第102話 全人既到

2日目を終え、顔ぶれが大分固まってきた。


明日以降はケントにとって、知人同士の戦いも増えるだろう。


まず、対抗戦闘技部門代表者組。


ジョン、メグ、フリック、キーンは順当に勝ち上がっている。


続いてクラスメイト達。


ファム、マイト、レードルフ。


彼らもなんとか勝ち上がっている。


最後に生徒会メンバーだが、ここでは一波乱起きていた。


「マールさんが敗退?それは本当ですか?」


「ええ。なんでも、3年生に負けたそうよ。」


(先日のジョンとの争いが尾を引いているのでしょうか…願わくばここでジョンと対決して、わだかまりを解消して欲しかった…)


「そうですか。その3年生の名前はわかりますか?」


「オーフェル。魔法の扱いにとんでもなく長けた男子生徒だそうよ。あなたは当たらないと思うけど、他の先輩達にも注意喚起しないと。」


ファムはそう言うと、走り去っていった。


(オーフェル…マールさんと当たったと言う事は、トーナメント表の上の方ですね。私が当たる前に確かゲレラさんと当たる…要注意ですね。)


ケントはマールを倒した男の名を心に刻み込んだ。



————————————————



闘技祭3日目。


この日は三回戦、四回戦が行われる。


ここで勝ち残ればベスト8。


いよいよ篩い落としも大詰めといった様相だ。


会場も2つになり、ケントにとっても知人が大きく増えた。


昨日も同会場だったトモヨに加え、キーン、マイト、それにレードルフがそれぞれ思い思いに待機している。


(この中で順当に勝ち上がった場合、彼等がぶつかる事になる…気軽に声を掛けて良い状況では無いですね。私もいつも通り、体を温めてきましょう。)


今日は会場内で体を温めるケント。


近々当たる可能性のある生徒達の戦いが行われるのだから、当然の判断だ。


そんな中、順当に勝ち上がるケントの知人達。


レードルフ、マイト、キーンが勝ち上がり、今行われている試合が終わればケントの出番だ。


魔法使いの少女を巨躯の男子生徒が打ち倒し、会場内の空気が悪くなった所でケントの出番が訪れた。


(なんだかやりづらいですね。しかしここは気を取り直して…はあ…)


ここまでイロモノの相手が続いていたケント。


今回こそは、と会場へ歩みを進めたが、その希望は打ち砕かれる事となる。


会場に立っていたのは…ケントの目にはどう見ても相撲取りにしか見えなかった。


頭には大銀杏、服装は…まわしのみ。


縦にも横にも大きな男子生徒が、そこには立っていた。


「ケントくんですな!ワシはケボーノでごわす!良い取り組みをしよう!!」


(取り組みですか…学院も広いですね。こんなに特徴的な生徒達がいたとは…まあマッソーさんは会った事があったんですがね…)


最早ケントは遠い目をして、ケボーノの事は考えないようにしていた。


他のブロックではマールが敗退するようなシリアスな戦いをしているのに、なぜ自分だけマッチョ、忍者ときて力士という一癖ある相手ばかりなのか。


しかしそんなケントの思いとは裏腹に、ケボーノは目を爛々と輝かせ、蹲踞の構えを取った。


(そんな所まで忠実に…しかし上手く躱さないと大変な事になる可能性がありますね。)


考え直したケントは、構えを取った。


「始め!!」


教師の号令で、ケントの三回戦が始まった。



(恐らく初手は…)



「どすこーい!!」



(やはり…)



ケボーノの初手は、ケントの予想通りぶちかましであった。



それをいなしたケントは、横から掌底を当てたがケボーノの体はぐらつきもしない。



(な!?)



「フッ」



ケントが驚いている間に、ケボーノが巨躯に見合わぬ速度で向きを変え、腕を手繰り寄せてくる。



掴まれては不味いと判断したケントは、咄嗟に無詠唱で炎の魔法を放った。



「熱っつぁあ!!」



想定し切れていなかったのか、ケボーノは炎の魔法に大きくのけ反り、逃げ惑う。



(近接タイプは魔法で…こんな当たり前の事が頭から抜けているなんて…)



キワモノとの連戦で、ケントはすっかり気が抜けていた。



普段なら考えないような事を考え、普段ならしないような事をしていた。



それが油断。



人なら誰しもがしてはならないと知っているにも関わらず、誰しもが通ってしまう道。



ケントはここに来て初めて、油断を知った。



(ケボーノさん、ありがとう。ここからは油断などしません。)



ケントは微笑を浮かべ、ケボーノにとっての絶望が今、幕を開ける。

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