第047話『中東亜戦線』

 “乙女課”にて会議中。

 本当に、最悪な展開になった。いやまだ、考え得る限り最悪な展開であったのならばまだ可愛げがあったものを、考えてもそんな事はないと選択肢から排除する事例が向こうから来るとは。


「……。本当に面倒な事になったね」

「はっは。賀状は相変わらずの不運じゃな。そろそろ、前借した奇跡の負債はそろそろ払い終えたかの」

「──否定。まだ払い終えていないと、当機体は進言します」

「えっと、何でこんな面々の中に私が……」


 会議室に集まった面々は、全部で四人。

 まずは、梓ヶ丘の“乙女課”を取り仕切る皆森賀状。

 次に、“帰還者”の一人たる魔法少女ミコト。

 そして、同じく“帰還者”の一人たる魔法少女ガラテア。

 最後に大取を飾るべく何故かこの場にいる、“乙女課”梓ヶ丘支部秘書の飯田恵果。


「(ほんと、何で私みたいなパーティーピーポーがいるのでしょうか?)」


 さて、こうして会議を開催する羽目になったのは、当然の事ながら緊急事態であるからだ。

 そもそも、この梓ヶ丘は“ケモノ”の襲来がそれなりにあるとはいえ、この数はかなり可笑しな話。レーダーで確認できる限りでは、今だ百を超えている。

 しかして、そのどれもが丙種であることが幸いか。

 それでも、魔法少女の数は今回の試験を受けた半人前を含めたとしても、その数はぎりぎり十数人に届くかといった辺りである。


 普通なら、あり得ない事例。

 だが、不足の事態と言えど、当然の事ながら理由がある。


「──それで、が崩壊したとは、本当か?」

「少し、違うのぅ。確かに東亜戦線の一部が崩れたとはいえ、すぐに復旧作業を終えたからな。とは言え、それなりの数を日本国に入れたせいで他の支部もてんわやんわ、じゃな」


 ───中東亜戦線。

 それを説明するには、少し軍事的な話になる事だろう。



 ♢♦♢♦♢



 まず前提情報として、四十年ほど前に“ケモノ”がユーラシア大陸の中心部辺りに出現して、それらは人々を襲い、殺し始めた。

 勿論、日本を含めた各国は各自で対処を始めたのだが、大国の類というものはそう簡単に動く事ができなかった。いきなり現れて人々を殺し始めた正体不明の生物を殺しつくすため、そんなお題目では民主主義を動かすには足りなかったのだ。

 そんな中で、かなり強引ながらも民衆の意識を排除へと持って行ったのが、かつてのアメリカ合衆国である。

 だが、今でこそ分かる大問題なのだが、“ケモノ”には通常の兵器の類が通用しない──。

 結果として、クラスターも当時国際的な問題となったも通用しなかった。


 人類にはなすすべはない。──誰しもそう思っていない。

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 そんな危機的状況に現れたのが、あの黒い猫こと“プラン”だった。

 そして、魔法少女になった各国の少女たちは、どうにか大攻勢を続ける“ケモノ”等を退ける事に成功したのだった。──多大の犠牲を以てして。

 それに対して、前回完敗と呼べるほどの大敗を喫したアメリカ合衆国はというと、“ケモノ”の素材を使用した『Ⅴ弾』という画期的な兵器弾頭を開発した。

 それが、各国の対“ケモノ”戦闘における、通常戦闘の基盤となった。

 もっとも、特効状態の常時付与でもされていると云わんばかりな魔法少女には、流石に敵わないが。


 さて、話が長くなってしまった。

 “ケモノ”が今だ地球上に残っていて、ソイツ等は人類に対して攻勢を仕掛けている真っ最中。

 地球上の各地に今もまだ戦線が開かれている最中であるが、その内の一つが中国西部の一部から南部へと連なる“中東亜戦線”。日本と中国が共同で戦線を維持している、人類防衛ラインなのである。



 ♢♦♢♦♢



「まぁ、東亜戦線の件については当代の責任者に任せておくとして。今後の梓ヶ丘における“ケモノ”の掃討について、話をしようか」

「確か、データを見る限り、おおよそ10000を越える“ケモノ”、かの」

「……。包囲網は作っておいたほうがいいよな」

「じゃがどう対処する。もう、ここまで分布しているとなると、もう後は掃討戦しかあるまいて」

「──肯定。支持します」


 人々は、シェルターにて現在も生活中。基本的な生活必需品や食料などを考えると、大体一週間は持つ筈だ。だが、各自のストレス状態を考えると、早急な事態の収束をすべきなのだろう。

 だが、ただの掃討戦となると、それに掛かる時間は考えたくないほどに長い。何しろ、10000を超える“ケモノ”の軍団。そう簡単には片付けられない。

 つまる話が、どう調律を取るかという問題か、新たに対応策を思い付くのか。

 前者はともかくとして、後者についてはあまり現実的な話ではない。逃した“ケモノ”が潜伏した場合の処理がとても大変だからだ。もしも、新しく対応策を考えるとしても、“ケモノ”を感知できる魔法少女がいれば、話はまた変わっただろうに。


「しかし、どうしたものか。包囲してからの掃討戦なんて、現実的な話じゃない」

「なら、儂等が包囲網の中を蹂躙するか? 少なくとも、勝つ気しかないがの」

「いやしかし、何処にいるのか分からないだろう」

「そこは、儂が片っ端で目星がつくところを重点的に探せばよい」

「だが、それでも包囲に使う銃火器兵の事を考えると、それはあまりにも非効率的だ」


 会議は進まず、され躍る──。

 なんて話は聞くけど、それは結論が決まっているからに過ぎない。

 つまる話が、それは答え合わせだ。ただ、会議をしたという事実を現実のものとするための行為に過ぎないのだ。


「……。そう言えば、は?」

「彼女じゃったら、適当にそこら辺を歩いているんじゃなかろか。あ奴、集団行動が苦手じゃしな」

「──肯定」



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