第27話 助かる道
「ティアーモ…」
「明らかにお前らの様子がおかしかったからな。何度もいなくなったバカ共と一緒に大嫌いなニンジンを食う夢を見ると思ったらアレは現実か。…はっ、最近、なんとなく眠った割に疲れが取れねぇなと思っていたが、合点がいったぜ。要するに夢遊病みたいなもんってことだろ?」
どうやらサンチョたちの話を聞いていたらしいティアーモは頷く。
「…俺が全ての元凶なんだな?」
「パパ…違う…!!」
おかっぱは顔を真っ青にしながら首を振る。
「パパは悪くない。悪いのは『
「どこにいるかもわからねぇ宝石商のおっさんを探してる間、俺のさらってきた連中はどうなる?お前らの話だと、そのニンジンゾンビとやらはこうしてる今も宝石ニンジンっつー、ドラッグをせっせと作ってるんだろ?」
「それは…」
ティアーモの言葉におかっぱは言いよどむ。
「オヤジや兄貴、それにうるせー幹部どもがいなくなったのも俺が原因。ファミリーから消えたと思っていた奴らを拉致ってたのも俺。今、地下にいる連中は全員生きてるのか?」
「………ごめん、パパ。俺にもそこまではわからない。時々意識を取り戻すことがあっても記憶があるのは一部だし、毎回意識が戻るわけじゃないんだ」
おかっぱは申し訳無さそうにうつむいた。
「なら、なおさら早く動かねぇとやべぇかもしれねぇ。ニンジンだけ食って1年人間が生きられるか?ベジタリアンだってもう少しまともなものを食ってるぜ?」
「…確かにニンジンゾンビたちは地下で宝石ニンジンだけを食べて暮らしているとすれば、栄養失調もそうだが、病気や怪我などになった者がいないとは考えがたいな」
サンチョもティアーモの言葉に頷く。
農園に捕らえられた者の中にはすでに死んでしまった者もいるかもしれない。しかし、流石のサンチョもそこまでは口にはしなかった。
「…ニンジン農園に食料を持っていったり、外に連れ出したりするのはどうだ?」
サンチョが提案するが、ティアーモは首を横に振った。
「
「…農園に行けばその瞬間、意識を失う。お前も体験しただろうが、ニンジンを目の前にしたらニンジンのことしか考えられなくなるんだ。仮に食料を運べたとしてもまずニンジンゾンビは見向きもしないだろうな。農園の外に連れ出すのも難しい。一つ間違えればニンジンゾンビパンデミックが起こる」
「ガスマスクでもして、失踪者を全員捕らえてからニンジン農園を焼却してしまえばいいんじゃないか?」
ガスマスクをすれば宝石ニンジンの匂いによる中毒症状も抑えられる筈だとサンチョは指摘する。
「残念ながらそれを実現するには問題が2つある。1つはそれだけの騒ぎを起こせば、他のファミリーにつけ入る隙を与えること。もう1つは宝石ニンジンの中毒症状だ」
「…?」
おかっぱは自分の服をたくし上げて2人に腹部を見せる。
見事に鍛えられ6つに分かれた腹筋には赤いラインが横に走っていた。
「なんだ?急に…。腹筋の自慢か?」
「その赤い傷…腹にガムテープでも貼り付けて剥がしたのか?」
ティアーモとサンチョが各々尋ねるとおかっぱは首を横に振った。
「違う。…中毒症状が出るのは決まって寝た後だから、寝る前に全身を拘束して農園に行けないようにしてみたんだが…」
朝起きるとベッドを見ると拘束具を全て引きちぎっていたらしい。
「日中は意識を失うことはないのか?」
「今の所は、だが。恐らく宝石ニンジンも自分が育つ上で、農園の近くにいないニンジンゾンビについては寝るまでは支配しないことにしているんだろう。その方が自分の存在に気づかれにくいからな。意識を失っている間に農園に行って、俺とパパは朝までには帰ってきているってことらしい」
「植物のくせに知恵を巡らせやがる。だからニンジンは嫌いなんだ」
それを聞いたティアーモが吐き捨てるように言った。
「…宝石ニンジンにありつくためならば、鋼鉄でできた拘束具を素手で引きちぎるニンジンゾンビだ。特にパパは『
おかっぱが苦い顔をする。
「ならば尚の事、この問題はファミリーで対処できる範囲を超えているんじゃないか?」
「いや…仮に周りに助けを求めたとして、パパやニンジンゾンビとなったファミリーの安全が保障されるわけじゃない。俺たちでできることをまず試さなければ」
「その通りだ」
ティアーモは頷くと、自分の拳銃をこめかみに突きつけ、引き金に指をかける。
「まずは宝石ニンジンがこれ以上作れないように俺が死ぬ。後のファミリーはお前に任せるぜ、アッラ=モーダ」
「まっ…」
制止しようとするおかっぱが口を開いた瞬間…
ドン……………!!!
一発の銃声が聞こえ、ティアーモはこめかみから血を流してその場に倒れ込んだ。
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