18_お姉さんのストーカー その1
「実は……私、誰かにつけられていることがあるみたいなの」
「え!?ストーカーってこと!?大丈夫なの!?」
俺には心当たりがあった。あのストーカーのことを言っているのでは、と。
「うん……実害があるって訳じゃないし、その人も見たことないんだけど、たまに写真とかがポストに投函してあって……」
「え!?どんなやつ!?」
写真とはどんな写真だろうか。着替えとか!?
ここは29階だから外から撮れるとは考えにくいし、セキュリティは高い方だろう。
どこでそんな隙ができるっているんだ!?
「実はこれなんだけど……」
リビングのローテーブルにお姉さんが仕舞ってあった写真などを持ってきてくれた。
それを見た限りでは、お姉さんが外に出た時の隠し撮りと思われる写真と「報告書」と書かれた紙。写真は、お姉さんの目線がレンズの方を向いていないことと、遠目に撮影されたことが分かることから「隠し撮り」と思われた。
そして、「報告書」によると、お姉さんがどこに行ったかと何時にマンションを出て、何時に帰ってきたのかが細かく書かれてあった。
「なんだこれ!?完全にストーカーじゃないか!」
「そう……怖くなって……」
そもそもお姉さんはあまり外に出ない。
それなのに、出かけた日に限って出た時間と帰った時間がかかれているということは、24時間監視しているという事か!?
「これは……」
俺がお姉さんと会った喫茶店の時の「報告書」もあった。
喫茶店の店内で俺と話しているお姉さんの写真が添付されていた。これは比較的近くの撮影。恐らく店内で撮影されている。ストーカーはあの店にもいたってことか。
「ちょっとこれ貸してもらえる?なにか手がかりがあるかもしれないし」
「え、あっくん、危ないことしないでよ?」
不安そうに近づいてきたお姉さん。
安心させようと思って、不安にさせてしまったら本末転倒だ。
「大丈夫だよ」と形の上だけでも安心させて内容を詳しく見ていくことにした。
「報告書」は全部で6通。毎月1枚のペースだ。
月末にその月の「報告」が来るようになっているらしい。
出かけた先と時間が細かく書かれていた。
それによると、主だったところは「近所のスーパー」、「近所のコンビニ」、「喫茶風と月」、「お姉さんと会った喫茶店」、「病院」くらいか。
「風と月」は、俺がバイトしているのを事前に見に来たのだろうか。
この「報告書」が正しいとしたら、お姉さんは、3回は来ていることになっている。
店でお姉さんを見かけたことはないと思うので、くるだけ来て遠くから見ていたのかもしれない。
お姉さんと会った喫茶店では店内での写真も添付されている。
割と近くの席から撮影したと思われることから、隠しカメラなどによる隠し撮りだろう。
最近は、ペンとか眼鏡とか一目ではカメラと分からないものも普通に売られていると聞く。
ストーカーがいると思って探しているのとは違って、他の客と紛れられてしまったら見つけることはできない。
病院は近所の大きめの病院みたい。お金持ちは病院も大きな病院に行くのだろうか。
大学病院とかって高そうな気がするんだけど、気のせいだろうか。
写真と「報告書」を見比べていて俺は一つ気付いた。
コンビニとかスーパーとかは写真がない。それこそ1枚もないのだ。
そして、出かけた時間と帰った時間の記録もない。
もう一つ重要なことに気が付いた。全ての「報告書」の最後に「二戸探偵事務所」と書かれている。
ご丁寧に住所と電話番号まで書かれている。住所から見て地元の探偵事務所らしい。
何か知っているかもしれないので、お姉さんに聞いてみた。
「お姉さん、この『二戸探偵事務所』って心当たりある?」
「(ふるふる)」
「ほら、ここに書いてある」
報告書の紙を見せた。
「気付かなかった……写真と私の行動が書かれた紙が入ってたから気持ち悪くって……」
知らないらしい。確かに、女性の一人暮らしで自分の盗撮写真と行動履歴が投函されたら怖いだろう。ちゃんと中味を確認しないのも理解できる。
単にストーカーが探偵事務所を名乗っているだけかもしれないが、住所と電話番号まで知らせてくるのは少しおかしい。
俺は、番号非通知でそこに書かれている番号に電話してみたが、留守番電話になった。メッセージを残すのは怖いので、そのまま切った。
地図アプリで調べてみると、ここから5kmほどの場所なので、明日そこに実際に行ってみることにした。
***
翌日、実際に行く前にもう一度電話してみることにした。
(プルルル…プルルル…プルルル…ガチャ)「はい、にのへ探偵事務所」
出たよ、出やがった!お姉さんのストーカー!
「二戸」って「にのへ」って読むのか。ずっと「にと」って読んでた。
「あの、少々お尋ねしたいことがあるんですけど」
「どういったご用件でしょうか」
「
「……はい、分かりました。どこでお会いしますか?」
相手が会うと言っているのだから、直接会って全面戦争だ。
うちに来られたらお姉さんが危ないかもしれない。
相手の事務所に行くのも危険そうだ。どこか喫茶店で話すのがベターではないだろうか。人の目があった方が、相手は変なことができない。
俺は、いつぞやお姉さんと再会した喫茶店を指定した。
お姉さんには行先を伝えずに、出かけることだけを言って家を出た。
心配をかけないためだ。
***
指定の時間より10分遅れてスーツの男が俺の席の前に現れた。
よくよく考えてみたら、俺は相手を知らなかった。
ところが、相手は俺のことを知っているようで、店内に入ると全体を見渡して、俺を見つけるとまっすぐこちらに来た。
現れた男はいかにも探偵という風体ではなく、普通のスーツだった。
スーツならスーツでジャケットの内側にはベストを着ていると勝手に思い込んでいたが、それもなかった。顔も無精ひげなどなく、清潔な印象だ。
いかにも探偵と感じでシャーロックホームズのような姿をしていたら仕事上困るのだろう。あんなコートと帽子の男が後ろから着いてきたら、いかにも「尾行してます」とアピールしているようなものだ。
男は線が細い感じで、ケンカしたら俺なら勝てる気がした。
そう言えば、以前ショッピングモールで見かけた男に似ているような気もする。
俺の今日の目的は、ストーカーに罪を認めさせて、今後お姉さんのストーキングを止めさせることだ。下手にもめる必要はない。ただ、こいつが相手なら何とかなるような気がする。
男が席に着くと俺の目の前に名刺を差し出してきた。
『二戸探偵事務所 代表二戸 隆之進』
最近のストーカーは名刺まで準備しているのか!?
俺は不機嫌そうに、お姉さんからあずかった書類をテーブルの上にバサッと出した。
どうだ!動かぬ証拠だ。ぐうの音も出ないだろう!
まずは、自分の犯行だと認めさせることからだ。
「ああ、それを見られましたか。それならば話が早い」
居直った!?こいつが居直ったぞ。
居直った異常者は予期せず攻撃的になる可能性もあるとか、ないとか。
「確認だけど、君は、
一応予想はしていたけど、相手はこちらを調査済みだった。
「僕もね、こういう業界の人間だから、通常は依頼者以外にはいかなることも話せないんだよね。だけど、君だけは聞かれたことをなんでも話していいって依頼だから」
そうか、こいつがストーカーなんじゃなくて、ストーカーがこいつを雇っていたということか!
いや待て、そのストーカーは俺の存在を知っていて、俺が探偵に聞いたことに応えていいってことにした!?
ストーカーは自分の正体を隠すために「答えるな」と口止めするのならば分かるけど「答えていい」というのは腑に落ちない。
「……誰なんですか!?あなたの依頼人って」
「え!?そこから!?僕はてっきり話が通っていると思ってたよ」
「ストーカーに知り合いはいません」
俺は腕を組んだまま顔を横にふいと向けた。
「ストーカー?……なるほど、そうか。もう一段悪化してきたという事か!予定をすっぽかした理由が分かった!君が依頼人のことを知らないとなると、本題に入る前に、こっちを見てもらった方がよさそうだな」
訳が分からないけれど、探偵は一人納得してタブレットを取り出した。
そして見せられたのは、スケジュール。
お姉さんの出かける予定が書かれている。
以前、お姉さんが入力していた「あっくんと交際開始!!」の記述も見えた。
これはコピーというよりは、同期させているのだろう。
お姉さんがスマホやパソコンで予定を入力したら、探偵のこのタブレットにも自動的に書き込まれる。現代的なストーカー行為だ。俺は怒りで吐き気がしてきた。
「ああ、怒りが沸くのか、悪いが少し堪えて、これも見てくれないか」
次にストーカーが出してきたものは、お姉さんの家のカードキーと同じカード。
「君も持っているんじゃないかな?桜川瑚々乃氏の家のカギだよ」
この鍵が本物だとしたら、状況は俺が思っていた以上に悪いみたいだ。
「あとは、これらの書類で終わりだから。ここまでは堪えて見てくれたまえ」
そう言って探偵が出してきたものは書類だった。
その書類には「契約書」「受取証明書」の2種類があり、契約内容が書かれていた。
契約書には、スケジュールに書き込まれた予定がきちんと遂行されたか調査して、
提出は1か月に1回、月末に行うこと。
確かに、そう言われればスケジュール表に書かれたものは写真付きで報告されていた。
俺とお姉さんが会った喫茶店などがそれだろう。
一方で、スーパーやコンビニなどは出かけた情報だけが記録されていた。
つまり、お姉さんのスマホにGPSアプリが入っているか、お姉さんはGPS信号を発信する何かを持たされているという事か。早速帰ったらすぐに見つけて、排除しよう。
そして、契約書に書かれた「依頼者の名前」……
そこには、もっとも予想しなかった人物の名前が書かれていた。
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