第044話「撤退戦・国士」

「──畜生ぅ!? 思ったよりも“ケモノ”共の数が多い!」

「──JΣ1より各機。戦線を後退しつつも、戦闘をそのまま継続。一匹たりとも此処を通すんじゃねぇぞ!!」

「「「──了解ィ!!」」」


 ──血と硝酸が吹き荒れる。

 目の前に迫る“ケモノ”から噴き出した血飛沫と、彼等の持つ89式汎用型突撃銃から叩きだされた弾丸の尾を引く白い硝酸。


 此処は戦場だった──。

 先ほどまで此処は、人が沢山いて笑いながら歩いていたのだ。

 けれど、もうあの他愛のない会話なんてものは存在しなくて、ただ無機質な銃撃音と耳障りなほどの“ケモノ”の声が聞こえてくるばかり。


『絵モ野、絵モ野』


「くそぁがあああ!!」

「──JΣ1! これ以上戦線を後退したら、避難中の民間人と接触する可能性が非常に高くなります!」

「JΣ3、落ち着け。ポイント2まで後退するだけだ。そこならば、市街戦補給地がまだ残っている筈だ」

「……確かに、思ったよりも“ケモノ”等の数が多くて、もう残弾が心許ない」

「そうだ! これが人数の足りている戦場ならば、交代をしつつ戦線を維持できるが、此処に配属されたのは我々一部隊だ! 数が絶対的に足りないのはこの際仕方がないが、しかし誰かが落ちればこの戦線は崩壊をする」

「「「……。」」」

「──元々これは、“ケモノ”を殲滅する戦いではなく、人々が避難をするまでの時間を稼ぐ防衛戦だ! ──全機、JΣ2、JΣ3、JΣ4を殿にしつつ、ポイント2にある市街戦補給地を継ぎの防衛ラインに変更をする!!」

「「「──了解ィ!!」」」


 JΣと呼び合った彼等は、後退を始める。

 勿論、これ以上“ケモノ”が進んでこないよう、火力拘束をしつつではあるが。


 それでも、“ケモノ”の侵攻は止まらない。

 89式汎用型突撃銃の鉛玉程度の弾幕では、精々が足止めが精一杯。それも、残弾残り少ない現状ならば尚更に──。



 /13



 そこは本来、人通りの多い町通り。

 それも、車が同時に何度も通れるような車道に加えて、人が込み合わない程度に広い歩行者用通路まで存在する、梓ヶ丘でもかなり大き目な道路だった。

 そこに、平時ならば違和感しか覚えない、鋼のような光沢を放つ巨大なボックスが存在した。



 ──そう、此処が先ほど彼等が言っていたポイント2だった。



 そして彼等も、そこまで後退を完了をし、反撃を開始する。

 先ほどまで殿を務めていたJΣ2~JΣ4までが弾薬などを補給をし、残りの隊員が防衛ラインの維持に務める。そして、補給が終われば、また再び防衛ラインの維持に務めるのだ。


 血と硝酸の匂いが増す──。


 機械仕掛けの『火雷』と呼ばれる強化スーツを着た彼等の張り上げる怒声と、気持ち悪いほどの“ケモノ”等の声が聞こえてくる──。



「──もう、そろそろだ……」



 ──!!!



 誰が言ったか。

 その言葉を合図に、“ケモノ”たちが侵攻してきている地面が破裂する。いやあれは、黒煙と火煙を上げているところから、おそらくは爆破。

 そう、そこに埋められていたのは“地雷”の類だった──。

 確かに、対人地雷こそ条約で禁止されているものの、こうした対“ケモノ”を想定した地雷であれば国際的に許可されているのだ。


「──よぉし! これで第一陣が崩れて、──って余計に狙いずらいじゃねぇか!?」

「くそっ!? あの乙種の“ケモノ”の甲殻が、弾を弾きやがる!」


 だが、目論見通りにはいかなかった。

 確かに先ほどの地雷の爆破で、それなりの“ケモノ”の侵攻を抑えられた。

 おそらくは、“ケモノ”の数自体を削ったのと、それと死骸を化した奴等が障害となっているからだろう。


 けれど、それは此方も同じだった。

 確かに彼等は、“ケモノ”から大きく優勢を取った。それ自体は、決して間違いではない──。

 だが問題は、その件の“ケモノ”の種類だった。

 普通の”ケモノ”だったら、壁になれこそすれど、特に問題にはならなかった筈だ。

 しかし、彼等の目の前に広がるその件の“ケモノ”が持つ甲殻は、彼等の持つ89式汎用型突撃銃のメインの銃弾すら防ぎ切るのだ。


「仕方、ない。──JΣ5、JΣ6、各自二発で掃除しろ!」

「「──了解ィ!!」」

「──総員、爆風に注意!」


 切り替える。

 二人の構えている小銃の銃身。その下部に備え付けられている黒い銃口から、黒い弾は吐き出された。そしてそれは、放物線を描き、そのまま着弾──。



 ──破裂、爆風が彼等をもその余波が直撃した。


 

「──よし、よくやった! 後でビールでも奢ってやる。──だからこの防衛ラインを、民間人が避難をするまで死守するぞ!」

「「「──了解ィ!!」」」



 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷


 忘れていましたー!

 お疲れ様です。

 感想やレビューなどなど。お待ちしております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る