第063話『散華』

 目を覚ました。

 頭が重い。

 隈ができている事を確信する。


「……」


 無理矢理にでも平常に戻すために鈴野蓮花は、冷たい水で顔を洗う。

 ………とても、酷い顔だ。

 密かに自慢に思っていた栗毛な髪は、燻ぶったようにぐしゃぐしゃ。

 目の周りの隈なんて、これでもかと云わんばかりに黒く染まっている。

 そして、それなりに手入れをしていた肌なんて、荒野の如く荒れ放題だ。


「──っ!」


 ──本当に、鈴野蓮花の顔は酷かった。

 当の本人な彼女でさえも、気持ち悪くて吐きそうになる。

 どうにか視線を逸らしても同じ事だ。蓮花には彼女自身の顔が脳裏に焼き付いていて、鈴野蓮花という彼女自身を思い出してしまう。

 そして、その黒い感情ごと洗い流そうと、蓮花は冷蔵庫に仕舞ってあったミネラルウォーターを口に含み、飲み続けた。

 ……苦い。


「……」


 後悔が募るばかりだ。

 あの瞬間、蓮花に何かができた訳ではない。

 けれど、もしもあの瞬間に蓮花が戻ったら、きっと悲惨な未来を変えるために一歩を……踏み出せたのだろうか。


 ……嫌だった。

 嫌だった。嫌だった。

 嫌だった。嫌だった。嫌だった。

 嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。嫌だった。


 蓮花は蓮花自身が嫌だった。

 人を守りたいだなんて、絵空事を描く蓮花自身が嫌いだった。 

 人を守りたいだなんて、無力でありながら頑張る蓮花自身が嫌いだった。

 人を守りたいだなんて、短期的な努力で一定の満足をしている蓮花自身が嫌いだった。

 人を守りたいだなんて、守るべき人を決めずに全てを守ろうとした傲慢な蓮花自身が嫌いだった。

 ──何も出来ないのに、皆の役に立てると思った己の肥大に吐き気がする。


 何も出来ない。

 何も出来ないのだ、蓮花は。

 それを彼女自身一番よく分かっていて、はしていなかった。

 蓮花は、自分自身が何か出来ると期待していた。誰かを助けて誰かに尊敬される、何者かになれると思ってしまっていた。


 だが蓮花自身、何者でもない。

 たとえ、特別な生まれであっても、それは一つの要素でしかない。最初から特別な人間なんて、いないのだから。

 そう、過ごしてきた人生が、その人を何者かにする。



「──けど、それが……何ですかっ!」



 蓮花の人生、たかだか十五年程度の薄っぺらいもので、何者かなんて時期尚早な話だ。

 だけれども、この機会、この時に証明できなければ意味はない。

 努力が報われなくても、それまでの時間には意味があるとは言うのだけれど。今となっては、それを否定したい気持ちだ。



 ──努力は、叶えられなければ意味はない。



 何時だって、準備が足りなかった。

 努力してきたとしても、それが報われるとは限らない。

 力が、足りるなんて己惚れたつもりなんて、一度もなかった。



 ──でも、何でこんな時に限って、……報われないんだろうなぁ。



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 お疲れ様です。

 感想やレビューなどなど。お待ちしております。

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