第95話 打ち上げ
特別補講という名のベアムースのお手伝いが終了したジョン、マール、ケントは、学院に近い街中のレストランで打ち上げをしていた。
「お疲れ様ー!ぷはあ〜!!やっぱりここのジュースは美味しいわね!」
共にいるジョン、ケントは口数の多い方では無いため自然とマールが話す時間が長くなるが、3人とも嫌な感じは全く無かった。
「しかし今年は補講もムラが凄いわねー。夏は野狼で冬は学院のお手伝いだもの。どっちも勉強にはなったものの、ギャップが凄いわよね。」
「そうですね。方向性が大きく違いましたね。」
「ああ。どちらも非常に稀有な体験だった。」
やはりジョンとケントの返答は短いものだったが、マールから不満そうな色は全く見えなかった。
「そういえば、あなた達2人ともボルクさんの班よね?どんな事してたの?」
マールが何の気なしに聞くと、2人は目を逸らした。
「…ま、魔獣退治ですかね。」
「ああ。魔獣退治だ。」
「……??何かおかしくない?」
明らかに先程までとは異なる様子の2人に、マールはきっちりと気付く。
「おかしくはない。俺達は魔獣退治をしていた。」
「ええ、その通りです。」
「魔獣退治ねえ…どれくらい倒したの?」
ジト目のマールは2人を逃がさない。
「約300…といったところですか?」
「それぐらいだろう。」
「300って!一人当たり75体って事!?やりすぎよ!!」
マールは驚きを隠せない。
なにせ期間は2週間。
冒険者の中でも上位の者しか魔獣には太刀打ちができないこの世界において、学院生が魔獣を倒せる事自体、異常なのだ。
ボルクが行動を共にしていたとはいえ、毎日魔獣を倒し続けるのは常軌を逸している。
「いえ、その…」
「なに?」
「マール。一人当たり300だ。」
「……!!??」
衝撃が大き過ぎると、人は言葉を発さない。
マールは人の習性に忠実だった。
「貴方達…どこ目指してるのよ…」
「ボル姉がどんどん加熱してしまって…あとはジョンが…」
「ケント。」
ケントが言い訳じみた事を口にしたところで、ジョンの静止が入る。
「なになに?聞かせて?」
「ケント、飲み物がないぞ。次は何を飲む?」
ジョンが珍しく露骨に話題転換を図った。
「マールさん、この話題はダメみたいです。」
「もう…しょうがないわね。」
「また後日ジョンのいない所でお話しますね。」
「ケント!!」
3人での打ち上げは、このようにして盛り上がりを見せた。
————————————————
食事も一通り摂った後のティータイム。
ジョンが思い出したように切り出した。
「そういえばマール。先程どこを目指しているのか、と言っていたな。」
「ええ。それがどうかした?」
「俺は冒険者の頂点を目指す事にした。」
「え…」
マールは開いた口が塞がらない。
ケントは突然の展開に驚きはしたものの、ジョンの進路に関しては知っていたのか、真剣な面持ちでジョンを見つめていた。
「…理由、聞いても良い?」
「ああ。」
マールの反応はごく自然だ。
この世界における冒険者の位置付けは決して高くない。
野狼のように周囲の尊敬を集められるのは非常に稀なケースである。
歴史ある第一学院の生徒会長として千人以上いる生徒の頂点に立っていた生徒の進路としては、あまりに異端であった。
「俺は誰かの為に体を張りたい。それができる程度には、俺は強者であるようだ。そしてどうせやるなら頂点を目指す。」
「でも!ジョンがそんな危ない事しなくても!!………」
マールは大きな声で反論したが、ここがレストランの中だという事を思い出したのか、突然口をつぐんだ。
「すまない、マール。俺はもう決めた。もう約束もしてあるんだ。」
「約束?なんの約束よ。」
「マテウスと、学院を卒業したら共に冒険者になろうと約束を交わした。パーティーを組む事になっている。」
「アンタは……」
マールは大きな声を出さないが、それが却ってジョンの罪悪感を強くする。
明確な約束はなかったものの、マールはジョンがこれからも共に在ると思っていた。
そこへ来て今回の話だ。
ジョンに否があるとも言い難い状況に追い込まれ、マールが取った行動は、席を立つ事だった。
「私…帰るわ。」
「マール、待て。」
「ごめん、今はちょっと無理かな…少し時間を頂戴。」
「マール…」
「マールさん…」
マールはそのまま席を立ち、店を出て行った。
ケントが恐る恐る見やったジョンの表情は、一言では言い表せないほどに様々な感情が渦巻いた物であった。
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