13_お姉さんの部屋を調査

「お姉さん、この家にFMラジオってあるかな?」


「ラジオ?…ごめん無いと思う。ラジオが聞きたかったらネットで聞けるよ?」


「うん、ありがとう」



そう言って、部屋を出た。気遣ってくれたけれど、ラジオが聞きたい訳じゃない。

俺の部屋いえにはあったのを記憶している。昔買ったのがある。

一応、新しいものをネットで調べたけど、小さいラジオってあんまりなくなっているみたいだ。


手のひらサイズくらいはあるんのだけど、自動チューナーで便利なんだけど、俺が使いたい使い方ができるのかは微妙だった。しかも高いし。

ちょっと面倒だけど、自分の部屋いえに戻ってアレを取ってくるか。


ちゃんとお姉さんに一声かけてから家を出た。

お姉さんもついてきたいと言っていたけれど、ストーカーの件があるので家にいてもらうようにした。マンションならばセキュリティは完璧だからだ。


とりあえず、俺の部屋いえから工具箱とポケットFMラジオを持ってきた。

あとは、通販で盗聴器を1個買っておいた。

これは自分が持っていないことが分かっていたから。


それにしても、今日注文したら翌日には自宅に盗聴器が届くって…すごい時代だ。

とりあえず、FMラジオにイヤホンを指したら「簡易盗聴器発見器」の完成だ。


原理は簡単。盗聴器が仕掛けられているとしたら、当然盗聴しているだろう。

何らかの方法で音を外部に漏らしている。

その多くの場合は、電波で外に音を出す方法だ。


簡単に言うとミニFMラジオ局を家の中に設置しているようなもの。

盗聴者はその「放送」を安全な場所から聞いているのだ。

やり方次第ではネット経由というのも考えたけれど、お姉さんの部屋いえの回線に不審な接続はなかった。


デジタルがないなら、次はアナログという訳で「簡易盗聴器発見器」の登場という訳だ。



「あっくん、な~にしてるのっ?」



リビングのローテーブルを占拠して作業をしていたら、座っている俺を覗き込むようにして歌うようにお姉さんが問いかけてきた。

身体を傾けているので、髪が重力に従いまっすぐに垂れ下がっている。


亜麻色でふわふわの髪は室内の照明に照らされてキラキラと輝きつい目を奪われる。

頭の上の方は天使の輪と言ってもいいくらいに髪の毛の光沢で光の輪が見えるようだ。

そして、笑顔。相変わらず素晴らしい笑顔。その笑顔に名前を付けるなら「エンジェルスマイル」。


天使が降臨した!いや、胸の辺りを見たらそのボリュームから女神だったことに気づく。天使にはあり得ない大きな胸。女神様だ!



「あっくん、いま変なこと考えてるよね?」



お姉さんが、半眼ジト目でこちらを見ている。

お姉さんは時々とても鋭いのでやりにくい。

そして、美人なのでつい見とれてしまうことがある。

これはどうしても避けられないし、慣れることができないでいる。


今はちゃんと申し込んで(?)、正式に彼女になってもらったので、何とか徐々に慣れていきたいところだ。


そのお姉さんには、「盗聴器を探している」と素直にいう訳にはいかないので「秘密~」と思わせぶりなことを言っておいた。


さて、ここで早速問題発生だ。FMラジオはしばらく使っていなかったので、うんともすんとも言わない。電池は新しい。それでも動かない。しょうがないので、一度分解してはんだ付けをやり直す。


部屋いえからはラジオだけじゃなくて工具箱も持ってきておいてよかった。

工具箱には、はんだごてとはんだが入っていた。

なぜそんなものが入っているかって?

そんなの、紳士のたしなみだから当たり前だろ?


はんだ付けをやり直すと、FMラジオが復活した。

どこかは分からないけれど、はんだ浮きしていたのだろう。

はんだ付けをやり直すことで接点が復活してまた正常に動き始めたようだ。


ラジオのボリュームを回すと雑音が聞こえて、時々FMの放送が入る。

これが正常な動作だ。最近のラジオは選曲が自動になっているので、この作業はこんなダイヤル式の古いラジオでないとできないだろう。


部屋いえに音楽を流し、ダイヤルの一番低いところから一番高いところまで回しながら注意深く音を聞き逃さないように聞いてみる。


盗聴器があれば、ラジオがその音を受信して部屋いえに流れる音楽の音が聞こえるはずだ。リビング、キッチン、トイレ、ふろ場、脱衣所、お姉さんの仕事場、寝室、と次々部屋を移動して同じ作業を繰り返す。


……広いな!この部屋いえ


結局、全ての部屋で同じ作業をやってみたけれど、盗聴器は見つけられなかった。


ストーカーは半永久的に音が聞こえるように、どこからか盗聴器に電源を供給させる。そのため、コンセント付近のグッズに擬態させることが多い。

例えば、二股コンセントなどが怪しいと考えていいだろう。

電源周辺は特によく調べたが、それでも見つかっていない。


そこで、念のために準備しておいた盗聴器を取り出す。

とりあえず、スイッチを入れてリビングのローテーブルの前に置いてみる。

これは電池式なので、いいとこ持って1週間くらいしか使えないだろう。

そのあたり、今回のテストには全く問題がない。


とりあえず、ここまでの段階では盗聴器はなかった。

そして、俺が持ち込んだ盗聴器。

こいつから発信された音を「発見器」で見つけられなかったら、「発見器」の方がポンコツという事になってしまう。



「あっくん、なんか一人で遊んでるでしょ?私も仲間に入れてよ!」



腰に手を当ててお姉さんはお冠だった。

まあ、盗聴器はなかったことが分かっている。お姉さんに話しても大丈夫だろう。



「ほらこれ」



お姉さんに盗聴器を見せた。



「なにこれ?」


「うーん、マイク……みたいなもの?」


「ふーん」



俺がダイヤルを回していくと、ある周波数のところで室内の音楽が聞こえ始めてきた。やっぱり、「発見器」は正常に機能している。

そう考えても、この部屋いえの中には盗聴器はないと言える。(俺が持ち込んだものを除く)


お姉さんにイヤホンを渡してみる。



「なにこれ?」



何の疑いも持たずにお姉さんはイヤホンを自分の耳にセットした。



「きこえる?」

『きこえる?』



「あ!ラジオからあっくんの声が聞こえる!すごい!」



お姉さんはなんかテンションが上がってる。



「あっくん、これつけてみて」



そう言うと、お姉さんはラジオとイヤホンを俺に手渡して、部屋を出て行ってしまった。他の部屋でも聞こえるかということだろうか。


イヤホンを耳にセットしてみる。



『あっくん、大好き♪』


「///」



お姉さんのいたずらに見事にハマった俺だった。



「あっくん、聞こえたぁ?」



別の部屋からお姉さんが戻ってきて、入り口から顔だけ出している。



「聞こえました……」


「よかった。じゃあ、次、あっくん」



盗聴器ってこういうプレイに使うものだっただろうか。

お姉さんは盗聴器を置いて、ラジオとイヤホンを持ってどこかの部屋に行ってしまった。今度は俺に何か言えという事だろう。


何を言ったらいいのか分からないので、お姉さんの良いところを言ってみることにした。



「お姉さんの良いところは……」



(ドタドタドタドタ)言い終わる前にお姉さんが別の部屋から戻ってきたみたいだ。



「あっくん!あんな恥ずかしいこと言うの禁止っ!」



お姉さんが顔を真っ赤にして戻ってきた。

もはや当初の目的は忘れて、「順番に相手の好きなところを言うゲーム」になってしまい、赤面した方が負けというルールで二人とも負け続ける結果となってしまった。


まあ、部屋いえの中に盗聴器がないことが分かったことは収穫だった。

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