第078話『真子島攻略作戦8・謳いや謳え』

──真子島巣穴付近にて。



 別の場所では、蓮花とカレンが会合する頃。

 伊織と涼音が待ち合わせをしていると、突然らしきものが現れた。こういった超常的な話であれば、よくフィクション小説で聞く魔法陣の類なのだが、見慣れない方陣というのがより不気味さを増す。

 しかし、伊織と涼音に動揺の様子はない。

 ──何故なら、彼女等はこの事態を知っているのだから。


「──あぁ。もう休憩時間は終わり、か」

「えぇ。少しばかり休み過ぎた感じはしますけど、十分に休息は取れました」


 そう、伊織と涼音は、作戦開始前に聞いていた。

 そこに現れる、歴戦の機甲突撃部隊アイアンストライクの部隊を。

 彼の、戦場全てを見通し、そして操る。──現存する魔法少女の中で最も“ケモノ”を殺す事に貢献をした魔法少女の名を。

 そして、数々の“ケモノ”を屠った、唯一の兵器を保有する魔法少女の名を。


「(……本当に、ボクなんかて必要じゃないほど過剰戦力じゃないのかな? いや、でも“ケモノ”を討伐出来ないなんて、困るけど)」


 そんな、たらればな事を涼音が思考していると、不意というにはあまりにも自然的に輝きだす方陣。

 一際、その輝きを増して。

 そして──。


「──おや、お出迎えご苦労です。かなり若手な、それこそ片割れの方は見習いだと聞いていましたが、いやさて。中々の実力者だと見られますなァ」


 『火雷』を身に纏う機甲突撃部隊アイアンストライクの前に立つ、細身武術の欠片すらも見せない軍服姿の彼女。しかしてまるで、自分自身が強者だと疑わせないほどの、圧倒的な自信。

 嗚呼きっと、──彼女なのだろう。

 ある種、武力の極地を覗く事ができる伊織を以ってして、強いと。正直、比較対象としてベクトルの違いから碌に判断できないのだけど、きっとその細身の彼女は強いのだろう。


「──魔法少女デスガン」

「拙の名前を知っておられかァ。そう言えば、作戦前に某の事を説明されたのだから、名前を知っていてもそう可笑しくは、ない、かァ。──そう、拙こそが魔法少女デスガン」


 あぁ。なんとなく、理解できてしまう。

 その名を誇らしげに語る金髪で軍服姿な彼女。

 それこそその名前、忌み名として謂われてもおかしくない筈なのに、それでも誇らしげに謳うのだ。

 ──ある種、な戦人と言えよう。


「──それと、貴様の名前を聞いておられぬからなァ? 貴様だけ自己紹介をしないというのは、少々道理が合わぬからなァ」

「……まぁ、それもそうか。──では改めて、私は魔法少女グレイだ」

「……それだけ?」

「? それだけだが?」

「いや、何とも難儀な後輩だ事で……」


 さて、そんな感じのすれ違い的な会話をしつつも、時間に限りがある事に変わりない。

 今までの“ケモノ”の出現総数が数万体に達している以上、少なくとも五段階評価の“フェイズ3”程度はあると思った方が良い。

 そして、フェイズ3の巣穴を攻略する際に、まともな正攻法を使用した場合は、およそ一二時間ほどは掛かる。その上、真子島に存在する“ケモノ”の巣穴に横穴が追加されていた事を考えると、それ以上の時間を要する事となるだろう。

 それに加えて、畳みかけて来る時間制限。──それは、突如として通信機の着信音から訪れるのだった。


『──“HQ”より、攻略部隊へ。今現在、別勢力の“ケモノ”に襲われ、北部戦線は臨時防衛ラインを建設。これを迎撃中。制圧部隊に関しては、至急制圧をされたし。繰り返す──』


「(……確かに、この緊急時ならが最適だと思うけど。まさか、こんなにも早く、この手を使う羽目になるとは)」


「あららァ。拙が思っているよりも、あまり時間は残されていませんね。──少し、不味いかもしれません」


 各々が、別の思考に耽る中。

 確かに、魔法少女や政府といった面々には、それぞれの思惑があるのだろう。こうして、真子島攻略作戦を行っているのも、それぞれの思惑が重なった結果に過ぎない。

 だからこそきっと、──各自の結果を飲み込むだけの器量が必要なのかもしれないのだ。


「──それでしたら、ボクと魔法少女グレイが先行をします」

「……へぇ。それを出来るだけの能力が、貴様等にはある、と?」

「えぇ。ボクと魔法少女グレイは、同じ流派ではなくとも、隠形の訓練を受けています。特に問題はないです」


 魔法少女デスガンは、少しだけ細めの瞳を見開くのだった。

 先ほどの、涼音の提案がそれほどまでに意外だったのか。

 しかし、流石に魔法少女デスガンの思惑を満たしているとはいえ、無謀な闘いに戦力を消耗するのは避けたいらしい。詰まる話が、魔法少女だとはいえ、二人の少女に一体何が出来るのかといった具合だ。

 だが、魔法少女デスガンが魔法少女アーチャーに聞いたところで、似たような返答を貰うだけだろう。

 そこで魔法少女デスガンは、質問の矛先を魔法少女グレイと呼ばれている彼女へと、視線を変えるのだった。


「そこの貴様。確か貴様は、魔法少女グレイと呼ばれていたなァ」

「……まぁ、そうですね」

「なら、魔法少女アーチャーが言うように、……その、隠形とやらを使えるのかァ?」


 その問いに、少しだけ悩む伊織なのであった。

 確かに伊織は、涼音が言うように隠形の類を使える。

 しかし、その力量は他の戦闘技能と比べると、何段が落ちる。

 とはいえ、その程度ならば、特に問題はないだろう。


「……えぇ。数が多過ぎると少し問題がありますが、しっかりとルートを選べば、特に問題はないと思いますよー」

「ふむ──」


 少しだけ、魔法少女デスガンは悩んだ。

 しかし、悩むだけの時間がある訳ではない。

 “即断即決”。──それしかないと、選択は指し示す。


「──ならば、先に向かって行っておれ。拙たちは、他の“ケモノ”を殲滅しつつ向かうから、最深部で集合という訳でなァ」



 ♢♦♢♦♢



 伊織と涼音が先に“ケモノ”等の巣穴の中へと突入していって、ほんの少しばかりの時間が経った頃。

 元々、整備の点検というで待機していたのだが、伊織と涼音が帰還してこないと分かった以上、早々に点検を終えて機甲突撃部隊アイアンストライクと魔法少女デスガンは準備を終えた。


「……良かったのですか? 彼女等を先に行かせて」

「何を言うかァ、グローリーリーダー。態々、拙等が被害を受ける必要はないだろう。被害は最小限に。特に奴等に問題がなければ、拙等は手を出す必要はないからなァ」


 とはいえ、そのまま無下に使い潰すのは、それこそ無駄な行為だ。

 魔法少女デスガンは、──“願い”を叶えるために、命を賭ける魔法少女になった訳ではない。そんなもの、何の価値もないと思う類の彼女だった。

 そもそも、《マホウ》とは何だ、魔法少女とは何だ──。

 碌に、魔法少女なんてなものを信じない魔法少女デスガンは、討伐や作戦に参加して金銭を貰うために、ただ魔法少女をやっているだけに過ぎない。

 ──故に、被害が出ずに評価を貰えるなら、それに越した事はないのだ。


 卑怯者だと思うのなら、卑怯者だと思うがいい。

 屑だと思うのなら、屑だと思うがいい。

 ──少なくともこんな世界、精一杯奴のの方が馬鹿らしいと言えよう。


「──とはいえ、一応彼女等に取り返しのつかない被害が出れば、拙の地位も危ないからなァ。精々、援護はしっかりとやらせてもらうぞ」



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