第073話『真子島攻略作戦3・予感』

真子島攻略作戦の開始から、一時間の時が過ぎた──。



 今だ、真子島の中央にある巣穴から出現する“ケモノ”が、途切れた様子はない。いや、数自体はそれなりに窄まりにはなっているが、今だ巣穴内に残像戦力を残しているのだろう。

 果たして、あと幾つもの死線を潜り抜ければいいのだろうか。


 いやそれ以上に、“人類強化計画第二世代型ハイヒューマンプロジェクト2型”の産物である『火雷』を装備した機甲突撃部隊アイアンストライクの対応能力がかなりの危険域に達しているのが問題だ。

 あの後、作戦開始から数十分の時が過ぎた頃、“ケモノ”の攻勢は丙種と乙種の混成部隊だった筈なのだが、そこにまさか甲種も幾らか混じってきている。流石の機甲突撃部隊アイアンストライクと言えども、そう簡単に完全にせき止める事は不可能。

 とはいえ、どうにか乙種やましてや都市級危機にも相当する甲種の“ケモノ”等を通さないようにしている点は、十分評価に値する。



 ──だが、それでも血煙と硝煙の匂いの最中の消耗戦を続けられるほど、彼等の精神は碌に残っていなかった。



「くそがああああぁぁぁぁ!」

「テメェ等、本当は弱ぇんだろ!」


「──あぁ。……クソがっ」


「───ブロッサム7より、ブロッサム8。ブロッサム9が複数の乙種の“ケモノ”に襲われて孤立状態。至急、救助を開始する!」

「感謝します。──ブロッサム9! あと少しの辛抱だ。もう少しだけ耐えていてくれ……」

「……いや、もういいんだよ。それよりも、戦線の維持を継続してくれ……」

「──っ、馬鹿野郎! お前の事なんざ大切だって言っても分からないだろうから敢えて言うけど、──この戦線にはまだお前が必要なんだ。お前の意思に反しても無理矢理にでも、助けるぞ!」

「……なら、その戦力を維持に回すべきだと、そう俺は思うけどな」

「──っ、……馬鹿野郎ぅ」


 手段はある。

 理由も、助ける意義もあって。

 それはだと、そう断ずるしか他なかった。

 今まさに、“ケモノ”に喰われようとしている彼の言い分は、助けようとしている彼自身よりも正当なものだろう。少なくとも、このそもそも戦力がかなりギリギリな戦場において、仲間のためにかなりの時間を使用する事は避けるべき事だ。

 もし、それが無傷の状態で救えるのなら、また判断は変わってくるだろう。

 けれど、少なくともこの生命に危機的状況にて、“自分を見捨てろ”という判断は間違ってはいない──。



 ──筈だった。



「──ならば、私がさっさとどうにかしましょうー」



 血と硝煙の戦場の最中で聞こえる、場違いな可憐であり気の抜ける事が何処からともなく聞こえてきた。

 一体何が出来るんだという非難する思いと、救ってくれという神にも縋る思いの狭間で、彼は信じられない光景をこの目で見た。


「……──えっ」


『絵ッ』

『名二名二?』


 ──“ケモノ”が、何らかの衝撃を受けたかのように、この辺りの奴等が一斉に上空へと吹き飛ばされた。

 そしてそれは、生身のが現れて、その手にした閉じたままのを振り上げた瞬間と同時だった。

 そう、彼女は魔法少女───魔法少女コーメイである。


 そして、それをただ茫然と見過ごすほど、機甲突撃部隊アイアンストライクの彼等は無能でもない。

 彼等は手にしたマシンガンに銃口を、今しがた重力と共に落ちてきている“ケモノ”等に向けて、射撃。ノズルフラッシュと共に弾丸“ケモノ”の胴体を、肉体を抉っていく。

 そして、──ぼとぼとぼと、と最終的には肉塊と血雨となって、堕ちてくるのだった。




「──魔法少女コーメイ。我が隊の隊士を救ってくださいまして、ありがとうございます」

「いぇいぇ。私ってば、頑張れば出来る娘なので、出来る限りなら助けてあげますよー」


 一応、この辺りの“ケモノ”の掃討は終えた。勿論、他の場所にはまだ“ケモノ”が残っているのだろうが、一言二言を言い合う程度ならばきっとばちは当たらないだろう。

 例えば、感謝を告げる事だったり。

 とはいえ、甲種の“ケモノ”相手に余裕を残せるほど、戦線の維持は好調ではないが。

 故にまた、──機甲突撃部隊アイアンストライクの皆は地獄の内へと向かわなければならないだろう。

 しかし、聞いておきたい事がある。


「……それで一つお聞きしたいのですが、については、どうなっていますか?」

「あぁ、それですかー。多分、なら、大丈夫だと思いますよー」



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