第042話『嫌な予感がするのだ──』
『──ケモノノ警報発令。危険度は『丙種』。至急、近くのシェルターなどに避難してください』
それから数分後の事だった。
断頭台に登れとの声が聞こえてくるようであった。
これが初の実戦な杏と優子にとっては、拒否したい思いと、挑戦してみたい気持ちが相反する。
と言っても、勿論ながら拒否権なんてある筈もなく、杏と優子は少しだけ自暴自棄になりながらもこの部屋を出るのだった。
ちなみに、伊織の方はというと、随分と落ち着いた様子でこの部屋を後にした。何度か“ケモノ”と戦っていれば慣れるのだろうか。
「今から、装甲車が置いてある格納庫へと行きます。ですが、まだ魔法少女へと変身しなくていいです。アレ、時間制限がありますから」
そう言って涼音は、伊織を含めた三人を引き連れていく。
確か前に伊織たちが聞いた話では、魔法少女になれる制限時間というものが存在するらしい。伊織はこれまで、短時間で決着を付けていたために知らなかったが。
話を聞く限り、何かしらを対価に伊織たちは魔法少女になれているらしい。──それを魔法少女や“ケモノ”関係の分野の『魔導力学』では、魔力と、そう呼ばれている。
ただ、何かを対価にして魔力を生み出しているが、それは今だ分かっていない。もっとも、魔力が枯渇したとしても、休憩を挟めば幾らかは元に戻るから、そう深刻なものではないようなのだが。
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と、そんな事を伊織が思考している間に、いつの間にか彼女等は件の格納庫へとたどり着いたのだった。
幾つかある重厚な大型の車らしき物が目に映る。
確かにそれならば、下手な“ケモノ”の一撃ぐらいは至極簡単に防げるだろう。
「黒辺さん。私たちはこれに乗るんですか」
「ええ、一応見回りの魔法少女を増やして足止めをしてもらっていますが、少しだけ急ぎます」
「「「はいっ!」」」
まるで、警察などが使う装甲車のように後ろから入ると、そこは真っ暗闇だった。
おそらくは、余分に脆い箇所を作らないための物だろう。少なくとも、“ケモノ”の攻撃に対して安全性を得るための防御性能を求めるのなら、視界よりも防御を優先するのは当然の流れと言えよう。
そして、各自四人が席へと座りシートベルトをすると、それを待っていましたと云わんばかりに彼女たちを乗せた装甲車は動き出した。
振動の類は、殆どない。此処が悪路の類がない市街地であるという要素もあるのだが、それ以上に装甲車が高性能だろう。魔法少女に掛けるお偉い方の期待が伝わってくる。
「それでは皆さん。今回の戦術形態についておさらいしましょう」
「「「はい」」」
「まずは柳田さんについては、前衛にて敵の攻撃をブロックしてもらいます」
そう言って涼音は、どこからともなく取り出したチェス盤と騎士の駒を、“ケモノ”と思われる駒の前方へと置く。
「えーっ!?」
「そこ。ブーイングしない。この三人の役割を考えれば当然の結果なので、今は我慢してください」
「……分かりました」
今はという事は、いつかはある程度攻めへと講じてもよくなるのだろう。
そう、伊織は解釈をした。
実際伊織も、彼女自身が前へ出過ぎた結果、杏と優子を不必要な危険に晒された事による減点は嬉しくないものだ。
「(それに……。いや、そうするつもりはないから、今は関係ない話、か)」
と伊織は、最終的に結論付けるのだった。
♢♦♢♦♢
伊織たちが警報が鳴って部屋を出てそれほど時間が経たない頃、蓮花たちも先ほどと同じような警報を聞いて出撃する事となった。
如何やら、今日は“ケモノ”の出現が多いらしい。
「(……)」
その事実がどれほど深刻なのかは蓮花は知らないが、彼女の特出すべき感受性がこの事態を異常状態だと理解をさせる。
正直言って、もしも異常状態であるのならば蓮花は、伊織と組んで起きたかった。相性が良いという点もあったのだが、そちらの方が危険性が少ないからだ。
だがそれでも、蓮花は彼女自身が今できる事をやるしかない。
それに、前に一時的に組んだ事のある凪と雫もいる事であるし、そう問題は起きないだろう。
「本日の戦術形態についておさらいします。まずは、鈴野さんには前衛で敵の攻撃をブロックしてもらいつつ、《マホウ》で各自にバフを掛けて行って下さい」
「……はい」
「そして、烈火さんとティファニーさんは、前衛の蓮花さんと的との距離に合わせた
「「はいっ!」」
これまでの話を元に戦術形態を表すと、かなり歪なものだと言えよう。
まず蓮花自身が、前衛にてタンクとバッファーを同時にこなすという、途轍もない重労働。とはいえ、“ケモノ”の一撃はたとえ両種であろうとも油断できるものではなく、どちらかと言えばタンクの方を優先した方がいいか。
そして、烈火とティファニーが遠距離攻撃。盾役の蓮花から敵が遠ければ、範囲的な《マホウ》による攻撃を。その反対に蓮花から近ければ、弾き飛ばした敵をピンポイントで。
「(……、嫌な予感がする)」
別に、この戦術形態に何かしらの不満はない。いや逆に、こういった一人称による俯瞰の視界というものを苦手としている蓮花にとっては、このカタチは素晴らしいものにも思える。
しかしそれでも、それでも嫌な予感という正体不明の何かが後ろに着き纏っている気がする。
──比較的楽観的な蓮花自身でさえ、嫌な予感がするのだ。
もしも、こういった勘に強い伊織だったらこれが何か分かるかもしれない。
だが、生憎とこの場に当の伊織の姿はない。勿論、配備された通信機で連絡を取る事は恐らく可能なのだが、時間的にもう現場に着いている可能性を考えると、この選択肢は恐らく悪手。
であるのならば、気を付けつつも前を向くしかないのである。
現実は何時だって、突然にして目の前に現れる。
だからこそ、その一瞬を逃さないように、備える事が一番の重要であるのだ。
きっとこの先、望まれた事を、望まれたように──。
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お疲れ様です。
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