幕間『人よ、幸福に生きよ──』
誰かは、幸せを願った──。
自分自身の幸せを。
誰かの幸せを。
そして、みんなの幸せを。
──人よ、幸福に生きよ。
けれど、それが実現する事はない。
人は己の飲み干せる以上の幸福をも求めだして、最後は吐き出す。
気持ち悪くなって、それでも取り込もうとして。
──最後には、無様にも死ぬ。
幸せだったのだろうか。
不幸だったのだろうか。
生きたかったのだろうか。
死にたかったのだろうか。
それは、人それぞれだ──。
でも人は、それでも幸せを追い求める。
「──人の生は、死と苦しみだけ」
車椅子に座る彼女の人生は、碌でもないものだ。
魔術と呼ばれる神秘が年々薄れていく世界で、それでも彼女の家系は足掻き続けていた。
魔術術式を強固にし。
魔術の現代との親和性を高め。
そして最後には、彼女自身を生贄として差し出した。
──後悔がなかった訳ではない。彼女自身に、人としての幸せは、もう一生訪れないのだから。
「──そんなものか兄妹? 楽しければ良いっしょ、別に」
白髪の青年の人生は、喜劇に満ちていた。
彼の人生は、まるで群像劇のようなもの。
楽しみ、楽しみ尽くして──。彼の人生は、傍から見れば幸せに満ちている事だろう。それだけ彼は、その人生は楽しみ尽くしていた。
だが、彼の人生は同時につまらなかった。
他者から見れば、幸福を望み過ぎだと思うかもしれないが、それはお互い様と言う話だ。そこに、善悪や量の差なぞ存在しない。
ただ白髪の青年は、幸せに生きたいがために生きているのだ。
「──まぁそんなものさ。人の生死なんてサイコロの偶数の目ぐらいに出るものだから」
白衣の女性は、短い生ではあるものの、様々な別れをした。
可愛がってくれていた魔術師の両親。
幸せに育って欲しかった、可愛い息子と娘。
彼女の人生を捧げても良いと思えるほどの、最愛の彼。
その他、親しい人を全て失った彼女の心は、既に伽藍洞だ──。
生きていて欲しかった。
幸せになって欲しかった。
伽藍洞な白衣の彼女が、今もまだ生に執着している理由は、その贖罪だ。
「──だからこそ、我々が生きとし生ける人類全てを救済をする。たとえそれが、間違いだったとしても」
長い金髪を垂らす彼は、生きる理由が存在していなかった。
無意味に生きて、無意味に死ぬ。
それが人生だと諦めていた時に、金髪の彼は人生の指針を照らしてくれた一人の女性とであった。
恋はしない、けど尊敬をした。
短い間ではあったものの、彼女の思想に共感をし、亡き今はそれを叶えようと足掻く、一人の青臭い青年だ。
「──人よ、幸福に生きよ」
──彼等の名は、"ウロボロス”。
円環の理から抜け出そうとする、人類最後の幸福への探求者であった。
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お疲れ様です。
感想やレビューなどなど。お待ちしております。
一応、今話とこれまでのあらすじで、第三章『鳥ノ謳』が終了しました。
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