二刀流~絶望から希望への物語~

菅田山鳩

第1話

【二刀流】(にとうりゅう)

二つの異なる手段をもって、事にあたること。


①時計を確認すると、ちょうどすぐ電車が来るようだ。

これは運が良い。


②電車に乗り込むと、人が多く、とても座れる状況ではなかった。

仕方なく、手すりを掴んでおく。


③疲れた。

入社して3年。これと言った成果も出せず、ここまできてしまった。

今週も怒られてばっかだったな。

「はぁー。」

自然とため息が漏れる。


④手すりに頭をぶつけたようで、ハッとする。

いつの間にか寝てしまっていたらしい。

やばい、と思って時計を確認したが、降りる駅は過ぎていないようで安心する。


⑤近くに座っていた、高校生らしき二人の話し声が聞こえてきた。

「昨日の試合、見た?」

「試合?あー、野球か。見てない。俺、野球わかんないから。」

「まじかよ。投げてよし、打ってよし。まさに二刀流ってやつだよ。」

だいぶ声が大きく、自然と会話が漏れ聞こえてくる。

「二刀流ねー。あ、二刀流って言えば、もともとの意味知ってる?」

「もともとの意味?あれだろ、両手に刀持って、二刀流ってことだろ。字のままじゃん。」

「確かにそれもある。でも、酒も甘いものも好きなこと、っていう意味もあるらしい。」

「さけって酒?」

「あぁ、アルコールの酒。」

「と、甘いもの?何でそれで二刀流?」

確かに変な組み合わせだな。

いつの間にか、二人の会話の内容について考えていた。

「いや、そんな深いところまでは知らない。

この前、調べたらそうやって載ってたってだけだから。」

「へぇー。なんかしっくりこないな。」

「まぁ、言葉の意味なんて、だいたいそんなもんだろ。」

「それにさ、よく考えたら、酒と甘いものなんてみんな好きだろ。」

みんなってのは言い過ぎだけど、一理ある。

「みんなってことはないと思うけど、確かに好きな人は多いだろうな。」

「ってことは、だいたいの人は二刀流ってことになるんだろ?」

「まぁ、言葉の意味から言えば、そうなるな。」

「なんだよ、二刀流って案外楽勝だな。」

「でも、俺たちは無理だろ。」

「なんで?」

「いや、だって酒無理じゃん。」

「そーだった。酒無理じゃん。くそー。え?じゃあ、俺たちは20過ぎるまで、真の二刀流にはなれないってことか?」

「真のってなんだよ。別に、二つのことを極めるっていう二刀流ならなれるだろ。」

「バカかお前は。それが無理だから別の方法でって考えたんだろ?」

「だろ?ってなんだよ。別に俺はそんなこと言ってねぇよ。」

「あぁーあ。俺もはやくビールに饅頭合わせてぇーな。」

「さすがにその組み合わせは合わないんじゃねーの。」

「合うとか合わないとかじゃねぇーんだよ。真の二刀流になるには必要なことなの。」

「はいはい、もういーわ。」


⑥楽しそうな会話をもう少し聞いていたい気持ちはあるが、次の駅で降りなければいけない、

電車を降りてすぐ、ホームの売店でビールとチョコを買った。

プシュッ。

たまらず、その場で流し込む。

すかさずチョコを一口。

チョコの甘さとビールの苦味がちょうどよく絡み、スッと消える。

うん。確かにいける。これはクセになりそうだ。

気付けば、ビールを3缶、チョコを2袋たいらげていた。

酔いが良い感じに回り、いい気分でふらふらと歩きだす。


⑦『まもなく電車が参ります。ご注意ください。』

電車の光がだんだんと近づいてくる。


⑧ドンッと鈍い音が鳴った。

何かがぶつかったようだ。


⑨電車が停車する。

ホームは人で溢れ、パニック状態だ。


⑩「あのサラリーマン、かなり疲れてたな。」

「あぁ、ため息までついてたからな。」

「けど、本当に効果あるのか?」

「ある。完全にこっちの会話聞いてたし。」

「まぁ、聞いてはいたっぽいけどよ。」

「そろそろ、一杯やってる頃だと思うぞ。」

「だと良いけどな。」

「これで疲れからは解放されるだろ。」

そう言った顔は、少し笑っているように見えた。


⑪電光掲示板には、

【遅れ約120分】

と表示されていた。


残念ながら、酒に酔ったサラリーマンは

線路に転落し、命を落とした。


ただ、同じ内容でも

順番させ違っていれば。


というわけで、次は

⑪→①→⑦→⑨→②→③→⑧→④→⑤→⑥→⑩


絶望は希望へ。

案外、ちょっとした発想の転換が鍵を握っているのかも。

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二刀流~絶望から希望への物語~ 菅田山鳩 @yamabato-suda

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