第043話『オペレーション』
「──ふぅ。どうにか峠を越えられたようだな」
賀状は、安堵をする。
確かにこの試験自体、不合格者を出すためのものではなく、各自の評価を推定でも出すためのものだ。
故に、そう簡単には不合格者が出ないような作りとあっていたりする。
けれども、何時だって不足の事態というものは、起こり得るものであるのだ。
しかして、賀状の杞憂もなんのその。
二班共に“ケモノ”との戦闘は、順調に進んでいくのだった──。
「(……俺自身の杞憂で良かったよ。これで今日も定時で──)」
──ぶーーーーーーーーーー!!!
「(……そんな、簡単にはいかない、か。嗚呼去らば、定時退社よ)」
警報が鳴り続ける。
まるでそれは、賀状自身の杞憂が具現化したようで。
そして、梓が丘に存在する“乙女課”でトップな賀状は、この不足の事態とやらを解決する必要がありそうだ。
「──警報は、一体何処からのものだ?」
「おそらは、“ケモノ”が襲来した時のものだと思われます」
不足の事態ではないらしい。
それはきっと、此方でも十分対応可能な、案件に過ぎない。
「……」
けれど、何処か魚の骨を思わせる引っ掛かりを、賀状は覚える。
今現存の魔法少女と国士たちならば、相当な事態でもなければ大抵の不足の事態は修復可能だ。
しかし、こういった引っ掛かりは、大抵とんでもないものだと、相場が決まっていたりするものだ。
勘でしかないのだろう。
けれど、歴戦の勘がそう告げているのだ──。
「──警報の発信源は、一体何処からだ。主に、大陸側と旧沖縄側の警戒ライン等を調べろ!」
「──はっ! 此方大陸側、特に問題はありません」
「──此方旧沖縄側、“ケモノ”の集団を確認!」
「……それで、数や構成種類の方は」
「──数の方はおよそ──っ!?」
「どうした、報告をしろ」
「……それが、数10000体以上。構成種類の方は、甲種が多数含まれていますっ!」
最悪中の最悪な不足の事態だ。
確かに、此処梓が丘に存在する魔法少女は、それこそ一騎当千の者たちばかり。
しかしそれでも、一騎当万どはではいかない現状。
そして、市民の避難誘導と同時に行えば、それこそ多数の死者が出かねない。
しかもこれ、魔法少女と市民たちどちらをを優先しようとも、結果的に乙女課は甚大な損害を受ける羽目となるだろう。
その上──。
「此処まで見つからなかった異常事態の事を考えると、おそらくはその中に歴種の“ケモノ”が紛れている可能性が非常に高い」
「「「──っ!?」」」
最悪だ、最悪だ。
何処か、あの時の事を思い出す。
「──“ケモノ”第一陣、8号機雷原に突入! なお侵攻速度は、依然として変わりありません!」
「──皆森室長!!」
「──いや、皆森大佐と、そう呼びなさい」
空気が、一変する。
嗚呼、本当に最悪だ。
此処に賀状自身が配属されたのだって、おそらくはそれが理由なのだろう。
そう、このような事態を想定して。
「──頼む、力を貸してくれ」
頭を下げた。
このような非常事態において、偉い側の人間が頭を下げるという行為は、誰しもが思っているよりずっと重い。
いや、だからこそなのだ。
偉い側の人間が頭を下げるという行為の意味を知っているからこそ、こうして賀状は頭下げた。
「──ほぅ。儂等を使いっ走り人間する気かの」
しかし、返答はあまり良くない様子。
だが、一体誰か?
改造和服を身に纏った彼女。
海軍で使われているような、彼女。
バイザーを装着したまるで戦闘機を思わせる装いをした彼女。
そう彼女等は、魔法少女としては最高峰の地位『特位』の称号を持つ魔法少女等なのだ──。
「あぁ、悪いとは思っているが、どうか頼む」
「はは! 儂等とて、戦友の頼みを邪険にさる気はなかろうて。それにの、──ただ後輩共の戦いを見ているだけじゃ、儂等も暇だったからの」
「……助かる」
「──警察への秘密回線の方を」
「は、はい!」
動揺が聞こえる。
罵詈雑言が聞こえる。
このような非常事態において、対応が何一つとして決められていないのだ。
「──えー、此方乙女課室長の皆森です」
それは、救いの手ではない。
罵詈雑言の矛先が、賀状自身に向けられただけだ。自分たちの不手際を、誰かに向けたい話なだけだった。
しかし、賀状自身はそんな事関係ない。
この不足の事態を解決する──。それが、賀状自身にとっての望みだった。
「皆さま、罵詈雑言をおっしゃるのは勝手ですが、今は非常事態です。言い争いの類は、それまでにしてください」
「何を言っている皆森君。君とて、面子は大事だろう」
「……鈴木、さんでしたね。面子の方は心配しなくても大丈夫です」
「ほぅ、それは──?」
「──陸軍特殊作戦軍、通称“乙女課”所属、皆森賀状大佐。これより全責任は、この私めが取らせていただきます」
「……君は、一体自分自身が何を言っているのは、分かっているのか?」
「えぇ、最悪今回の作戦を失敗すれば、よくて閑職に追いやられるか。悪ければ、そのままこの身は、軍事裁判で裁かれるものとなるでしょう」
「我々がこうして会議が踊っている最中で、何の説得力もないだろう。──それでも私は君に、負債を背負いきるその覚悟はあるのか?」
「──えぇ。あまり使い道のない私の肩書ですが、こういった時こそ第三次攻勢計画の英雄でしょうか」
「……ならもう、私からは何も言うまい。──今後我々梓ヶ丘にある警察全員は、君の指示に従おう」
「……──ありがとうございます」
駒は、全て揃った。
盤上は、今だ不明ながらもその地形とリアルタイムな映像の類は、既に入手済み。
流石に賀状とて、第三次攻勢計画の英雄と持て囃されていても、過去の名だたる英雄軍師のようには上手くはいかない。
しかして、凡人の域を出ない賀状自身が出来る事があるとすれば、ただその役割に合った駒を打ち続けるだけだ──。
「──これより、“打撃を与えつつの
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