第八話 スキルの確認


 ディーネと別れた俺は、早速溺死しかけていた。


「ごぼごぼごぼぉぉ⁉」


 え、何⁉ 何処ここ⁉ なんで水の中⁉ つーか、空気ぃぃぃい!

 いきなり視界が切り替わったかと思えば、水の中だ。そりゃパニックにもなる。


《転移した結果、元の場所――地底湖に戻ったのでしょう。三メートル程浮上すれば空気があります、マスター》


 平坦ながらも冷静な声音に従って、俺は藻掻きながら必死に浮上する。


「――ぶわはっ⁉」


 はぁはぁはぁ……。あーマジで死ぬかと思ったわ。

 落ち着いて見渡せば、確かに既視感のある光景だ。地底湖に戻ってきたみたい。


「つーか、戻ったら水の中とか、悪質過ぎるだろ! 誰だ、こんなトラップを考えた奴はッ! 絶対性格悪いだろ!」


 そんな悪態を付きながらも、すいすいと泳いで地底湖から上がった。

 あーあ、全身びしょ濡れだ。まぁ半裸だからその内乾くだろう。……風邪、引かないかな?


《病気耐性の獲得を目指します……成功しました》

《病気耐性を獲得しました》


 脳裡に響く二つの音声。一つは勿論、サポートAIさんだ。後者は、スキルを獲得した時に流れる謎のアナウンスである。

 何となくどちらの声音も似ている気がする。まぁサポートAIさんの方が、平坦ながらも感情が判る声音だけど。


 というか、サポートAIさん優秀過ぎない? ちょっと風邪を引かないか心配しただけで、スキルを獲得しちゃったよ……。もしかして過保護?


《ワタシの存在意義は、マスターの快適な異世界生活のサポートですので》


 どことなく誇らしげなサポートAIさんである。ふと悪戯心が疼く。

 じゃあ、魔法をもっと使えるようにして欲しいんだけど、出来るかい?


《魔法の更なる適性の獲得を目指します……失敗しました》


 あー、なんかゴメン。意地悪をしちゃっ――


《代替案を実施……無属性魔法を獲得しました》


 ――たと思ったけど、なんか獲得出来たみたい。ヤベェ……何としてでも俺の要望を達成して見せるという狂気を感じるんだけど……。

 これ以上は色んな意味で危ない気がする。サポートAIさんをからかったりするのは、必要最低限にしよう。そうしよう、うん。


 さて。これからどうすっかなぁ。出口を目指すにも色々準備しないといけないだろうし。

 そうだ。確かステータスの確認を後回しにしていたっけ。まずはそれからだな。


《ステータスを表示しますか?》


 サポートAIさん……ちょっと張り切り過ぎだよ……でも、お願いします。


名前:クラウディート

種族:吸血鬼ヴァンパイア(始祖)

年齢:0歳

称号:邪神に呪われし者・ディーネに愛されし者

加護:ディーネの加護(弱)

技能:ユニークスキル『圧制者』(引斥力操作・空間認識)

          『支援者』(サポートAI・解析鑑定・思考加速・並列演算・

詠唱破棄・森羅万象)

 エクストラスキル「立体高速飛行」「血液操作」「状態変化:霧」

         「眷属強化」「業血」「闇視」

    スキル「気配察知」「隠形」「使い魔召喚」「怪力」

 魔法:「死属性魔法」「無属性魔法」(NEW)

 耐性:「光属性脆弱」「聖属性脆弱」「日光脆弱」

「銀鉱物脆弱」「闇属性無効」「死属性無効」

「病気耐性」(NEW)

呪い:「勇者スキル取得不可」「勇者覚醒不可」「下級魔物転生」


 ステータスにちゃんと名前が反映されているな。クラウディート……ディーネも良い名前をくれたものだ。ありがたや、ありがたや。


 種族は吸血鬼ヴァンパイアに進化したようだ。コウモリから人型に進化って。魔物の生態はよく判らんな。始祖ってことは、俺が最初の吸血鬼ヴァンパイアってこと? 俺以外に吸血鬼ヴァンパイアはいないの?


《存在していますが、世界全体でみれば希少種族のようです。なお現存する吸血鬼ヴァンパイアに始祖はおらず、〝血の契約〟によって変異した者のみであり、マスターと血の系譜は繋がっておりません》


 判らない箇所を訊くと、どうやら吸血鬼ヴァンパイアは生殖活動をせず、〝血の契約〟という自身の血を分け与えることで増える種族らしい。純粋な吸血鬼ヴァンパイアは始祖のみであり、他は全て他種族から変異した者達だけだそうだ。

 また〝血の系譜〟とは、所謂血族・眷属の事を指す。〝血の系譜〟に連なった者のみに「眷属強化」スキルの効果が発揮されるようだ。


 つまり、俺は生まれたての純粋な吸血鬼ヴァンパイアってことだ。二代目始祖って感じ。

 フハハハ、これから一族の繁栄だ! とかやれば出来るみたいだけど、面倒臭いのでそんなことはしない。


 ディーネという精霊に祝福された事によって、称号や加護が新たに加わった。ちょっと恥ずかしい称号もあるけど。モテる男は辛いねぇ、えへへ。


《……》


 つ、次いってみようか、うん。

 やっぱり最注目株はこれだろう。ユニークスキル『支援者』。ユニークスキル『圧制者』も少し変わっているので合わせて見ていこう。


『圧制者』

 引斥力操作……引斥力を操作できる。心理的圧迫から物理的圧迫まで、

 広範囲に効果を及ぼす。

 空間認識……空間を認識する能力。


『支援者』

 サポートAI……概念知性。マスターであるクラウディートのサポートをする。

 解析鑑定……対象の解析及び、鑑定を行う。

 思考加速……通常の千倍に知覚速度を上昇させる。

 並列演算……解析したい事象を思考と切り離して演算を行う。

 詠唱破棄……魔法行使の際、呪文の詠唱を必要としない。

 森羅万象……この世界の隠蔽されていない事象の全てを網羅する。


 サポートAIさんの説明をまとめると、以上のようになる。


『圧制者』に引力が加わったことで、戦闘の幅が広がったと思う。

 物は試しと、早速「引斥力操作」を使用。対象は小石だ。


「ほうほう」


 引力によって小石程度の重さなら簡単に手元へ引き寄せることが出来た。ただ、引き寄せる力が強過ぎて、掌がちょっぴり痛い。

 何度も試してみる内に、コツを掴んできた。ポイントは、合わせて斥力も使用すること。

 掌に衝突する直前に斥力を使用することで、運動エネルギーをゼロにし、掌にダメージを負わなくなった。ただ、発動タイミングが難しく、要練習である。


「空間理解」が「空間認識」に進化したことで、力点を自分以外の場所にも作る事が出来るようになった。

 例えば、地面に『圧制者』を行使すれば、敵の足止めなんかも出来そう。這いつくばれ、虫けらめ! なんて悪役プレイも出来そうである。……完全に敵役じゃん、俺。


 とまぁ、バージョンアップした『圧制者』。使い勝手が良くなったが、もっと練習が必要だと感じた。強力な分、習熟訓練を行わなければ色々と事故が起きそうだしね。


『支援者』に関しては、ホントサポート系だなと感じる。戦闘時は勿論、それ以外の場面でも多くの活躍が期待出来そうだ。

 試しに「解析鑑定」を使用してみよう。手の中にある小石を見てみる。


《……小石です》


 うん……。サポートAIさん、なんかゴメンね?

 よ、よし。気を取り直して、「思考加速」だ。通常の千倍に知覚速度を上昇させる、らしいが……。


『うむ。何か変わったのか?』


 正直、よく判らなかった。というのも、周囲に動く物体はないので、変化が感じられないのだ。


《試しに「思考加速」状態のまま、行動してみるのはどうでしょう? それならばよく変化を感じられると推測します》


 なるほど。確かにそれなら判り易いかも。

 サポートAIさんの指示に従って動いてみると……。

 おぉ! これは凄い! 本当にゆっくりと身体が動いているかのようだ。

 実際の動作速度は変わっていないので、戦闘時に瞬間的に「思考加速」を行うことにより、余裕をもって次の行動が選択出来ることだろう。良スキルだな、これは。

 更に「並列演算」を行うことで、戦闘中でも索敵及び戦闘といった複数の行動も同時に出来そうである。


 次いで「詠唱破棄」。まぁ読んで字の如くだろうし、軽く流して。

 最後に「森羅万象」だ。これがいまいちよく判らないんだよなぁ。

 この世界の隠蔽されていない事象の全てを網羅するらしいんだけど……。


「サポートAIさん、俺の従妹の薫がこの世界に来ているかどうか判る?」


 唯一、ずっと気掛かりだったこと――それは薫についてだ。勇者召喚されたであろう薫の現状は知っておきたい。もし薫が困っているのなら、俺が助けになってやらないと。


《マスター、申し訳ありません。ユニークスキル『支援者』に含まれる権能「森羅万象」を使用するには、実際に対象を視認、もしくは接触しなければなりません》


 そうか……それは残念だけど、薫なら大丈夫さ。強い娘だし。

 ちょっと期待した分、それが判らないとなるとショックが大きくなってしまうが、あまり落ち込んでもいられない。サポートAIさんが気にしてしまうしな。


 とりあえず、ユニークスキル『支援者』も、『圧制者』と並んで、とても強力なスキルだと言えよう。大いに俺の力になってくれそうだ。


《お任せ下さい!》


 ほら。サポートAIさんもやる気満々だしな。

 次いでエクストラスキルだ。新規に獲得したスキルを見ていこう。


 まずは「血液操作」。吸血鬼と言えば、血液を使って剣を作ったり、防御膜を作ったりして、カッコいい戦闘をするイメージがある。

 もしかして俺も出来るかもと、サポートAIさんに訊ねると。


《マスターが思い描いている戦闘行動は、形だけなら可能です。しかし、「血液操作」は、血液を操作するだけですので、戦闘に耐えられるとは考えられません》


 形だけって……そりゃ意味が無いよ……。

 サポートAIさんによると、もし自身の血液を使用した場合、失った血は回復しないとのこと。再び吸収するか、血液が作られるのを待つしかないみたい。

 吸血鬼が貧血で倒れるなんて、笑い話にしかならない。現実はそう甘くないってことか。


 お次も吸血鬼ならではの「状態変化:霧」だ。肉体を霧に変化出来るスキル。

 試しに使用してみると……おぉ、なんか変な感じだな。

 砂が崩れるかのように、肉体が霧に変化していった。霧になったのに、身体の感覚は残っている。これは……まさか……。


《肯定します。マスターのご想像通り、その状態で攻撃を受ければ、ダメージを負います。また、霧の一部を隔離されれば、その体積分、マスターのお身体は減少しますので、お気を付けください》


 やっぱり。これじゃあ戦闘には向かないな。表面積が増える分、被弾率が高くなりそう。使えるとしたら偵察くらいか。


 思えば、吸血鬼って再生系スキルっぽいのを持っていることが多いよな。「血液操作」にしろ、「状態変化:霧」にしろ、再生系スキルが前提のような気がするわ。


《再生系スキルの獲得を目指します……失敗しました。エクストラスキル「業血」に含まれる「血液回復」を基に、再度実行……情報量不足により、失敗しました》


 サポートAIさんが頑張っている……。俺が余計な一言を言ったばかりに。

 これからは発言により一層気を付けよう。じゃないとサポートAIさんが何かとんでもないことをやらかしそうだし。


《――スキル「自己治癒」を獲得しました》


 そんなことを考えていると、どうやらサポートAIさんがやらかしてしまった模様。一歩遅かったか。


《このスキル「自己治癒」を基に、再生系スキル獲得の解決案を模索します》


 いやいや、サポートAIさん? 新しいスキルを獲得しましたよ? まだ満足しませんか?


《現在、解析中……》


 おふぅ。なんとう向上心の塊か。「並列演算」まで行使して解析しているし。

 うん、もう気にしないことにしよう。やらかしてしまった過去のことよりも、やらかしてしまいそうな未来のことよりも、大事なのは今でしょ! ……あれ? なんか色々混ざった?


「眷属強化」は、文字通り眷属を強化するスキル。現在、俺には眷属はいません。なんで獲得した、このスキル?


 お次は「吸血」の上位スキルであろう「業血ごうけつ」。先程、サポートAIさんが言っていたように、スキル「血液回復」がここに含まれている。精霊――ディーネの血を吸血したから罪深いって事なのかも。「業」にはそんな意味が含まれていそう。


 エクストラスキルの最後は、「闇視」。これも「暗視」の上位スキルだと思われる。

 まだ視界が薄暗かった「暗視」だったが、この「闇視」では、まるで日中のように遠くまで見通せる。灯りが無くとも視界が確保出来るようだ。


 通常スキルである「使い魔召喚」、「怪力」、そして先程獲得した「自己治癒」。これらはパパッとみていこう。


「使い魔召喚」……小さい蝙蝠のような使い魔を召喚出来る。使い魔の瞳を通して見ることが出来る。

「怪力」……筋力が増強される。

「自己治癒」……自身の治癒速度が上昇する。


 この中で気になる「使い魔召喚」を実行。掌の上に魔法陣が現れ、そこに小さな蝙蝠が召喚された。

 どうやらこの使い魔は、俺の魔力から創造されているようで、感覚的に俺とリンクしているみたい。使い魔の瞳を通して、使い魔が見ている光景を俺も見ることが出来るみたい。

 今、使い魔を通して見ている光景は、俺の顔だ。ホント幼いなぁ、俺。まるで女の子みたいだ。

 召喚解除すると、蝙蝠は霧散する様に魔力へと戻った。中々使い勝手がよさそうなスキルだ。


 スキルは以上である。耐性については、見ただけである程度理解出来るので詳細はパス。


 そして、いよいよお楽しみである魔法についてだ。

 ディーネを驚かせてしまった魔法――「死属性魔法」。一体どのような魔法があるのだろうか。サポートAIさん、出番ですよ。


《現在、「死属性魔法」について、閲覧可能な情報はありません》


 な……んだと⁉ まさか魔法が使えないってことは……ない、よね?


《勿論、行使可能です。が、情報を閲覧不可能な為、一から魔法を構築しなければなりません。また「無属性魔法」も同様です》


 なるほど。とりあえず判った。魔法は使えるが、その魔法を覚えていないから使えない。使いたいなら一から魔法を開発しろってことね。


《その理解で問題ありません》


 くぅ~。ここに来てお預けになるなんて、ツイていないな。

 というか、俺に魔法を一から構築なんて出来るのだろうか……不安だ。


《マスター、御安心下さい。ワタシがサポートしますので》


 おぉ、サポートAIさん! ホント頼りになるぅ!


《エヘヘへ》


 ……。え? 今の何?


《マスターの反応を解析した結果、相応しいであろう反応を示してみました》


 えっと……出来れば、というか絶対に俺の反応を模倣しないで! 照れた時の反応だろうが、平坦な声音から《エヘヘヘ》は不気味だわ。


《承知しました。以後、気を付けます》


 うむ。気を付けてくれたまえ。

 では、気を取り直して。早速魔法を開発していこう。頼むぞ、サポートAIさん。


《お任せ下さい。では、まず、マスターにはスキル「魔力感知」の習得をお願いします》


 へ? ま、魔力感知、ですか?

 どうやら魔法への道程は、まだまだ遠いみたいだ。


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