第97話 予選開始

「第一試合の出場者のみなさ〜ん!

集合してくださ〜い!!」


間伸びした声がケントの耳に届いた。


この会場の担当教員、ミレーネである。


小さな体と短い腕を目一杯広げて生徒を集めようとしているのが見え、ケントは試合前だというのに暖かい気持ちになっていた。


(さて、やりますか。今回のテーマは…無力化ですね。)


予選は11人、もしくは12人で行われ、残った1人が一回戦へと駒を進める。


第一試合にはケントを含め12人が参加する為、ミレーネの周囲に集合していた。


「はい、一応ルールの確認ですよー!このせり上がったリングの上から落ちるか、降参したら負けです!あと大怪我なんて絶対させちゃダメですよ!魔法があるからって、治せる限度がありますからね!!絶対ダメですよ!!良いですか!?」


ミレーネの言葉に生徒達が頷く。


「はい、では早速始めますよ!散らばってくださーい!!」


ミレーネの指示に従い、生徒達がリング上に散らばる。


リングアウトでも敗退が決まってしまう為中央付近に留まる者もいれば、リングの外縁ギリギリまで移動する者もいた。


ケントはというと、中央付近に立って周囲の様子を窺っていた。


(戦術の違いでしょうが、面白いですね。立つ位置で得意な戦術がわかります。まずは…)


「いいですか?いいですね?いきますよ!では、第一試合、はじめー!!」


ミレーネのどこか気の抜ける宣言で、第一試合が始まった。




「「「おあああ!!!!」」」


と、同時に中央付近に留まっていた3人の生徒が叫び声を上げながらケントに飛びかかった。



示し合わせたような動きだが、彼らは事前に打ち合わせた訳では無い。



この第一試合だけでなく、闘技祭全体においてもケントは優勝候補の一角だ。



まず人数がいる間にそこを崩しておこうと考えるのは、定石と言えるだろう。



しかし彼らの突撃は空振りに終わり、生徒達は目を見合わせる事になった。



無詠唱で速度強化を施したケントはというと、まずリング外縁付近に立ちこちらに掌を向けている生徒に照準を合わせていた。



(やはり外縁付近に立つ生徒達は魔法優位。そちらから倒していきましょう。)



「うわあああ!!!!」



恐るべき速度で近づいてくるケントに、最初の標的にされた男子生徒は恐慌状態に陥りながら風魔法を繰り出してきたが、ケントはそれを余裕を持って躱す。



「ふっ!」



「わあああ!!!!」



腰を落とし息を吐きながら放たれたケントの掌底に、男子生徒は吹き飛ばされていった。



(まず一人。おっと。)



暫し立ち止まる事になったケントに水の塊が向かってきていたが、それをバックステップで躱しながらケントは次の標的を定める。



(今の魔法はなかなか威力が高かったですね。では次は…)



「すぅ…はっ!!」



ケントは両腕を交差させたかと思うと、力を込めてその腕を開いた。



「うわああああ!!!!!」



ケントを中心にリング上に強風が吹き荒れ、生徒達が吹き飛ばされていく。



早くもリング上には、最初に飛びかかってきた3人しか残っていなかった。



その3人も体勢を落とし、リングに這いつくばるように縋りついている。



(思ったよりも減らせましたね。では…)



ケントは再び猛スピードで移動を開始すると、ようやく立ちあがろうとし始めた生徒達に向かっていった。



「くそおお!!!!」



一人の生徒が意を決して掴みかかろうとするが、ケントはその腕を払いながら当て身を喰らわせ、すぐに後退した。



「ぐふっ…」



「な!?」



ケントは後退するとすぐに体勢を落として後ろから迫っていた生徒の打撃を躱すと、そのまま右脚で半円を描くように相手の脚を払った。



「っ…と。」



脚払いをしたケントに3人目の生徒がローキックを繰り出してきたが、その勢いを殺さないように軽く跳躍しながら受け止めると、その足を抱えてそのまま回転するようにして投げ飛ばした。



「あああ!!!!!」



投げ飛ばした生徒がそのままリングアウトし、リング上には蹲る2人とケントのみが残った。



「ふっ!はっ!!」



優しく放った風魔法で2人をリング外に運んだところで、ケントはふう、と一息つく。



「勝負あり!!」



「ありがとうございました。」


(なんとか予選は突破できましたね。さて、他の会場を見て回りましょうか。)


こうして波乱もなく、ケントは無事一回戦へ駒を進めた。

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