第072話『真子島攻略作戦2・交戦開始』

「──皆森大佐、──皆森大佐、──っ皆森大佐!」

「……あぁ、ごめん。少しだけ考え事をしていた」

「それならいいのですが」


 賀状が思考を晴らすと、そこは重い巡洋艦の艦内だった。

 今現在、賀状たち『真子島奪還作戦チーム』は、長崎港を出発して黒潮と対馬暖流の辺りを航行中。


 元々、重巡洋艦とは遠洋航海能力を保有し、速度と攻撃力を両方とも持つ軍艦の事を指す。

 しかし、“ケモノ”が出現したことによって、その意味合いが変わる事となる。

 海洋での“ケモノ”との戦闘では、軍艦が主戦力だ。他にも、航空機などの空中戦力もあるが、それでも軍艦などの方が優勢だったりする。

 そして、軍艦が優遇されている大きな理由の一つが、を持ちつつ、軍艦自身が攻撃手段を保有している点である。分かりやすく言えば、“高速で航行する空母”のようなものだ。


「はい、これが真子島の地図です」

「あぁ、ありがとう。それで、の様子は。初めての本格的な戦場に、精神を崩していないか?」

「えぇ、蓮花さんについては、少しだけ問題ありましたが対処済みです。また、魔法少女グレイと■■■■■■■につきましては、特に問題はありません」

「そうか。良かった」


 そして、涼音こと───魔法少女アーチャーから渡された地図は、これから向かう真子島の海図陸図共に描かれたものだった。

 前にも言ったように、元々真子島は沖縄への前線基地として造られるのと同時に、日本国の防衛戦の一つである人工島だ。

 故に、此方から攻めるという行為は、そう簡単に進む筈がない。

 主に、東西を岩壁で覆われていて、たとえ人外めいた身体能力を持つ魔法少女であろうとも登る事はそう敵わない。また、北南には戦線を切り開くだけの平野が広がっているのだが、そこでは圧倒的に“ケモノ”等の方が有利なのだ。


 此方には、魔法少女や対“ケモノ”のスペシャリストたる機甲突撃部隊アイアンストライク、その他にも海上戦力や航空戦力も十分に揃っている。

 しかし、それでも真正面から勝てるほど、『数の暴力』という戦略を取ってきた“ケモノ”は甘くはない。

 故に、今現在の戦力では、どうにか二つ戦線を維持するのが精いっぱいだろう。

 ──そんな時だった。


「……皆森大佐、ボクに一つ作戦があるのですが、よろしいですか?」

「あぁ。俺も丁度一つ作戦を思い付いたのだが、──君と魔法少女グレイを別部隊として奇襲を行う、という事で合っているだろうか?」

「はい。魔法少女グレイはあまり防衛戦が得意ではないので、此処で腐らせておくのはあまりにも無駄が過ぎます」


 詰まる話が、北南に展開された戦線とは別に、強襲を行う部隊を設立させようという話だ。

 確かに、魔法少女グレイこと伊織は、あまり防衛戦などの集団戦闘があまり得意ではない。その上、彼女の気質からして、かなりのストレスを与え続ける事となろう。

 故に、下手に部隊としてがらん締めにするよりも、少々危険ではあるが独立した強襲部隊として働かせた方が良いと判断をした訳だ。

 もっとも、そう簡単にはいかないのだろうけど──。


「──それ以上の期待は出来る、か」


 だが、期待は出来るのと同時に、問題も発生するのが世の常だ。


「私から言った事ですが、他の北南の方は大丈夫ですか? 元々、戦力に関してはギリギリだというのに、主戦力を外してしまって」

「まぁ、そうだね。実際、他の正式な魔法少女が何人か来てくれているとはいえ、かなりギリギリだしね」

「……」

「──でも、今回来てくれた魔法少女は、君も知っている、でこそ活躍する彼女だよ」



 ──ガチャ。



「ただいま到着いたしましたー、魔法少女ニカイド―。我ながらどうかと思いますがー、よろしくお願いしますー」



 噂話は、当人を呼び寄せる縁でもあるのだろうか。

 賀状が期待をする魔法少女の名前が会話の中で出た瞬間、作戦室の扉が開く鈍い音がした。


 そして、作戦を練っている途中だというのに現れた彼女は、まるで“棋士”を思わせる風合いだった。

 淡い色合いの和服を着付け、またしっとりとした色合いの袴を履いた、大和撫子。しかし、その顔立ちと表情は、平和で温和なものではなく、戦場に立つ冷徹なまでのキリっとしたもの。そして、利き手と思われる右手には、扇子のような物が握られていた。

 そう、彼女は魔法少女──“魔法少女ニカイド―”ある。


「──なるほど、ですね。確かに貴女なら、ボクと魔法少女グレイが抜けても、いえそれを埋めても有り余るほどに戦力を増強させる事ができますね」

「えぇ、まだ正式に魔法少女となっていない人たちがいるのは、少々不安材料なのですけどー、特に問題はありませんー」


 圧倒的な自信。

 これまで幾度となく戦場を歩んだ彼女からすれば、この程度の戦場些事でしかない。勿論、新兵に関しては、不安材料の一種とそう捉えてはいるが、それは誤差でしかない、と。

 そう、云わんばかりの圧倒的な自信だった。


「という事は、貴女が此処にいるという事は、他の第481小隊の魔法少女が来ていると。そう思ってもいいんですね」

「それについては、賀状──いえ、皆森大佐から」




『──あぁ。魔法少女ニカイド―の他に、第481小隊の彼女等三人。それと、俺に恩でも売りつけようかの魂胆な、第452小隊。そして最後に、親切心だけでとても心配だけれども、第423小隊。

 そして、君たち試験部隊をも含めた。

 ──計が、共に戦場に立つ魔法少女たちだ。』


『──それに加えて、機甲突撃部隊アイアンストライクが六大隊と、戦艦や重巡洋艦各艦、あとは航空機が幾つか。

 それが、──我々の現最大戦力だ』




 いずれも、歴戦の勇士たち。

 幾度の戦場を越え、不敗。

 装備に関しても、現中東亜戦線で使用されている物と遜色ない。

 ──故に、負ける通りなんてない。


『──作戦開始時刻は、03;00。各員、それぞれの持ち場で待機ぃ!』

「「「はっ!」」」


『──我らが人類の誇りと誉れを以てして、その守護たる剣を立てよっ!!」



 ♢♦♢♦♢



 静寂に包まれている。

 夜の海は、とても静かだ。

 ただただ風が吹く、心地よいまでの静かな音が辺りに響く。けれど、辺りには障害物なんてなくて、風音が風景の中へと溶けていく。

 それ以上に静かだと思うは、その夜の海の景色だろう。見ているだけでも落ち着ける、そんな自律神経を癒すひと時。



 ──これが、人を喰らう“ケモノ”に乗っ取られた、元沖縄への前線基地だとは夢にも思わないだろう。



 ──そして、こんな雰囲気すら醸し出す静かな場所が、血と硝煙に彩られるなんて、一体誰が思うか。



 そんな時だった。

 航空機が、星空すら見えない曇天の夜空を飛ぶ、五月蝿いまでの機械音が静寂を打ち破る。ゴーゴーと、複数の音が重なっているように聞こえるのだ。


 その一方で、真子島の様子は変わりない。

 まるで、もう既に誰もいないかのような無人感を覚えるほどに静かで、人気すらも感じさせないのだった。

 けれどそれは、真実である。そもそも、真子島にもう人なんて残っていなくて、それどころか死体すらも限りなく絶望的でだろう。


 憎悪は、確かにある。

 けれど、そこに意味はない。

 感情に意識を取られれば待っているのは死で、そもそもを喋らない“ケモノ”相手に感情論で武装なんて、馬鹿馬鹿しいにもほどがある。



 ──着弾。



 砂煙と共に、内蔵された暴力が相手関係なく牙を向く。

 辺りを歪ませるほどの衝撃。けれど、それが何か対象に向けて落とされたものではなく、ただただ範囲だけを最上とした、行為だった。


『──唖、唖ァァァァ!』

『陀レ? 陀レ?』

『菟、ァァァァ』


 その爆発音か衝撃に反応してか、“ケモノ”たちが続々と地上に姿を現す。

 元々、前線基地だった真子島にはなかった、その大穴からまるで巣を攻撃された蟻のように出て来るのだ。そう、醜悪な吐き気を催すほどの奴等が、こううじゃうじゃと。

 おそらくは、そこにあるのが、“ケモノ”たちの住処であろう。

 それを見つけるためと同時に、巣穴から出てきた“ケモノ”を出来る限り相当するために、大規模な絨毯爆撃を航空機によって行っているのだ。


 だが、──その数が尋常ではない。

 ある程度のピークを終えたのか、巣穴からの“ケモノ”の増援はなくなっている。

 しかし、目の前に広がる光景は、“ケモノに埋め尽くされた醜悪なまでの波”。その全てが、人を喰らう“ケモノ”である。

 きっと、──絶望するだろう。

 きっと、──言葉すらも話せなくなるだろう。

 その数は、今現在確認できるだけで、。梓ヶ丘を襲い、多くの犠牲者を出したあの時よりも劣る数ではあるが、それでもとしては絶望すらも覚える数だった──。



 /12



「──対“ケモノ”特殊弾の着弾を確認。“ケモノ”が続々と巣穴から出てきました」

「そうか。それで、構成種類、また数の方は」

「数は、およそ“8000”。また構成種類の方は、丙種乙種の混成です」

「──そうか。」


 先ほどの弾頭の着弾により、巣穴を攻撃されたと思った“ケモノ”が出てきた。

 それが、狙いだったのだ。


 “ケモノ”を倒す能力を手に入れていたり、またそれらを倒す技術を収めたとしてもそう簡単には勝てない。

 特に劣勢となるのが、密閉空間での集団戦闘だ。

 ただでさえ、物量に任せた“ケモノ”の戦闘は、とても厄介である。単純な物量という点もあるのだが、それ以上に迫りくる奴等を対処という行為は、致命的なまでに防衛戦を張る彼彼女等の体力を気力を奪う。

 しかも、物量で“ケモノ”等が攻めて来るというのに、高火力の火器が使用できない。下手をすれば、敵地にて生き埋めにされかねないのだ。

 その上、“ケモノ”等が自身の仲間の死骸を盾に、防衛戦に接近する事も頭に入れておかないといけない。

 ──馬鹿馬鹿しくなるほどに、劣勢。


 故に、どうにかして広い外に引っ張り出す必要がある。

 そして、そこで開始されたのが、絨毯爆撃による巣穴の中に潜む“ケモノ”のあぶり出しだ。

 一応、海上戦力として戦艦などもあるのだが、作戦内容を考えて広範囲に叩き込む必要がある事を考えると、航空戦力による絨毯爆撃が一番適しているのだろう。


「──てぇっ!」


 そして、航空戦力による絨毯爆撃によって這い出してきた“ケモノ”等。

 それらを目掛けて、戦艦らの火砲が火を噴く。

 これが甲種以上の“ケモノ”となれば話は違ってくるのだろうが、生憎と各戦線へと進攻を開始している奴等は丙種と乙種の混成部隊。

 対処をする術も知らぬ“ケモノ”等は、天から降り注ぐ鋼鉄の雨にただ打たれるしかない。



 ──真子島攻略作戦は、此処に。

 人類の攻勢から始まった。



 ♢♦♢♦♢



 ──真子島北部戦線。


「──ブロッサムリーダーより、ブロッサム大隊各機へ。敵の攻勢が始まった。HQからの報告では、“ケモノ”の総数8000匹程度であり、北部戦線へと進攻を開始したのはおよそ5000。──如何やら奴等、お目が高い事に此方に、より多くの戦力を回してきた。なら我々も、その期待に応えなければならん」

「「「……」」」

「──右翼の方には、アプリコット大隊が既に展開済みだ。我々も、お目が高いお客様を丁寧にもてなしてやらんといかん! 全機、突撃!!」

「「「──了解っ!」」」


 青白い尾を引いて、人型の機械が疾走する。

 そう、──それは先ほど話にも出た強化スーツ『火雷』を着込んだ“機甲突撃部隊アイアンストライク”。

 その時は、強化スーツを着た歴戦の戦士たちとの触れ込みだったのだが、こうして現物を見ると違和感を覚える。

 何せ、青白い炎の尾を引いて2メートルを優に超える巨人型の機械が、近接戦を得意とする魔法少女に迫る速度で疾走しているのだから、無理はない。

 そう、その姿はまるでフィクション小説にでも出て来る戦闘機を思わせる風合いだった。


『唖、唖ァァァァ!!』

『菟ゥゥゥゥ……』

『義唖ァァァァ!』


 そして、その見た目に反せずに迫りくる“ケモノ”の大群を、機甲突撃部隊アイアンストライクは排除していく。

 彼等のメイン武器は、手にした生身の人間では扱えぬ、より高火力で大口径なそれでいて連射性に富んだ火器マシンガンだ。そこから放たれる弾丸は、通常火器では難航する相手であろうとも、いとも簡単に“ケモノ”等の装甲を撃ち穿っていく。


「──ブロッサム4より各機。すまんが、少しだけ取りこぼしてしまった。誰か、対処できる奴はいないか」

「ブロッサム7。ブロッサム8,ブロッサム9と共にカバーに入ります」

「……助かる」


 もし、魔法少女が個の戦闘を得意とするのならば、機甲突撃部隊アイアンストライクは連携を得意とする。

 元々、魔法少女の戦闘プランは、個としての強さを発揮するタイプだ。その様子は、古の英雄の具現と言っても良いのだろう。それだけの戦果を、彼女達は叩きだしているのだから。

 それに対して、機甲突撃部隊アイアンストライクの戦闘プランは、近代化が推し進められた兵士だ。量産的に、練度の高い兵士を生産していく姿は、まさに現代に適したものと言えよう。

 

 そして、機甲突撃部隊アイアンストライクの皆は、“ケモノ”を連携による戦力によって殲滅していく。


 戦艦などの海上戦力からの支援砲撃が、“ケモノ”等を屠っていく。


 魔法少女たちは、今だ戦場に現れた様子はないが、その時はきっと本腰を入れる時だ。



 ──血と硝煙が吹き荒れる戦場、まだ苛烈は終わらない。



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