第五話 打倒ドレイク
うぅ~……身体が痛ぇ……。
目が覚めると、俺は全身を苛む激痛に悶える。
なんでこんなに身体が痛いんだ? 寝違えて……あぁそうか。そういやドレイクに嬲られたんだったか。
思い出すのは、一方的にやられてしまったドレイク戦。全く歯が立たなかった。
初めての敗北だ。胸に去来する敗北感、そして屈辱。
クソッ。勝てるとは端から思っていなかった。だがそれでも、多少なりとも善戦出来るとも思っていた。なのに結果はどうだ? 惨敗じゃねぇか……クソ……。
順当な結果だとは思う。思うが悔しいものは悔しいのだ。俺は負けず嫌いだからな。
え? ムカデの魔物から逃げたじゃないかって? あれは戦略的撤退だったわけで、戦って負けた訳じゃないからノーカンなのだよ。
とにかくまずは回復しないとな。という事で、ソナー探知をして手頃な獲物を見つけた後、俺は「吸血」によって回復した。
さて。これからどうするかなぁ。当初の目的としては、この洞窟から出ることだった。だから別にドレイクを倒すことはしなくてもいい。いいんだけど……。
「ピピピィ、ピィピィ(負けたままじゃ、終われないよな)」
感情的な部分で納得出来ないのだ。あのドレイクに負けたままでは。
それに気になる事もある。地底湖に在った青く輝く謎の球体の事だ。それを目にした瞬間に湧き上がってきた切なげな焦燥感は一体何だったのだろうか。
ん~……よく考えてみても判らない。謎だ。ただあの先に行かなくては、と小さな焦燥感が今でも心の隅に燻っているのは確かだ。
この得体の知れない感情を放置しておくのは、まずい気がする。それに直感だけど、あの青く輝く球体に触れさえすれば、この疑問や感情を解消出来る気がするんだよなぁー。
よし、決めた! ちょっと寄り道にはなるけど、ドレイクを倒し、その先に行くことを今後の目標にしよう。それまで外はお預けだ。
あのドレイクは、この洞窟内に存在するどの魔物よりも強い。何せ魔法まで使ってみせたんだから。ムカデよりも確実に強いだろう。
今挑んでも返り討ちが目に見えている。焦る気持ちはあるが、ここはジッと感情を抑えて、地道に努力していこう。
現時点で倒せるのは狼の魔物まで。なら、まずは蛇の魔物を無傷で倒せるようになることだな。その次はムカデの魔物。そしてドレイクだ。
よし、やってやるぞぉ!
◇
決意を新たにしたあの日から、約半年もの時間が経過した。未だに俺は洞窟内に留まっている。
約半年もの間、俺が一体何をしていたのかって? それは勿論レベリングさ。
激戦に次ぐ激戦の日々。時には命辛々撤退をし。時には死闘を繰り広げ。それはもう涙なしには語れない壮絶な毎日だった。
日々の戦闘に疲れ果て、心が折れかけた。一体何で俺はこんなにも辛い思いをしているのだろうかと。
その度に思い出す。あの屈辱的な敗北を。必ずリベンジすると誓ったあの決意を。
そして今日。とうとうリベンジを果たす時がやってきた。
地底湖に続く道を行く。やれることは全て試し、準備は万端整った。後はあの憎きドレイクを倒すだけ。
緊張で震える? いいや、これは武者震いだ。この時をどれだけ待ち望んでいたか。
ふぅと深呼吸。高鳴る鼓動を抑え、俺はゆっくりと地底湖へと歩み出した。
半年前に見た幻想的な光景は変わらず。神秘的な地底湖が俺を出迎えてくれる。そして、地底湖の中央に燦然と輝く青い球体が。
それを視認した時、やはり胸の奥底から湧き上がって来る謎の焦燥感。
……落ち着け。慌てるな。まだだ。
湧き上がる焦燥感を制御し、平常心を心掛ける。戦いに焦りは禁物だ。
パタパタと羽ばたき、輝く球体にゆっくりと警戒しつつ近付いていく。
確かこの辺りでドレイクが――。
「ガァァァアアアア!」
怒りの籠った咆哮を上げながら、ドレイクが地底湖から飛び上がってきた。
鋭い牙が並ぶ顎が迫り来る。が、俺は難なく回避する。それも掠めるようにギリギリで。
タイミングばっちり想定通り。そしてこの一瞬が絶好のチャンスッ!
「ビビビィィ!」
すかさず衝撃波を放つ。地底湖から飛び上がったドレイクの側面を強かに打ち付けた。
「ギャァッ⁉」
短い悲鳴を上げ、ドレイクは吹き飛んでいく。その先は、地底湖のほとりだ。
よし! 第一段階成功。このまま追撃だ!
容赦なくドレイクに追撃を掛けつつ、内心で俺は作戦の第一段階が成功したことに安堵していた。
ドレイクと再戦するにあたって、必ず達成しなければならないと考えた課題は、ドレイクを地底湖の中から陸へ、引き摺り上げることだった。
何故、ドレイクを陸地へと誘導しなければならないのか。二つ理由がある。
一つ、アドバンテージを確保する為だ。空中VS水中ではアドバンテージを活かしきれない。
二つ、もしドレイクを追い詰めることが出来たとしても、逃げられる可能性があることだ。例え俺が圧倒していても、水中に逃げられてしまったらそれ以上の追撃は不可能になる。
以上、大まかな二つの理由からドレイクを陸地へと誘導しなければならないと考えていた。
あとはタイミングをどうするべきか考えた時、思い出したのはドレイクの初動である。
俺が青い球体に近付くと、ドレイクは地底湖から飛び出してきた。それがあの時だけのものだったのかは判らない。判らないものの、その瞬間が絶好のチャンスでもあることは間違いなく、出来れば同じ行動をしてくれ、と願っていた。
一種の賭けだったのだが……どうやら賭けに勝った模様。ここしかないという絶妙なタイミングで地底湖のほとりへと吹き飛ばせた。
「グルゥゥゥ」
陸揚げされてしまったドレイクは、何度も地底湖の中へと戻ろうと試みている。が、そう簡単に逃すものかと、俺は牽制し続け、ドレイクを地底湖に近付けさせない。
悔し気なドレイクの唸り声が、非常に耳に心地良い。思わず俺はニヤリと口角を上げる。
「グルゥゥ……ガァァアアア!」
俺の得意げな雰囲気に気付いたのか、瞳の奥に怒りの炎を灯して咆哮を上げるドレイク。
その咆哮は確かな衝撃波となって迫って来るが、俺は難なく単発の「
直後、速射性が向上した衝撃波を連続で放ち、ドレイクを強かに打ちのめした。
「グルゥッ⁉」
思いの外、痛痒を感じたのだろう。呻きつつドレイクは驚愕している模様。
ふっふっふ。この半年間、俺がどれだけ衝撃波を撃ってきたと思ってんだ。威力も増し増し、速射性も増し増しだ!
「ビビ、ビビビィィ(喰らえ、乱れ撃ち)!」
声高らかに鳴き、連続で衝撃波を放つ。
「ガァァアアアア!」
上下左右どこからともなく飛来する衝撃波に、堪らずドレイクは悲鳴を上げた。
フックのように横殴りにされ。地面に打ち付けられるかのように上からも殴られ。顎をかち上げられるように仰け反る。
途切れることなく打ち付けられる衝撃波に、ドレイクは翻弄されている。
圧倒的優勢。何せ一切の反撃さえ許していないのだから。だがしかし……。
チッ。このまま圧殺出来れば万々歳だったのに。思ったよりも効いていないぞ。
ひしひしと感じる殺意の視線。翻弄されているはずのドレイクの瞳が、ずっと俺から離れないのだ。
その瞳が物語っている。隙を見せたら噛み殺すぞと。
「ビィィィィイイ(うぉぉぉおおおお)!」
ドレイクの殺意に晒されて、思わず俺は叫ぶ。まるで恐怖を払拭するかのように。
飛来する衝撃波のペースが上がり、更に威力が増したはずだ。しかし、それでもドレイクの瞳の炎は消えない。
判っている。このままじゃあ勝てないと。
ならどうするのか。答えは一つだけだ。
出来れば、やりたくなかった。でももうやるしかない。それしかこのドレイクに勝てやしない。
ふぅと一呼吸。よし、覚悟は決まった!
覚悟を完了させると同時に、衝撃波を放つのを止めた。暫くは我慢の時間だ。
その瞬間、ドレイクがニヤリと嗤う。
「ガァァアアア!」
反撃に出るドレイクは水球を連続して放った。
飛来する水球をバレルロールで躱していく俺。
苛立った様子のドレイクは、更に水球の数を増やしていく。が、それでも「立体飛行」を極めた俺には当たらない。
それは前にも見たぞ、ドレイク! そんな攻撃は俺には当たらない!
水球の威力は相も変わらず脅威的だ。しかしながら、直線的な軌道は読みやすい。体力が続く限り、避け続けることが出来るだろう。
身体能力を発揮出来る近接戦闘は、俺が一定の距離を保っている為、それも不可能。ドレイクに残された手段はあと一つしかない。
撃ってこい、ドレイクッ!
挑発的な眼差し。それを感じ取ったのか、ドレイクは大きく身体を仰け反らせた。
初遭遇時に見た、俺に多大なるダメージを負わせた
水球とは比にならない高い速度を誇る
仰け反ったことで露になった胸部が、力を溜めるかのように大きく膨らみ、そして――。
「ガァァアアアア!」
――怒号と共に、水の
迫り来る圧倒的な脅威。しかし、その
ドレイクが
初遭遇時に、ドレイクの
後はドレイクが
目を見開いて驚愕する俺。思い掛けない暴挙に出たドレイク。なんと継続して
なんて無茶なッ! 出鱈目過ぎんだろッ!
ドレイクの予想外の行動に驚き、俺は慌てて回避行動を取った。
横薙ぎに振るわれる
考えもしなかった行動に翻弄される俺。なんとかバレルロール飛行で躱してく。
焦ったぁー……。まさか
とは言え、だ。想定外だったが、振るわれる速度はそれほど速くない。落ち着いて対処すれば直撃することは無さそうだ。
それもそうか。如何に
そんな考察をするほど、今の俺には余裕がある。後は
ドレイクの猛攻を凌ぎつつ。そして……待ちに待った瞬間が訪れた。
ドレイクが
「ビィッ(今だッ)! ビビィ、ビビビビィ(喰らえ、『圧制者』ッ)!」
力を溜めに溜めた俺はその一瞬の隙を見逃さず、とっておきの能力を発動させた。
――ベギッ……ベギゴキガゴゴーン!
鳴り響く凄絶な圧殺音。勿論その音の発生源はドレイクからだ。
四肢を砕き、長い首はあらぬ方へ折れ曲がり、圧力に耐え兼ねて臓腑を撒き散らす。
シンと静まり返る地底湖。微かに羽ばたく音だけが響く。
勝った……勝ったぞ! 俺はドレイクに勝ったんだ!
「ビビビィィィィィイイ(うぉぉぉぉおおおお)!」
勝鬨を上げる俺。胸に去来する満足感。
ここまで長かった……。長かったけど、リベンジを果たせた。感無量だ。
暫く勝利の余韻に浸った後。俺はとても形容出来ないモザイク必須のドレイクの亡骸に近付く。
うへぇー。やっぱり『圧制者』を使うと、ぐちゃぐちゃになるな。まぁ全力で放ったから仕方ないけどね。
さて。勝利の美酒――俺の場合は血液だな。それを味わいながら、気になっているだろう俺の能力について説明しよう。
取り敢えずステータスの確認から。
名前:――
種族:ヒュージバット
年齢:0歳
称号:邪神に呪われし者
技能:ユニークスキル『圧制者』(NEW)(斥力操作・空間理解)
エクストラスキル「立体高速飛行」(NEW)
スキル「吸血」「血液回復」(NEW)「気配察知」「隠形」(NEW)「暗視」(NEW)
呪い:「勇者スキル取得不可」「勇者覚醒不可」「下級魔物転生」
かなり変わっているだろ? 半年間めちゃくちゃ頑張ったからな。
種族はヒュージバットという体長一メートルもある巨大な蝙蝠だ。実は二段階進化しているんだよね。レッサーバットからバット、ビックバットを経て、そしてヒュージバットへと進化した。
各種スキルも進化したり、新たに取得したりと、中々目覚ましい成長を遂げているのではないだろうか。
一番気になるであろうスキルは後回しにして。まずはエクストラスキル「立体高速飛行」から……だけど、まぁ説明するまでもないかな、うん。だって〝高速〟が付いただけだもん。
一応、一応詳しく説明すると、飛行速度が上昇し、機動性が格段に増した。『それは残像だ』ごっこも出来るよ?
次いで新しく取得したスキル「血液回復」。
以前から「吸血」による回復効果はあった。その効果が独立してスキルになったみたい。スキルとして確立した事で、以前の数十倍の治癒効果が得られるようになっている。
「隠形」は「隠身」の上位スキル。「暗視」は暗闇でも視界良好になるスキルだ。「暗視」を獲得した時に、バットステータスだった「弱視」は跡形もなく消滅した。
そして、一番の目玉――ユニークスキル『圧制者』だ。読み方は「あっせいしゃ」または「あっするもの」と読むらしい。
ユニークスキル『圧制者』は複合スキルのようだ。「斥力操作」、「空間理解」が含まれている。
このユニークスキルを獲得したのは、つい最近のこと。洞窟内の魔物を狩り尽くしている時に突然獲得したのだ。ホントいきなりだった。何の前触れもなかったもの。
魔物との戦闘中、突然「
なので、どんな原因でユニークスキルを獲得出来たのかは、一切不明のままである。
多分ステータスに表示されなくなった「超音波操作」と「
ユニークと銘打つからには、俺個人だけの特別なスキルなのだと思う。類似効果のあるスキルは世界のどこかに存在しているかもしれないが。
ユニークスキル『圧制者』、ホントマジでヤバヤバな能力なのだ。
心理的圧迫から物理的圧迫まで、俺の視界全てに効果を及ぼす。そう、視界全てに、だ。
ヤバいでしょ? 視線だけで相手を圧殺することが可能なのだよ。もはや魔眼といっても過言ではない。
この『圧制者』の実力は、無残なドレイクの死骸で証明出来ただろう。洞窟内に棲息している内、最強格だったドレイクがこのざまなのだから。
ただ、強力なスキルな反面、発動まで時間が掛かるのが欠点かな。生物を圧殺するには、時間を掛けて力を溜めないといけないみたい。
まぁこれは俺がまだまだ『圧制者』を使い熟せていないからだと思う。この『圧制者』が俺の生命線になりそうだし、もっともっと習熟訓練をしなければ。
それはともかく。そろそろ体力も回復した事だし――ドレイクの血液は、案外さっぱりとして口当たりが良かった――、目的を遂行しますかね。
振り返るとそこには、相も変わらず燦然と輝く青い球体が鎮座している。
視線を向けると同時に、激しく明滅する球体。まるで俺を呼んでいるかのように。
戦闘中、抑えていた焦燥感が強くなり。それに抵抗することなく従った俺は、青い球体へと近付く。
一体これは何なのだろうか。触れれば判る気がする……この胸を焦がす衝動の意味が。
ゴクリと緊張を飲み込んだ俺は、恐る恐る球体に触れ――。
「ビィ、ビィィイイイ(目、目がぁぁああ)!」
――その瞬間、眩く光が放たれ、どこぞの大佐の如く悲鳴を上げる俺だった。
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