第101話 憧憬

メンティの一幕があったものの、ケントの属するブロックの試合はその後、順調に進行していた。


トモヨも無事一回戦を突破し、昼休憩を挟んで現在は二回戦が開始している。


今は大柄な男子生徒が小柄な男子生徒へ体当たりを敢行したところだ。


「どぅおらああ!!!」


「ぶほぉ!」


「勝負有り!ケボーノの勝利!!」


前の試合が終わり、ケントの出番だ。


(さて、先程はなんというか消化不良でしたが、今回は…ああ…)


ケントはフィールド中央に佇む対戦相手を見て、今回もおかしな事に巻き込まれそうな予感を抱いた。


その理由は、相手の風貌にある。


額には金鉢、装束に肩当て、肘当て、膝当てを着け、ブーツを履いている。


その全てが真っ黒であり、チラリと見える装束の下には、鎖帷子。


姿勢良く踵を合わせて立つその少年の手は、左手で右手の人差し指を掴み、左手の人差し指を立てている。


これは流石のケントでも、いや佐藤謙でも見た事がある。


“忍者“だ。


(…なぜ忍者が?ここまで類似しているとなると、流石に不可解ですね。しかし、忍者ですか…忍者…)


ケントは以前にも感じた前世との類似性に違和感を覚えたが、ひとまず横に置いて戦いに備える事にした。


各関節を回し、深呼吸を繰り返す。


動揺を抑え、会場中央へと歩みを進めた。


「ケント殿、今日は宜しく頼むでござる。」


「あっ、はい。」


あまりにもテンプレ通りの口調に、ケントも驚きを隠しきれなかった。


「某はクーガーと申す。ケント殿の御武勇は承知してござる。何卒宜しくお頼み申す。」


「あっ、はい。」


(まずいですね…なんだか調子が狂う…)


妙な流れにケントは戸惑うが、そんな事はお構いなしに挨拶を終えたクーガーは腰を落とし、戦闘体勢を取った。


「始め!!」


「てやああ!!」



クーガーは試合開始と同時に地を蹴り、ケントに襲い掛かってきた。



慌てて避けるが、クーガーは軽い身のこなしで方向転換すると、続けて何かを飛ばして攻撃してきた。



(まさか、手裏剣…!?)



ケントは風の魔法で防ごうとしたが、手裏剣であれば物理的な質量に押し切られる可能性がある。



そう考えて大きく後退してその攻撃を避けた。



回避した後でクーガーの飛ばしてきた物を確認すると、それは手裏剣では無かった。



(石礫…魔法で生成したか元々隠し持っていたかですね。手裏剣ではありませんでしたか…)



ケントが心なしか気落ちしているところに、次なる矢が飛んでくる。



「せやああ!!!」



(ハッ、地面に何か…これは…撒き菱!?)



クーガーとの間の地面に撒かれた何か。



迂闊に足を踏み出せば、足の裏がズタズタになってしまう。



ケントはそれを避ける為、またも大きく飛び去ってそれを躱した。



(これは…氷の粒?)



またも裏切られた気分になったケントは、どこか憤慨した様子でクーガーへの攻撃を試みる。



「ハッ!」



ケントの得意な、高速飛行からの掌底での打撃。



手応えはあった。



「フフフ…」



吹き飛ばされるクーガーだが、どこからともなく不敵な笑い声が聞こえてきた。



(ここへ来てこの余裕…まさか変わり身の術…では無いんでしょうね。)



ケントがそう考えたところで、背後から人影が忍び寄ってきた。



(…!!油断した!!)



「勝負有り!ケントの勝利!!」



背後から近寄ってきた教師は、高らかにケントの勝利をアナウンスした。


(……忍者…)


ケントは佐藤謙として生を受けた幼少時代、亀の忍者が出てくるアニメに憧れていた。


今では想像もつかないが、テレビを見ながら興奮して真似をしていた記憶は薄ぼんやりとだが今も残っている。


あの日抱いていた忍者像が穢されたような気がして、勝利したにも関わらず気落ちしてしまうケントであった。

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