第100話 解放
(まったく、ジョンは何を考えているのか…筋肉愛好会…少し楽しみにしていたんですが…)
ケントは乱れた心を落ち着ける為、会場の周りを歩き回っていた。
落ち着いてきた頃合いで会場に戻ると、ちょうど驚嘆の声が上がっていた。
(ん?もうトモヨさんの出番ですか?進行が早すぎる…)
まだ当たるのは先とはいえ、この会場内で最も警戒すべき相手、トモヨの試合は自らの目でチェックするつもりだったケント。
トーナメント表もある程度頭に入っており、その記憶が正しければトモヨの出番はもう少し後の筈であった。
(おかしいですね…ん?トモヨさんではない?)
フィールドで両手を挙げて勝利の余韻に浸っていたのは、体格の良い女生徒であった。
「ハッハ!余裕余裕!!次のやつ早くかかってこいや!!」
(連続でやる訳無いでしょう…なんだか豪快な方ですね…)
トーナメント表が定まっている以上、勿論誰も出て行くはずは無かった。
「んだよ…誰もこねえのか。なんならお前が来るか?お嬢ちゃんよ。」
その女生徒が目を合わせて名指しで挑発したのは、よりによってトモヨだった。
「私ですか?メンティさん、対戦相手も対戦順も決まっているんです。その時が来たらお相手させて頂きますよ。」
「つれねえ事言うなよ、お嬢ちゃん。どうせやるなら、今やっても同じだろうが。」
どうやらメンティと呼ばれた女生徒はトモヨと面識があるようだが、あまり型にはまるタイプでは無さそうだ。
「メンティ、下がりなさい!次の試合が控えているんだ!!」
「ああ?パパッとお嬢ちゃんとやって明日は休みとかになんねえの?」
「ならん!お前とトモヨが当たるかもまだわからんだろうが!!」
思わず介入した教師相手にも、メンティは引かない。
不要なタイムロスはまだ長引きそうだ。
(厄介な方ですね。そろそろ退場して頂きませんと。…はあ。)
ケントは闘技祭の企画・運営に携わった為、厳密にタイムスケジュールを守らねば後々に尾を引く事を承知していた。
溜息をつき、普段は抑えている格の高さを解放する事にした。
(…Release)
ザアアアア
「…あ?なんだ!?」
それは、文字通り格の違いの証明。
会場内の誰よりも高い格の表出に、誰もが平伏せざるを得ない。
「クッソ…なんだこれ…なんなんだよ!?」
何が起きたのかも分からないまま動きを抑えられ、ケントの無詠唱魔法で優しく会場の隅へ移動させられたメンティ。
顔を赤く染め身体を震わせて屈辱を感じている様子だったが、ハッと立ち直った教師によって次の試合への参加者が動き出し、進行が再開された。
(これで良し。ハラハラしましたが、まだオンタイムの範疇ですね。初戦を早めに終わらせられて良かった。)
この2日目はひと試合20分の想定でタイムスケジュールが組まれている。
ケントの試合は5分弱で終了した為、全体としては少し巻いて進行できていた。
「ケントさん。」
「はい。」
そうしてケントが胸を撫で下ろしていると、声を掛けてくるものがいた。
「先程の圧力は、あなたが?」
「圧力?そんな事があったんですか?」
トモヨはケントの仕業であると断定できているようだが、無闇に格の話をする事を禁じられているケントは誤魔化しの一手を打った。
「あら、ふふふ。あの圧力を感じていないとなると、逆にあなたの仕業だとわかってしまいますよ?」
「…そんな事を言われましても、何のことやら…」
痛いところを突かれたが、引くに引けないケントは押し通す。
「まあ、良いです。戦ってみればわかる事でしょう。ああ、私と戦う時には先程の圧力も存分に発揮頂いて構いませんので。」
「…まずは貴女と戦えるよう、全力を尽くしましょう。」
トモヨは明らかに気づいている様子だったが、ここで引いてくれた。
(危なかった…というより、アウトですね。不覚でした。トモヨさんはかなりの使い手のようですね。)
心の内で反省するケントは、もう一人、いや二人の女生徒が獰猛な目線を送っている事には気づいていなかった。
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