第075話『真子島攻略作戦5・伏兵』
「───ブロッサム、アプリコット、ウィステリア、カメリア大隊は、真子島南部戦線にて、“ケモノ”の大規模攻勢の誘引を継続中」
「───真子島各地にて、大規模震源発生!」
「地中からの“ケモノ”の進行か?」
「はい。過去のデータから、“ケモノ”の巣横の穴からの進行だと思われます」
今だ、真子島の攻略は継続中──。
あれから、一時間と少しの時が過ぎたのだが、今だ真子島攻略部隊は制圧を出来ていない。
おそらくは、真子島攻略部隊は巣穴の制圧に、今しがた向かうところだろう。
だが、それまで陽動部隊が持つとは限らない。
確かに、四各隊は、各持ち場を以って巣穴から出現する“ケモノ”等を討伐をしている真っ最中。その様子に苦戦の類はなく、多少の損害はあれど今だ陽動を行うための戦線は継続できる筈だ。
しかし、それが今後も
何せ、今だ“ケモノ”等の出現が少なくなっていたとしても、それは一時的に過ぎないのだ。その証拠に、先ほどから巣穴を広げた事による巣横からの奴等の進行が確認されている。
“ケモノ”の特殊能力は、確かに脅威だ。だがそれ以上に、物量による単純かつ強力な脅威こそ気を付けるべきである。
その脅威の捉え方は、まさに千差万別と言えよう。
ただ、平地に大量の軍隊を配置するだけで、物量で勝つなんて事も可能だから。
しかし、その物量はただの暴力にあらず。絶え間ない消耗戦において圧倒的な物量は、大きなアドバンテージを手に入れる事ができるのだ。
──そう、この陽動戦線が何時まで、続くのか。
「……そう言えば、北部戦線の方はどうなっている?」
「今だ、クリセンセマムから各四大隊、陽動作戦を継続中。地形による消極的さはあれど、今だ問題はありません」
「そうか。問題はない、か」
賀状は、思案する。
確かに、北部戦線は今だ戦線を維持できている。
向こうの戦力は、南部戦線によりも少しだけ弱めだ。しかし、それは
だが、おかしいと、そう思うのだ。
確かに、北部戦線にも“ケモノ”が押し寄せていて、それを各々対処をしている。そこら辺に、何ら問題はない。
しかし、先ほどの地中からの“ケモノ”の別部隊による
それこそ、魔法少女という、彼等にとって天敵とも呼べる存在がいてもなお。
だからこそ、考え付く予想は──。
「──何処か別に、
──そして、嫌な予感というものは、時に恐ろしいまでの的中率を誇るのだった。
「──賀状大佐! 新たな敵の進攻です」
「……っ。一体何処からだ!?」
「データによると、おそらくは近くにあった小島からです」
「クソっ! アイツ等、これを狙っていたのか」
“ケモノ”を過小評価をしていた訳でもない。
訳ではないのだが、それでも奴等の基本戦術は、物量による圧倒的なごり押しだ。馬鹿だと第三者からは思われるかもしれないが、事実それで国家が滅びた例もあるのだから、笑えない話である。
しかし、こうも多少の戦略はあれどごり押しが基本な奴等が、
「(もう二度と、第三次攻勢計画のような愚行は犯すものかっ!)」
「──支援艦隊の方はどうなっている。航空支援は!」
「支援……ですか?」
「あぁ、そうだ。此方の戦力がギリギリな以上、
馬鹿だと、そう恨み言を言うが良い。
だが、もしもこの非情事態で良き対策を取ろうと悩むよりも、迅速な判断で“ケモノ”の追加を防ぐ方が先決だ。
下手をすれば、北部戦線に点在する
「(畜生ぅ!? その展開を俺は、考え付くべきだったのだ。これまでの中東亜戦線の一部崩落と梓ヶ丘の襲来を考えれば、そう難しくはなかっただろ!)」
そうだ。
この真子島攻略作戦は、“ケモノ”等を思うつぼだ。
敵陣地へと攻めて行って、そのまま後退。それを追撃しに来た奴等を、そのまま包囲の末撃滅。まるで、何処か昔の作戦を思い出させるものだ。これが人による作戦ならば、きっと賀状自身も称賛の言葉を述べただろう。
だが、相手は“ケモノ”。──人を喰らう災害にて。
賀状に、そんな相手の事を称賛をするだけの矜持はない。
いや、それよりも──。
「(──この展開。もしかして、“乙女課”上層部の思った通りの結果か? それならば、
最悪に最悪を重ねた、まるで汚物の如き計略だ。
正直、賀状とて吐き気を覚える。
だがそれ以上に、──賀状には
「……各艦による、防衛の方はどうなっている?」
「急造の新たな防衛戦についてですが、どうにか大型種の方は足止めが出来ていますが、それもいつまで持つか。それに加えて、小型種に関しては殆ど素通りです」
「……そう、か」
不幸中の幸いと言うべき、か。
小型種──丙種や乙種の“ケモノ”を素通しにしてしまっているが、それ自体はあまり問題ではない。最悪、
対して、大型種──甲種に関しては、両者共そう簡単に掃討は出来ない。少なくとも、それに挑むという心構えが必要だ。
だが、それは一時のものでしかない。
それまでに、賀状は新たな対応策を用意しなければならない。
そうしなければ──っ。
──そんな時だった。
通信音が鳴る。
正直、賀状はこの
とはいえ、彼自身に未来視や天啓のような特殊能力はなく、ただただ──
「──これは、秘匿回線だ。一体お前は何の
『えぇ、それは知っておりますわよ。けれども、他の通信方法ではそちらに繋げなくてですね。それで致し方なく、秘匿回線の方を使わせてもらいました』
「……此方には、あまり時間が残されていなくて、ね。──単刀直入に聞こう、一体何の用だ」
時間はない。
ただそれは、賀状も通信の向こうから聞こえてくる女性も、同様な事だ。
故に、多少賀状が挑発的に言えば、向こうからきっと──。
『──海岸の向こうに鎮座する、“ケモノ”たちを全員駆逐すればいいんですね』
「……──は?」
『少し、衝撃的でしたでしょうか? では、追加の“ケモノ”を全部、私が倒せます。それ以上に、必要な言葉はありますか?』
開いた口が塞がらないとはこの事だ、と賀状は碌に動かない思考の中で巡りゆく。
確認できるだけで、十数体の甲種と数百にも至る“ケモノ”たち。もし、通信の向こうにいる彼女の言葉が本当なのだとすれば、並の魔法少女では単騎で碌に勝ちようがない。少なくとも、伊織や第三次攻勢計画の魔法少女を連れて来なければ、とても難しい話だ。
だがそれは、忌々しい事に、彼女ならばできる事である。
それを否定する要素はなく、ただ肯定するだけの要素しか、当の賀状は思い描く事ができなかった。
正直、彼女の手を取る事に躊躇はある。
勿論、それに対しての対抗策は賀状
だからこそ、司令官としての賀状は、この話を受ける必要があり、同時に首輪をつける必要があるのだ。………とても難しい話なのだが。
「──此処の“ケモノ”の巣穴への攻略部隊には、魔法少女グレイ──彼女も参加をしている筈だ。彼女のためにも、貴女には防衛の参加をお願いしたい」
『えぇ、分かっておりますわよ。彼女があそこにいる事は』
「……っ」
『──ですから、私もあまり気は進まないのだけど、頑張らなくてはいけませんね』
その彼女の言葉を聞いて、賀状は一息を付いた。
勿論、彼女と取引をする事自体、かなり不味い話。最悪の話、賀状自身の責任問題になる可能性があるからだ。
しかし、賀状の予想が正しければ、どうにでもなる筈だろう。
たとえ、“乙女課”の上層部が噛みついてきたとしても、真子島攻略という勝鬨の前には碌な言葉を並べても無意味だ。
『あぁ、でも。貴方たちが行った拘束を解くのに少し時間が掛かりますから、もう少しだけ時間を稼いでくださいね』
「……分かっているつもりだ。では、そちらは頼むぞ」
『えぇ。貴方たちのためでしたら、正直こうして提案をする事も、ましてや協力する事もありませんでした。──けれど、伊織さんのためでしたら、やらない理由はありませんわ』
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