第020話『みらくる味』
伊織は、とても暇をしていた。
とは言っても、そのせいで義妹のフレイメリアに今週分の買い物を頼まれたのだから。これは伊織からしてみれば、役得なのか、それとも勘違いな上にただ損をしているだけなのか。ただまぁ、少しだけ部活かバイトでも入れておけばと思ってしまう伊織なのであった。
「──あ~っ、暑い。どう考えても、今夏だよなこれ」
海岸線に沿って自転車をこいでいる伊織の視線の先にあるのは、ただ透き通っているとは到底言えない、ごく普通の海辺。けれど、こんな暑さの中一時間はこいでいる自信のある彼女からすれば、何割増しかで透き通っている気が──。
「……駄目だ。頭が暑さでやられていやがる」
今日の気温は、確か30℃ぐらいだった気がする。聖シストミア学園に伊織が入学してから一か月と少しが経っていた気がするが、五月としてはおかしな気温だ。
だが、梓ヶ丘ではそれは大した気温ではない。元々の気候に加えてヒートアイランド現象の相乗効果によって更なる高みへと昇り詰めるのだが、住んでいる本人たちからすれば昇り詰めなくてもいいという話だ。
──ガコン。
流石にこのまま熱中症にやられる訳にはいかず、伊織は通りがかった自販機でミネラルウォーターを買った。触ってつい思ってしまうのだが、この冷たい水と容器を額に当てたら、と。
「あ゛~っ、冷たい。冷たいなぁ~」
我慢できなかったようだ。
けれど、そんなお嬢様とは到底言えない行為(いつも)をしている伊織を、一体誰が注意できるのだろうか。蓮華は論外だとして、カレンは所属している部活があるとかで、此処には来る筈がない。
脅威が来ないことを知った伊織に、対処できない隙はない。もしも、そんな対処できない事があうのだとすれば、十万ぐらいかの確率で知り合いの的場かシェノーラかに……会う……。
……。
「……、今日は暑いですね」
「あら、伊織じゃないの。こんなところで奇遇ね」
「あぁ、伊織か。パシリか?」
「そんなんじゃねぇよ。ただの買い物だ」
傍から見ればパシリとしか思えない事も、伊織の義妹式色眼鏡があればそんなことないの一言で済ませる事ができる。
さて、伊織が偶然出会って話題を誘導しようと話し掛けたのは、先ほども挙げた的場とシェノーラご本人。噂をしているとご本人が登場するという噂、如何やら事実であったらしい。
「そっちこそ。珍しい組み合わせで一体何をしている?」
「いや、偶然。偶然。丁度私は此処で彼と会ってのぅ。偶然、伊織君の話題が上がって、それから仲良くなったぞよな」
そんな事もあるのかと思う伊織に対して、今度は的場の方が話しかけてきた。そして、何故かシェノーラは空気を呼んだように、この場を離れるのだった。
その事実に、伊織は少しだけ嫌な予感がするのだが、もう遅い。
「なぁなぁ。彼女? 彼? まぁどっちでもいいんだけど、一体誰なんだい?」
「……? さっき知り合って意気投合をしていたんじゃないのか? それも、私の話題で」
「まぁ、ある程度は分かったんだけどね。けど、問題はそこじゃないんだ」
いつもへらへらとしていて掴みどころがない的場であったが、今現在伊織が多少目を見開くほどには真剣な眼差しだった。これには彼女も、少しだけ驚いた。
さて、そんな真剣な的場が言う問題とは、一体何のことだろうか。
「……。男と女、どっちなんだい?」
「……はぁっ!?」
的場が言う問題とは、シェノーラの性別が一体どっちという話だ。
そして、シェノーラの見た目や体格が女性のそれだというのに、男性か女性かの言葉が出るという事は、そんな話題が先ほど振られたといったところだろう。
という事は、だ。伊織も前にそのような話題が振られた時なんかは、彼女自身も驚くほどに瞳を見開くのだった。
「……。どっちでもいいだろう、そんな事。それに、あった時の自己紹介か何かで、ノーラが自分の性別を言わなかったか? 前に勘違いをされたか何かで、自分の性別を言うようにしていると耳にしたが」
「うん。それは俺も聞いたよ」
その話を的場が知っているのなら、話は早く問題はないように思える。
しかし、的場の問題はそこじゃないのだ。
「で、一体何が問題なんだ?」
「シェノーラさん、性別がどちらでも可愛いと思う、よな。街中で見かける女子学生や伊織さんよりも」
「なっ!? 失礼な! と言いたいところだが、私もなんとなくは分かるから言えないな」
伊織視点から言えば、今まで会った性別問わずに可愛い子を選ぶのだとすれば、きっとシェノーラは五本の指には入ってくる筈だろう。勿論、一位は義妹のフレイメリアなんだけど。
それで一体シェノーラの何が可愛らしいのかというと、その所作の一つ一つが丁寧で、まるで大和撫子のようであった。西洋系の血を引くカレンと対極に位置していて、それでいてどちらも可愛らしい。
ちなみに、見た目だけはそれっぽい伊織は、所作や言葉遣いでどう色眼鏡で見ても大和撫子にはなれない。
「それで、一体どっちなんだ?」
……。
「──別にどっちでもいいんじゃないのか。問題は、自分自身がどう思うかじゃないのか」
面倒くさい反応で答える伊織であったが、それは彼女自身の本心でもあった。
前世が男性であった伊織としては、今世において男性とお付き合いしようなどとは、到底考えられないものだ。これは前世今世含めた彼女のカタチなのだから、覆ることはきっとないのだろう。
一方で、伊織は女性が好きだ。
幼少期の頃は確かに女性の裸体で興奮したりもした。それは、女性としての人生を十数年過ごした落ち着いた今となっては眼福だと思うこそあれ、興奮したりはなくなった。それが、彼女の今現在の男性面としての在り方。
そう、誰が好きなのか。それは、自分自身のカタチで在り方なのだ。
だからこそ、伊織はフレイメリアが好きだ。
その適当つつも本心な伊織の言葉を聞いて、的場ははっとした。きっと彼女の背後からは、後光が射すことだろう。
的場自身が何に対して何を思うのか、それは彼自身の自由だ。
だからこそ、女の子よりも女の子らしいシェノーラに対して何を思おうとも、それは的場自身の自由だと思う。
「……、それもそうだな。俺が悪かったよ」
「何が悪かったと思っているかは知らないが、まぁどういたしまして、とでも言っておこうか」
「それで、内緒話は終わったのかの? 随分と熱心に話していたそうだけど」
伊織と的場の話が一応終わるを告げた。その瞬間を狙って、そんな二人の会話に今度はシェノーラ自身が参加してきた。
「は、話を聞いていたのか!?」
「私を巻き込みたくなさそうだったから、聞かなかったけど。はい、ジュース」
そう言って、シェノーラは自分の分も合わせたジュース三本の内、適当な物を二本渡してきた。ただ、伊織が受け取った物はともかくとして、的場が貰った名状しがたい色彩な飲み物は、果たして飲んでも大丈夫なのだろうか。
「……。本当にこれを飲んでも大丈夫なのかい?」
「大丈夫と思いますよ。多分、試飲はしているだろうし、ちゃんと何の味か書いているから」
「───“みらくる味”……って、的場ァ!? ……お前、死ぬつもりなのか?」
伊織が的場が手にした飲み物の味を確認した後、彼女はまさかの光景に遭遇することになった。
──的場が“みらくる味”とやらの飲み物を、今口を付けようとしているのだ。
確かに、好意を寄せているであろう人から飲み物を貰う、そんなシチュエーションはそうそうないだろう。伊織だって、フレイメリアに飲み物を手渡しされたら、何も考えずに飲む事だろう。そう、これは伊織が当事者ではなく、他者だったからこそ分かった事だ。
しかし、そんな伊織の忠告を聞いているのか無視しているのか、的場の動きは止まることはなかった。
──そして、
──ドン!! と、腹に響くほどの重厚な爆破音が、辺りに響き渡った。
あの“みらくる味”とやらの名状しがたい色彩をした飲み物を飲んだ音ではない。
危うく炭酸水を落としかけた伊織が爆破音のした方へと振り向くと、まさかあの方角。おそらくは、聖シストミア学園の方向だと彼女は思う。
「──何事!」
いや、聖シストミア学園で爆発が起こる事は可笑しな話ではない。例えば、調理室や理科室でガス爆発が起これば、そうあり得ない話ではないのだろう。
だが、それは小規模な爆発によるものでしかない。
だからこそ、今回のような数キロ先まで余裕に分かるほどの規模な爆発は、外的要因がない限りは無理なのだ。
その答えを伊織が言う前に、──答えは発せられた。
『──ケモノノ警報発令。危険度は『不明』。至急、近くのシェルターに避難してください』
という事は、今回の件はおそらくはケモノ故なのだろうか。
伊織としては、さっさとケモノの討伐へ赴きたいところなのだが、あまり彼女自身が魔法少女だという事はあまり他人に知られたくはない。蓮華? あれは良い意味でも論外だ。
だからこそ、避難させるべきなのだろう。
「的場、ノーラ。この付近にあるシェルターは、確かショッピングモールの近くにあったよな」
「伊織はどうするぞよな?」
「私か。私はメリアの避難があるからな。一回、自宅に帰るつもりだ」
「………分かった。伊織も、すぐに避難してこいよ」
そう言って、どうにか的場とシェノーラを伊織は避難を促すことに成功した。伊織の言葉が聞いたからではない。ただ、伊織の義妹思いが周知の事実だったからだろう。
「……、ようやく行ったか」
的場とシェノーラの姿が見えなく頃合いで、伊織は少しだけ溜息をついた。
伊織とて、このまま脅威度が高いケモノを見過ごす訳にはいかない。彼女は誰かを守るために、魔法少女になった訳ではない。ただ、己の願望をかなえるために魔法少女をやっているのだ。
故に、これは人々の脅威でもあり、同時に好機でもある。
「──」
伊織は、何を思ったのか口笛を吹く。
そして、それに答えに飛んできたのは、一羽の黒い鳥。伊織の目の前に降り立って分かったのだが、おそらくは烏なのだろう。
烏と言っても、何かしら特殊能力を持っている訳ではない。魔法少女の中には動物を使役する人もいるらしいが、伊織の烏は特別な能力があったりはしない。連絡用に飼っているだけだ。
確かに、伊織とてあの義妹が心配だっていう言葉は嘘ではない。あの部屋は、電話も碌にないので、こういった方法が一番正確だ。
「さて、そろそろ行くとするか……。と言いたいところだけど、それは無理そうだな」
烏の足に文を括り付けて飛ばした伊織は、そのまま爆発地である聖シストミア学園へと向かおうとする。だが、そううまくは行かないと、彼女の勘がそう告げている。
あの日以降、長時間出る時はケースに日本刀を入れて歩くようにしているのが、今回はそれが功を奏したようだ。
「
特別な光と共に、伊織の姿は羽織を纏った男性のようなワイシャツに黒いズボンといった格好になった。勿論、己への認識を変える『アルゴの眼鏡』を掛けた状態で、だ。
そして、下手な衝撃ではびくともしない頑丈な漆黒のケースの蓋を開ける。その中から抜き出した刀を腰へと差す。
そんな戦闘準備が完了した伊織に康応するかのように、ケモノの軍勢が現れた。
『菟ゥゥゥゥ……』
『絵モ野! 絵モ野!』
『絵モ野ガ気タ!』
「──一匹二匹三匹、っと。少なくとも、三十はいるよな」
伊織の目の前に広がるケモノの軍勢。その大半は、乙2種や丙種などといった弱めなケモノなのだが、数の暴力というものはとても偉大だ。たとえ、魔法少女という人間兵器でもあり英雄でもある、そんな存在がいたとしても、その価値が揺らぐ事はない。
だがしかし、伊織は魔法少女である前に高い剣術の腕前を持つ。勿論、相手が多人数だった場合の戦い方も、しっかりと叩き込まれている。
「まぁ、それらは特に問題はないが、どうもあれだけは少々骨が折れそうだ」
『……』
「──は、無口か。それとも、それだけの腕が自分にはあるのだと、そう確認しているのか」
そう、だからこそ、そろそろ行くという簡単な行為を伊織は無理だと断じたのだ。
伊織の視線の先にいるのは、ケモノの軍勢ではない。その中にいる一際強力なケモノを、注視しているのだ。
ソイツは、おそらくは侍だ。和風の鎧を身に纏い、大太刀をしょい込むその姿は、多少の思い込みはあるのかもしれないが侍。それも、伊織の肌が反応していないから、同等以上ではないのだろう。しかし、それでもケモノで侍だというのは、その程度の差、余裕で詰めるだけの能力がある筈だ。
「──さて、このままだと出遅れそうだから、本気で行かせてもらう!」
その言葉と共に、伊織はケモノの軍勢の中へと飛び込んでいく。
伊織が刀を振るう度に舞う、ケモノの血飛沫。それは彼女にとってもかなり邪魔となるものだが、同時にケモノ等にとっても邪魔となるものだ。
これまでケモノと戦ってきた伊織が考えるに、ケモノ等には意思が知恵があるように思える。もしもそうでなければ、人を獲物として捉えることなんでできないし、彼女の裏を掻こうともしなかった筈だろう。
だからこその、舞う血飛沫。
そう、それは無意味なんてものではなく、
『唖、唖ァァァァ!』
それでも、蛮勇という者は何時でもいるもの。
果たして、血飛沫が舞う荒れ狂う戦場にて、動き回る伊織の動きを捉える事ができるのだろうか。しかも、彼女の動きはケモノの体の影や死角に入る事でどう動くか不明な上、振るわれる刃は的確に急所を切り裂いている。
『唖……』
無理だった。
いつの間にかすぐそばまで接近された事に気付いたケモノであったが、なんとか足止めをするためにその爪を振るう。だが、それは伊織の予測の範囲内なようで、流れるように躱された後に感じるのは、自身の冷たくなる体と朦朧する意識。
そう、あっけないほどに、蛮勇なケモノは命を落とした。
「──ようやく、お前だけになったな」
『……』
今伊織の前に残っているのは、あの鎧武者姿のケモノ。
確かに、先ほど伊織が言ったように、簡単にいきそうにない。おそらく、鎧武者姿のケモノの鎧の部分に当たる他でいう装甲は、伊織の腕を以ってしても傷程度が関な山な堅牢な物。それに加えて、あの混戦で彼女がちょっかいを出しても軽くいなす、その剣の腕前。正直言って、とても骨が折れそうだ。
そして、伊織が挑発でもするかのように刀の切っ先を向けるのに対して、鎧武者姿のケモノはただ正眼の構えを取るばかり。
「はっ。あとは剣で語るのみか。面白い──」
──臓腑今だ残る屍の地にて、試合舞台が開演する。
一足単に間合いを潰す伊織に対して、鎧武者姿のケモノはそれを難なく迎撃に奔る。鋭い振り下ろしが、彼女の脳天目掛けて落ちて来るのだ。そう簡単に反応できるものでもない。
それは伊織も承知の上だ。
「(まずは、どうにかして隙を作り出さなきゃいけないな)」
そう、例えば伊織が《富嶽轟雷割り》で堅牢な鎧ごと、鎧武者姿のケモノを潰しに掛かっても、ソレは簡単に対処できるだろう。しかも、下手に軌道を変えようものなら、その絶好の隙を狙われかねないのが、とてもたちが悪い。
だからこそ、伊織はまずその鉄壁の防御を崩しに掛かる。
《柳田我流剣術、朧突き・乱》
前に海豚型のケモノ戦において、伊織はソレが迎撃にて放つその影に隠れて致命的な一撃を加えたのだが、それは何も近接戦においても不可能ではない。むしろ、相手の武器や腕の影や死角に入る事で効力を発揮する技なのだ。
──ガン! ガン! と、伊織の連撃を弾く金属音がする。
伊織が狙っているのは、先ほどまでの急所を狙った一撃必殺の類ではない。そもそも、それが無理だと彼女が断じたから、こうしているのであって。
だからこそ、相手の防御を剥がせる一撃か、防がざるを得ない一撃で崩しに掛かっているのだ。
「──っと!?」
伊織の目の前に、鋭い切っ先が映る。
鎧武者姿のケモノだって、何も無策で受けに回っていたのではない。伊織の技の隙、彼女からしてみればほんの数瞬程度の隙、その僅かな間に刃を突き入れたのだ。
しかし、伊織とてある程度は予測の範囲内というか、何時かはありそうだと心構えをしていたのが幸いした。おかげで、弾く事にはなってしまったが、何とか防ぐ事には成功した。
だが、──。
「──流石に重いな。完全な力比べとなったら、どう考えても私が負けるな」
手に痺れと共に伝わるのは、先ほどの鎧武者姿のケモノの一撃の重さ。もしも、先ほどの一撃を刀越しでも受けたのだとすれば、きっと伊織の体は無事では済まなかったのだろう。
「(しかし、この力量。私は戦ったことはないけど、少なくとも乙種。下手をすれば、甲種もあり得るじゃないだろうか)」
再度、伊織は鎧武者姿のケモノと刃を合わせる事で、そう確信する。
伊織としては、このまま自分の剣術だけで戦っても構わない。実際のところ、このまま時間を掛ければ、彼女の技はきっと鎧武者姿のケモノの隙へと差し込むことができるのだろう。
しかし、それは聖シストミア学園での出来事を無視することになってしまう。忘れているのだろうが、向こうが本命な気がするのだ。
つまるところ、伊織はかなり本気で戦っているのだが、鎧武者姿のケモノからしたら時間を稼ぐという選択肢もある。そうかもしれないと彼女が思うのは、そのケモノの消極性に疑問を感じたからだ。
「──止めだ、止め。このままじゃ、埒が明かねぇ」
このまま戦っても、伊織は引き分けはあっても、勝つ事は不可能だろう。確かに彼女の腕は鎧武者姿のケモノよりも上なのだが、身体能力で押し切られる可能性がかなり高い。それは、かけっこも同様に。
何を思ったのか、伊織は手にした刀の刀身を鞘へと納める。
別に、このままでも柳田流の技は出せるのだが、威力は勿論落ちること。それに、伊織はそんな気、さらっさらないらしい。
「──七ノ死、己が内に刻め。我が剣は魔性を絶つ者である。」
それは、一種の自己催眠だ──。
本来催眠とは、暗示による意識を不明瞭にした上で操るものだが、今現在伊織が自分自身に使っているものとは訳が違う。
伊織の扱う『柳田流剣術』は、戦闘意思の制御法に重点を置く流派だ。故に、戦うために身を引き締めるのと、魔性相手の戦闘準備、結果は違えど手段は同じになる。
なればこそ、魔性相手の戦闘意思を自ら施した伊織が、どうして魔性を斬れぬと言うのだろうか。
「──」
『──』
予感する。これを制した方が、勝つのだと。
──合図も言葉もなく、最後は切って落とされた。
伊織と鎧武者姿のケモノは、同時にお互いの間合いを潰しに掛かる。互いの刃が届く距離になるまでの時間、数瞬程度だったのだろう。
これは先ほどまでの、手の内を探りつつも互いの命を狙う攻防ではない。ただ、先に刃が届いた方が勝つという、シンプルな攻だ。
そして、──。
──斬という音と共に、事は終わった。
屍はもう消え、試合舞台にただ一人立ちずさむのは、顔に付着した血飛沫を拭う伊織の姿。対して、地へと倒れ伏すのは鎧武者姿のケモノ。そして、その鎧には鋭利な刃物で切られた後が残るばかりであった。
🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷 🔷
お疲れ様です。
感想やレビューなどなど。お待ちしております。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます