第7話 業火


 奏絵が車を停めたのは、街外れにある小高い緑地の麓だった。


「……ここは?」


「来たことない?」


 わたしは「わからない」と首を振ると「それより話って、なに?」と逆に聞き返した。


「それはこの先に行ってから話すわ」


「この先?」


「展望台があるのよ。知ってると思ってたけど」


「展望台……」


「信じたくなければこの場でわたしを刺してもいいわ。……もっともそうしたら私の話は永遠に聞けずじまいになるけど」


 奏絵はそう言うと、緩い勾配になっている道をすたすたと上り始めた。


「あれよ。あの一番上のところまで行ったら、私の仕事は終わり」


 奏絵が言った通り、斜面を登り始めてほどなく前方にコンクリート製のこじんまりとした展望台が現れた。


 階段を上り終える直前、わたしは展望台の上で誰かが待ち構えていることに気づいてはっとした。……やはり何かの罠か?


「――あっ」


 待っていた人物を見るなり、わたしは刃物を持っていることも忘れてその場に固まった。


「待っていたよ」


 展望台の先に立ってわたしを見つめていたのは彼――響也だった。


「これはいったい、どういうこと?わたしを騙したの?」


「そうじゃない、ここが僕らのゴールなんだ。……後ろをごらん、どうしても君に会いたいっていう人が来ている」


「わたしに会いたい?」


 わたしがはっとして振り返ると、展望台の入り口に一人の中年男性が立っているのが見えた。その穏やかな風貌を見た瞬間、わたしはどこかで会ったことがあるような奇妙な既視感を覚えた。


「あなたは……誰?」


 わたしが尋ねると、男性はほんの少しだけ寂し気な表情を浮かべて「はじめまして、塚本進つかもとすすむと言います。響也の父です」


「お父さん?」


「久しぶりだね、和音かずね。会えば思いだしてくれるかと思ってたんだが……」


「和音?何か勘違いしてるんじゃないですか?わたしは九重円花です」


 わたしが勘違いを正すと突然、奏絵が間に割って入り「どうやらここまでのようね、『お母さん』」と言った。

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