25_エピローグ その1

今朝は眠い。俺はお姉さんと一緒のベッドで微睡まどろみ中だ。

とりあえず、目は覚めたのだけれど、まだ目が開かない。

昨日、お姉さんと夜更かしをしてしまったからだ。



「あっくん…おはよーございます」



絶対に起こす気がないとすぐに分かるくらい小さな声でお姉さんが声をかけてきた。

多分、ベッドのすぐ横でうつ伏せに寝転がり、両手で頬杖をついてこちらを眺めている気がする。いつもの様にニコニコしながら。



「昨日は遅くまでえっちなことするから、今朝は起きられないんだぞぉ」



お姉さんに頬を指でツンツンされているようだ。

まだ目が開いていないので、びっくりして顔をしかめてしまった。


寝室は厚手の遮光カーテンが締めてあるので、全部閉めると殆ど外の光が入らず、快適なお休み空間となっている。寝ようと思ったらいつまででも寝やすい環境が整っている。

お姉さんは作家なので、調子がいい時はエンドレスに執筆してしまう。

朝のうちに寝ることもあるから、それなりに気を使ってのことらしい。



「あっくん、起きないとぉ、いたずらしますけど、いいですねー」



もう、いたずらなら、既にされていると思うのだけれど……


お姉さんと暮らし始めて1年が過ぎ(半分くらいお姉さんは入院していたけれど)、ある時ついに結ばれた。

そのあたりのことを詳しく語ると、またどこかで誰かが怒られるはずなので別の機会にしたいと思う。


とにかく、昨日はやたら盛り上がったので、遅くまでお姉さんと「研究」してしまった。お互いどこが恥ずかしいとか、どこを触れれると気持ちいいとか、「研究」するのが最近の二人の流行はやりになっていた。

絶対周囲の人には言えない流行だった。


(ちゅ)首筋にキスされた。くすぐったかったのでビクッとなってしまった。



「あっくん、起きてるんじゃない?」



いえ、寝てます。俺はまだ眠いのだ。昨日は寝たのが夜中の3時頃だったと思う。

そして、今は多分朝の8時くらい。睡眠時間が少し足りない。

俺は最低でも6時間くらいは寝たい方だ。



(ふーーー)←お姉さん

(びくっ)←俺



どうもお姉さんは耳を攻めてきた。俺はどうも耳が弱い傾向にあるみたいなので、ついつい脊髄反射してしまった。お姉さんは日々の『研究』の成果をいかんなく発揮している。



(ぺろぺろ)←お姉さん

(びくっ)←俺



だから、耳はダメなんだって。これ以上攻められないように寝返りを打って位置を変える。お姉さんに背を向けておけば大丈夫だろう。


ぴと、とお姉さんが俺の背中にぴったりくっついてきた。

背中には柔らかい感触が伝わっている。この弾力、このボリューム感、他の物では替えが利かない。あたたかさまで含めてちょっと嬉しくなっていた。ここまでは。



「今日は耳かきの日かなぁ」



なにその生産性のない日は!?さっきから耳元に視線を感じると思ったら、お姉さんは俺の耳に注目していたのだろう。なに?俺の耳汚いの!?


くんくん、と次の餌食は首元だった。

お姉さんの息がかかるくらい近くからにおいを嗅がれている。



「ふふふふふふ」



なにその笑い!?臭いの!?俺って臭いの!?ちょっと嫌だなぁと思い身体を丸めてお姉さんから逃げる。

追従するようにぴったりくっついてくるお姉さん。そして、何度も何度も首筋を嗅いでくる。やめてー!そういうはよくないと思いまーす!



「寝てるなら大丈夫だよねぇ」



そう言って、ぴったりくっついたままお腹の辺りに手を回してくるお姉さん。

背中にはおっぱい。首筋には顔がぴったり当てられている。

そして、俺の脚には、お姉さんが脚を絡めてきて最早身動きもできない状態に。

お姉さんは手で俺のお腹辺りを撫でながら、首のにおいを嗅いだり、首筋を舐めたりしていた。


こ、これは……フェチだ。においフェチ!?お姉さんの性癖に違いない!!



「あっくん、お腹にもう少し贅肉があってもいいんじゃないかなぁ(ぽつり)」



へそ下など、指の感触でやわらかいところを探していくお姉さん。

その辺りは、ホントにとってもナーバスなところで、あんまり触られると朝から取り返しがつかないことになるのですが……


胸とか腕とかあちこち撫でまわされているうちに、こちらも段々と変な気分になってくる。

お姉さんが触るところが次第に下腹に集中してくるあたり、お姉さんは「柔らかいところフェチ」でもあるようだ。


俺は下腹の贅肉を揉まれながら、首筋を嗅がれている。もう男としての大事ななにかを失った気さえする。



「んんん……」



「もうすぐ目覚めるよ」という合図ともいうべき唸り声をあげても解放してくれない。

次に、顔を洗う様な仕草で両手でガシガシ顔を拭きながら「ん゛ー」と大きな声を上げたら、お姉さんがピタリと止まった。


ゆっくり寝がえりを打ってお姉さんの方を向く。抱き枕の様に腕と脚を絡めてお姉さんを全身で抱きしめた。



「ひうっ」



なんだか変な、そして可愛い悲鳴が聞こえたかと思たけれど、お姉さんはおとなしく抱きしめられている。これならもう一寝入りできるのでは……!?

少しずつ微睡まどろみが戻ってきたのだけど……



「あれ?あっくん、おっきくなってる?」



お姉さんのお腹の辺りに当たっている俺のナニのことを言ったようだ。

そりゃあ、元々生理現象もあっただろうし、あんだけキスされたり、舐められたりしたら自然とこうなるさ。


……その流れで、結局一戦交えることになった。



― 約1時間後



「あっくん、朝から元気すぎだよぉ!!」



ベッドの上で全裸にタオルケット1枚でうつ伏せで寝そべるお姉さんが枕を抱きしめながら抗議めいたことを口にした。

その点に関しては、申し訳ないのだけれど、お姉さんが可愛いのがいけない。

しょうがないのだ。諦めてもらうしかない。

可愛かったし、いい匂いがしたし、可愛かったから。(大事なことは二度言った)


俺は誤魔化す様に無言でお姉さんを抱きしめて、静かにキスをした。

ちょっとだけ、いたずら心で舌を入れてみた。

意外にもお姉さんが受け入れてくれたので、もうちょっとだけ絡めてみて楽しんでみた。


……その流れで、結局一戦交えることになった。



― 約1時間後



「あっくん、朝からちょっと元気すぎない!?」



ベッドの上で全裸にタオルケット1枚でうつ伏せで寝そべるお姉さんが枕を抱きしめながら抗議めいたことを口にした。

つい1時間前に同じようなやり取りをしたような気がするけども……


そう言われても、ついついそうなってしまう事ってあるよね?いや、知らんけど。

俺は本当にお姉さんが好きで好きでたまらない。そんな人に抱きつかれたら我慢することなどできないのだ。



「あっくんとイチャイチャしようと思ったのにぃ」



半眼でお姉さんが責めてきた。

イチャイチャには違いないのだけど、お姉さんの思惑とは違ったらしい。

かなり激しいイチャイチャになってしまった気がする。

それはそれとして、いい加減俺も目は覚めていたけれど、運動のしすぎでお腹が空いてきた。



「お姉さん、何か食べに行く?(はむはむ)」とお姉さんの掌を甘噛みしながら聞くと、「こんな状態じゃしばらく外に出られないよぉ」と怒られてしまった。


ベッドの上はぐちゃぐちゃだし、お姉さんの髪も乱れまくっている。

お互いの身体も色々な体液でぐちゃぐちゃだし、何とかしないといけない状況だった。


俺の胸元にはお姉さんがいたずらで付けたキスマークがあった。

見えないけど、首筋にもついていると思う。

かなり吸わないとキスマークって付かないのね。

このキスマークは、お姉さんの独占欲なのか、いたずらなのか、はたまた浮気防止なのか。

そういうお姉さんの行動のひとつひとつが俺は好きだし、可愛いと感じていた。



***



しばらく出かけられないので、外に食べに行くのは諦めて、俺が朝ごはんを作ることになった。

ちなみに、お姉さんはシャワーを浴びに行ってしまった。


今朝は、トーストと目玉焼きにしようと思っている。それにレタスを1枚、2枚付ければ立派な朝ごはんだろう。

コーヒーもあれば完璧と言える。


ところで、お姉さんはお金を使わない。かなりお金を持っているし、収入もすごいみたい。

それでも、金銭感覚が狂うことなく普通の生活というか、彼女の収入から考えれば慎ましい生活をしている。


そんなお姉さんがお金を割と使っているのが「食器」だ。

割といいものを揃えているらしい。

唯一の趣味って言っていたし、自分で稼いだお金で買っているので、それ自体は全然いいと思う。


ただ、以前俺が気軽に使っていた「ロイヤルコペンハーゲン」は、めちゃくちゃ高かった!

カップとソーサーの1セットだけで2万5千円もするらしい!

俺がフレンチトーストを載せるのに使った皿は1枚1万3千円だった……

誰だよ、100円ショップのより少しいいやつって言ったのは!?


真っ白で無地のやつなら安いかと思って、そっちでコーヒーを飲もうと思ったら、そっちは「マイセン」とか言ってカップとソーサーで1セット4万2千円することが分かり、俺は怖くて触れなくなった。


俺は、先日俺用に高級コーヒーカップ専門店「ダイソー」で自分用のマグカップを買ってきた……


さて、お姉さんがシャワーから出てきたころには、朝ごはんができているようにしようかな。



***



お姉さんとの生活で、新しい発見は「ロイヤルコペンハーゲンは高い」だけではなく、他にもあった。

普通の通帳は、1億円台の桁まできちんと表示できることもその一つ。

お金の話はお姉さんの妄想という事も考えていた。

実際、通帳を見せてもらうことがあったのだけれど、ガチだった。


しかも、お姉さんは無駄遣いしないので、どちらかというと増え続けていた。

人気作家の印税があんなに入るなんて知らなかった。

ただ、約1年前の会話として、こんなのもあった。



「お姉さん、お金はちゃんと管理しないと盗まれたら大変だからね。」


「うん」


「あと、俺の口座にもかなり入れてくれてるけど、俺が持ち逃げしたらどうするのさ!?」



とりあえず、俺名義の通帳にも1億円以上入っている。

大学の費用と、年金代らしい。

俺はマサチューセッツ工科大学にでも入るのか!?



「あっくんがいなくなったら……あっくんが、お金に困らないように追加で入金を……」


「こら!課金しなさんな!」


「お金の管理なんてどうしたらいいのか分からないよぉ。じゃあ、そこらへんは、あっくんが何とかするっていうことで……」



お姉さんが忘れてしまうことがあったらいけないので、今は一応俺が管理している。

そう言っても、「大きい買い物をするときに一声かけて」という程度だけど。

お姉さんはほとんど高い買い物をしないので、声をかけられたことはない。


お姉さんも全てが治ったという訳ではなく、治らない点もあった。

それを受け止めるのに、またしばらく時間がかかった。


ただ、今回は一人じゃない。俺と二人で受け止めるようにしていた。



***



収入と言えば、お姉さんがラノベ作家「幸福の木」として執筆活動を再開した。


でも、最近はずっと机の上に突っ伏している。

執筆再開として最初に手掛けたのは、「お姉さんと僕」シリーズだった。


内容はタイトルそのまんまで、年上の「お姉さん」が、年の離れた男の子「僕」と仲良くなっていく話。

基本的に近所の公園が主な舞台の話だ。

なんとなく人気だと思っていたけれど、よく調べるとかなりの人気だった。



「どうやっても『お姉さん』が『僕』と結婚しちゃうの!」



お姉さんは、もっとほわほわした世界を描きたいと思っているらしいけれど、思ったように行かないらしい。


そう言えば、出版された最新刊では、「お姉さん」と「僕」が公園の世界を出て、遊園地に行く話だった。

遊園地に行くことで世界観が少しずつ変わってきてしまったらしい。


そして、物語の「お姉さん」は現実のお姉さんの分身みたいな存在だったらしく、理想の「僕」は俺のイメージで上書きされてしまい、お姉さんの中では「お姉さん」が「僕」に過激ないたずらをする話とか、「僕」が成長して「お姉さん」を押し倒す話とかしか思いつかないららしい。


その点について、俺は反省しているけど、全てはお姉さんの頭の中の物語なのでそれ以上俺にできることはなさそうだった。


さて、そろそろ朝食の準備ができた。

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