闘技祭編
第96話 幕開け
年が明け、授業開始と共に生徒達には緊張感と高揚感が一挙に訪れた。
闘技祭の詳細が正式に発表された為だ。
開催日は2週間後から5日間。
初日に行われる学年混合の予選を経て、まずは全校生徒を128名に絞り込む。
そこからトーナメント形式で一対一の試合を1日に2試合ずつ行い、最終日に決勝戦を行う。
かなりタイトなスケジュールではあるが、対抗戦で自校代表者達の活躍を見ていた、いや見ているしかできなかった大多数の生徒達にとって、全員に出場権が与えられるこの舞台は大きな機会となる。
新たな催しということもあり、学院内はかつてないほどに盛り上がっていた。
「凄い雰囲気ですね、ケントさん!」
「そうですね。正式発表までは反応が少し心配でしたが、安心しました。セレサはどうですか?準備の方は。」
廊下を歩きながらのケントの問い掛けに、セレサは胸を張った。
「ふふん!この休みの間、お母さんと魔法の特訓をしてましたからバッチリです!ケントさんにも負けませんよ!!」
「そうですか。セレサの魔法は脅威ですからね。試合で当たらない事を祈ります。」
ケントの返答に気を良くしたのか、セレサは鼻を膨らませて言葉を続けた。
「そうでしょう、そうでしょう!最後にはお母さんにもたまに攻撃を当てられるようになりましたからね!!見ててくださいよ!!」
「期待していますよ。お互い最善を尽くしましょう。」
明らかに機嫌を良くして歩調を早めた同級生を見ながら、ケントは笑みを浮かべてついていった。
————————————————
あっという間に2週間が経過した。
この間、生徒達は大忙しであった。
ある者は自己鍛錬の為に放課後を費やし。
ある者は魔法の腕を磨く為に教師に師事をし。
またある者は腹が減っては戦はできぬ、と周りが驚く程の食事を摂り。
それぞれが自分なりに自己を高める為の行動を起こして、闘技祭に備えてきた。
そしていよいよ、その結果が問われるこの日を迎え、そのボルテージは最高潮に達していた。
「それではこれより、闘技祭を執り行う!諸君の健闘を祈る!!」
『うおおお!!!!!!』
ベアムースの宣言で、全校生徒が湧きに湧いた。
「まずは予選を行う!各自、事前に知らせた会場に移動を始めろ!!」
ベアムースの指示に、生徒達はスムーズに移動を開始する。
他会場で予選を行う生徒は元々会場寄りに整列していた上に誘導の教師が立っている為、迷う事は無かった。
(まずは第一関門突破ですね。ここを抜ければかなり楽になるでしょう。)
ケントが今回一番心を砕いたのが、実は予選会場への移動、正にこのタイミングであった。
何せ1,500人弱の生徒が一斉に集い、移動を行う。
更にその後は予選を実施しなければならず、ここで遅れが発生すると翌日以降の支障が大き過ぎる為、絶対に遅れは許されない。
よって会場の設定、生徒の配分、誘導の方法、整列の仕方まで細かく検討を重ねていた。
ひとまず順調な滑り出しである事を確認したケントも、御多分に洩れず自らの予選会場へと足を向けた。
会場へ着くと、100人近くいる生徒の視線がケントに集中した。
学院にたった5人しかいない対抗戦闘技部門の代表者だ、当然である。
とはいえ多くの生徒は視線をすぐに戻して自らの準備に時間を費やし始めた。
大多数の生徒にとっては同じ会場というだけで、ケントと戦う訳ではない。
それより目前に迫った予選で頭は一杯だ。
(この会場には元々知っている方はほとんどいないんですよね。いてもクラスが同じだけで、話した事は無いモウブさんだけ。試合が終わったらすぐに他を見に行くとしましょう。)
ケントは第一試合に出場予定だが、早くも先の事を考え始めていた。
しかしその目に油断は無く、入念に体を動かし始めるのであった。
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