第99話 既視感の答え

「??あなた、どこかで…」


「フフッ。改めて名乗らせてもらおう!私はマッソー!筋肉を愛し愛される者だ!!」


「ああ、思い出しました。あの勧誘の…」


ようやくケントは合点がいった。


魔法掲示板で事前に確認した名前では分からなかった訳だ。


体育祭の後、ケントは多方面から勧誘を受けた。


その中に今目の前に立っている、筋肉愛好会に属するマッソーもいたと言う事なのだろう。


「フフッ、あの時は断られてしまったが、今回は一対一だ!この試合で私が勝てば、君を筋肉愛好会会長として据えさせてもらおう!!」


それらしく見えつつもケントに見返りが全くない発言をするマッソーに、ケントは応える。


「良いですよ。」


『なにいいいい!!!!????』


注目度の高いこの試合で放たれた爆弾発言に、会場内の生徒達が絶叫した。


「元々ジョンが所属していたという事で興味はありましたから。」


「そうか!!よし!これで黄金時代は継続…」

「とはいえ…」


ケントの声が、喜び勇んでいるマッソーの言葉を遮る。


マッソーがキョトンとしながらケントを見ると、ケントは拳をマッソーに向けて腰を落とした。


「負けるつもりはありませんが。」


戦闘態勢を整えたケントに、マッソーが笑みを溢した。


「イイね!最高だ!!絶対に勝って君をもらう!!!」


そしてマッソーが両手を広げてケントへ向け、両者の準備は整った。


「始め!!」


教師の声で、思わぬ形でケントの進退を巡ることとなってしまった、ケント対マッソーの一回戦が始まった。



————————————————



ケントはこの試合、まずは様子を見る事に決めていた。



(あのジョンが所属していた組織ですからね。どんな指導をしているか分かりませんし、まずは様子を…

ん?)



小刻みにステップを踏みながらマッソーの様子を見ていたケントが、違和感を感じて足を止めた。



会場内で固唾を飲んでいた生徒達からも、ざわつきが伝わってくる。



それはそうだ。



マッソーが動かない。



目を瞑り、拳を握って真上に上げたまま、微動だにしないマッソー。



狙いが分からず戸惑うケントだが、こうなってしまっては仕方がないと、軽く風魔法を放った。



と、その時。



「ふうおぉらあああ!!!!!」



裂帛の気合いと共に振り下ろされるマッソーの拳。



それに伴い胸・肩・腕の筋肉が隆起し、身につけていた体操服が弾け飛んだ。



「ふははは!これこそ我が道!我が人生!!さて、行くぞぶわあああ!!??」



そして体操服すらも無くなり自身の肉体のみでケントの魔法を受ける事になったマッソーは、フィールド内をゴロゴロ転がっていった。



(……………………ジョン…)



尊敬する兄の所属する愛好会入りを真剣に検討していたケントだったが、この時。

ようやくこの試合が絶対に負けられない戦いである事を認識したのであった。



マッソーは転がっていったものの、直撃したとはいえ様子見で軽く放った風魔法だ。



当然、マッソーは立ち上がってきた。



「ぶわははは!!!体勢を整える前に攻撃してくるとは、ケントくんは実に勝負に真摯だ!素晴らしいぞ!!」



本格的に理解できなくなってきたケントは、静かに両掌を背後に向けた。



「フフッ、しかし!大目に見てあげよう!なぜなら君は!我が会長になるべきお人なの…」

「Fire」

「だかぐわああああ!!!!」



ケントが何か呟いたかと思うと、次の瞬間にはマッソーが叫びながら吹き飛ばされていた。



「勝負あり!ケントの勝利!!」



「ありがとうございました。」


ケントは一礼してそのまま会場の外へと出て行った。



「背後に魔法を発射して加速しての当て身…フリックさんの技でしたね。フフッ。」


会場内に唖然とした空気が広がる中、ケントが何をしたのか正確に把握できたのは黒い長髪を靡かせた少女、ただ一人であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る