俺の着ぐるみが超有能である

帝国城摂政

第1話 とある【着ぐるみ】冒険者の諸事情



 ----約540万円。

 これがなんのお金かと言われれば、幼稚園から高校までに必要な金額である。

 これはあくまでも全て公立のみを対象とした概算であり、もしも全て私立に通う場合は、約1800万円かかるとされている。


 勿論、生活するには食費や光熱費、その他諸々の諸経費も考えれば、おおよその概算としても2500万円以上はいるのではないだろうか?


 そのお金を冒険者として稼ごうとしている、とある高校生がいた。

 そんな彼、つまりはオレの名前は、有賀刀祢ありがとうや----つい先日まで、レベルⅡの【剣士】として活動していた冒険者である。


「それが、なんで【着ぐるみ】になってんの?」


 オレはステータスを確認して、やはり嘘ではないんだと実感していた。



 ===== ===== =====

 【有賀 刀祢】

 冒険者ランク;D

 クラス;着ぐるみ

 レベル;Ⅱ

 命題;威力が上がる代わりに、ボス魔物からしか着ぐるみが落ちない


 固有スキル;【着ぐるみ化】;倒した魔物を着ぐるみにするスキル。着ぐるみには基となった魔物の力が宿っており、着ることでその力を得る事が出来る

      ;【換装】;手持ちの着ぐるみを素早く着替えるスキル。ただし一度使うと、10分のクールタイムが必要となる

      ;【継ぎ接ぎパッチワーク】;手持ちの着ぐるみを繋ぎ合わせ、オリジナルの着ぐるみを作るスキル。それぞれの部位に魔物の特徴を選択できるが、一度使うと基には戻せない

 ===== ===== =====



 数日前まで、オレの職業ジョブは【剣士】であった。

 命題であった【剣の威力が上がる代わりに、剣が使い捨てになる】というのを利用して、ボス魔物相手に剣を4、5本ばかり使い捨てる戦法で、ダンジョンで戦ってきた。

 強力な敵相手に、剣を使い捨てにして叩き込む戦法は、パーティー内でも評判であったのだが。


 剣をその場限りの使い捨てにするのは、流石に出費面を考えると痛い面もあった。

 だが、当たりを引くのも多かったから、収支を考えるとプラスで、それなりに楽しく過ごしていた。


「それが朝起きて、市役所に来たらこれ、か」


 ----【着ぐるみ】。

 最近、オレのような近接系……失礼、オーラ系統と言うべきだろうか、そのオーラ系統の職業の人達が強制的にこの職業に変更されているらしいのだ。

 オレもオーラ系統だから、まさかとは思ったが……。


「にしても、オレが【着ぐるみ】になった途端、パーティー追放か。薄情な奴ら、だな」


 まぁ、オレが今までパーティーに入れて貰えていたのは、剣を使い捨てるが高威力を発揮できるから、だからな。

 その長所がなくなったら、追放されるのは仕方ない----な。


「……今、使える【着ぐるみ】は3つか」



 ===== ===== =====

 ・使用できる着ぐるみ

 〇【ゴブリンキング】

 〇【アングリーベアー】

 〇【彷徨う騎士団長】

 ===== ===== =====



 もっといっぱいダンジョン攻略をしてるはずで、ボス魔物も倒してるはずなのだが……恐らくは、オレが止めを刺したこの3つしか使えないということだろう。

 追放される前のパーティーでは、高威力によって体力を大幅に削る役目を主にしてたからな。


「でも、パーティーを追放されたから、新たなパーティーを作らないとな」


 ダンジョンを攻略するのを、止めるという考えはない。


 オレの家は貧乏だ、ドラマになるくらいの貧乏だ。

 家は常に傾いており、オレが稼がなければその日の飯がない日まである。

 それくらいの貧乏な家で、オレが頑張らないという選択肢はないのだ。


 ダンジョン攻略で初めて買ったハンバーガーを、家族3人で分け合ったあの日は、今でも忘れられないしな。



 だから、オレは新たなパーティーを求めて、市役所に来ていた。

 別に市役所自体はパーティーの斡旋はしていないのだが、暗黙の了解的な面で、パーティーメンバーを探している冒険者が集まっているのだ。

 

 予め、オレのオーダー……"【着ぐるみ】のオレと冒険しても良くて、学校の放課後や休日に積極的に冒険してくれる仲間"というオーダーは、掲示板に貼ってある。

 オレの呼びかけに応えてくれるなら、既にここで待ってくれているはず……。


「おっ、あの2人か」


 待ち合わせ場所である、市役所2階第3テーブルには、既に2人の冒険者が居た。



 1人はつまらなさそうに、宙を睨むダウナーな雰囲気の少女。

 ヘッドフォンを首にかけ、猫耳のフーディーを着た、いかにも都会慣れした少女である。

 そんな彼女はナイフを片手に、クルクル回しながら、感覚を確かめているようであった。


「(ナイフ……【暗殺者】とか、そういう感じの職業だろうか?)」


 確か【暗殺者】は、体力や防御力は低いが、一撃が重く、なおかつ素早い。

 ヒット&アウェイ----一撃離脱を得意とする職業だと聞くし、頼りになりそうだ。



 もう1人は目線をキョロキョロとあちらこちらに動かす、挙動不審で派手な少女。

 無地のシャツを着ているようだが、めちゃくちゃ自己主張が激しいボディラインを隠すことは出来ず、虹色に光り輝く髪も相まって、まるで自己主張の塊のような見かけである。

 そんな見かけなのに、オロオロしながら、弓を我が子のように抱きしめている。


「(相手の攻撃を集める盾職タンク……? いや、だったらなんで弓? 普通は盾だろう?)」


 【守護騎士ガーディアンナイト】や【大楯遣い】など、盾職タンクと呼ばれる職業の冒険者は、魔物の攻撃を硬い防御力で受けつつ、相手の視線を集めて、仲間が攻撃しやすくするのが役割だ。

 だから金銀ギラギラな派手な見た目の人が多いから、てっきり彼女もそうだと思うのだが……なんで弓?


「(まぁ、集まってくれたのは嬉しいな)」


 そう思って近寄ると、2人もオレの存在に気付いたようで、立ち上がる。

 オレがあのオーダーを出したのだと気付いたのだろう。


 2人はこちらを向いて、自己紹介を----


「……ども、三日月三言みかづきみこと。職業、【吟遊詩人・・・・】」

「えっ、えっと!! わたし、山田花子やまだはなこでしゅっ!! 職業は【弓使い・・・】でしゅっ!!」



「----えっ?」


 想定の斜め上の自己紹介に、オレは思わず面食らってしまうのであった。





 ===== ===== =====

 【有賀 刀祢】

 冒険者ランク;D

 クラス;着ぐるみ

 レベル;Ⅱ

 命題;威力が上がる代わりに、ボス魔物からしか着ぐるみが落ちない



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 【三日月 三言】

 冒険者ランク;D

 クラス;吟遊詩人

 レベル;Ⅱ

 命題;歌が上手くなる代わりに、料理が下手になる



 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 【山田 花子】

 冒険者ランク;D

 クラス;弓使い

 レベル;Ⅱ

 命題;弓の集中力が上がる代わりに、見た目が派手になる

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