第四章『鉄の弾/或いは英雄願望』

第087話『いつも通りの日常、或いは意外性』

 いつも通りの日常が、再び始まる──。

 伊織は身支度を整えて、フレイメリアと朝食を食べつつ、他愛のない会話を弾ませる。

 何処までも、何処までも。

 平穏で無鼓動で、他愛のない日常であったのだ。


「──いってきます」

「いってらっしゃい!」


 家を出た伊織は、いつもの通学路を歩いて行く。

 人並木に沿って歩いて行く様模様は、平穏そのもの。

 人はそんな時にこそ、特別なイベントを求めたがるものだが、果たして何が良いのだろうか。

 

「……」


 電車のガラス窓から、日々の景色を眺める。

 いつもの日常──。

 少し前に数多の"ケモノ”に襲撃される一大事件が起きたが、それも今となっては昔の話。平穏となった日常において、忌避される余分なものでしかないのだ。

 賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ──。

 もっとも、こうして生きている人生の中で、そうそう学ぶ連中なんて、ごく少数の話でしかないのだろう。


「──別に、それがどうって話でもないけど」


 日々の異常性なんて、知らない方がマシだ。

 ただただ、は、平穏な日常を見ているのだった。



 /2



 あれから、少しばかりの時間が過ぎた──。

 人並木の   は、最初こそスーツ姿の人たちが多かったが、今となっては伊織と同じ制服を着た生徒たちばかりが目につく。

 あれから数日が過ぎて、今は平日だ。

 制服を着て学園に通うなんて話、ごくごく当たり前の事であったのだ。


「──あっ! 伊織さん、おはようございます!」

「おはよう、蓮花さん」


 そして伊織は、昇降口で蓮花と合流をした。

 憑き物が取れたかのような、とても爽やかな笑み──。

 だがそれは、蓮花が勝手に自己完結をした上での結果だ。

 少なくとも伊織には、関係のない話だろう。


「──そう言えば伊織さん。この前、駅前の広場から少し外れたところにあるショッピングモールが完成したの、知ってますか?」

「ショッピングモール? 知らないが。でも確か最近、"ケモノ”の襲撃で絶対予定より遅れてるだろ。よく開店出来たよな」

「えぇ。それには私も驚きました」


 確か、前に涼音と一緒にいろんなところを回った際に、伊織は横目で見た事を思い出す。

 あの時は、外装はしっかりとしていて気にはなっていたのだ。

 とはいえ、伊織の予想では開店はもう少し先のような気がしていただけに、ある意味予想外であった。


「だが、何しに行く? 私は特に買いたいものはないですが」

「……──はー」


 予想外というか、ある意味予想内というべきか──。

 真顔なままな伊織と、顔を歪ませて溜息をつく蓮花。

 そんな変な表情をしていると顔が歪むとか伊織は思うのだが、あまりそういう話ではなさそうだ。


「──涼音さんとかカレンさんから、伊織さんと一緒に買い物を行ったと聞きましたけど、私にだってちょっと」

「……何不貞腐れてるんだよ」

「別にー、不貞腐れていませんけどー」


 言葉の内容とは別な、完全に不貞腐れている蓮花──。

 確かに、思い出してみれば、伊織は蓮花と一緒に買い物や何処かに行った事はなかった。あるとすれば、カレンや涼音に無理やり付き合わされたり、フレイメリアと一緒に買い物に行った程度か。



「──ん?」



 そこで、色々と思考を巡らせた伊織が、自らその思考をクリアにする。

 手に持ちを片付けていた手が止まり、先ほどまで蓮花と話していた内容は何処か飛んで行った具合だ。

 あまりにも衝撃的な出来事──。

 だが、伊織の下駄箱に入っていたを見れば、致し方ないという話だ。


「……──手紙、か?」


 そう、伊織のロッカーには、一枚のが入っていた。

 白い封筒に入って、更には印まで押されている手紙。何時の話だと云わんばかりの、ある意味古典的な物であった。

 伊織は、それが何かは分からない。

 だが、そんな伊織の手にした手紙を見た蓮花は、どうも心当たりがあるようだ。


「──これってもしかしてっ! !?」


 その事実を言った蓮花の方が、その表情を赤らめる。

 対して、表情を特に変えていない当の伊織はというと、何処かを考えていた。


「伊織さん! もしかして、告白されるんですか!? でもやっぱり、告白をするんでしたら、体育館裏とか浪漫ありますよねー!」

「違うと思うけど。前に貰ったラブレターなんかより、上品な物を使っているし。そもそも、イマドキ古典過ぎないか?」

「えー、そうですかね?」


 それでも蓮花の興味の先は、伊織の持つ手紙とやらに釘付けだ。

 手紙かラブレターかは兎も角として──。

 確かに、内容を確認しない事には、その手紙の正体が分かる事はない。

 だがもし、先ほどから伊織自身が気になっているの正体が分かれば、まだ話は早かったのだが。



「──さて」



 伊織は、手紙の封をペーパーナイフで開ける。

 封筒の中には、一枚の紙きれ。

 そして、伊織が手紙の内容を確認するために、折りたたまれた紙きれを開き──。


「あぁ。そういう事だ」


 当の伊織は納得をした。

 それなら、態々という回りくどい一定の行動に納得できる。


「──伊織さん。内容どうでしたか?」

「あぁ。招待状──つまりがだそうだ」


 そして、伊織の予想が正しければ、だろう。

 虎穴に入らずんば虎子を得ず──。

 もしも、先が不透明で暗闇であれば進むに躊躇うものだが、家紋まで刻んだ手紙をよこすぐらいだ。

 死地の具合は、万遍なく確認済みだろう。



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 お疲れ様です。

 感想やレビューなどなど。お待ちしております。


 

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