第89話 台頭

レードルフの介入により、赤チームは一気に不利になった。


キーンはさっさとレードルフを退けてフリックを抑えるつもりだったが、想定していたよりも遥かに苦戦していた。


その理由は、レードルフの戦いぶりにある。


魔法と肉弾戦を駆使しながらヒットアンドアウェイを繰り返し、決してキーンに掴まれるような接近はしない。


その間にもフリックの無双ぶりは続き、キーンも焦りの色を隠せない。


「なんじゃ貴様!ウロチョロ鬱陶しいのう!!」


「ふん、早くこの帽子取らねーと、どんどんお仲間が減っちまうぞ?」


レードルフは鍔を後ろに回した帽子を親指で指し示しながら、キーンを挑発する。


この時点で、どちらのペースで事が運んでいるかは一目瞭然だった。


「ぐうう…邪魔じゃ、どけええ!!!」



キーンの空気圧縮魔法を、レードルフは余裕を持って躱す。



「こんなもん、こっちは毎週毎週喰らってんだわ。今更当たるかよ。」



「くそおお!!!!」



キーンがレードルフに突進していき、またもや肉弾戦が始まる。



キーンがレードルフを掴もうと右腕を伸ばすが、レードルフは左手でそれを払い、バックステップで距離を取る。



距離が開いたのを見計らってキーンが他のメンバーの元に向かおうとするが、その前にレードルフが立ちはだかりキーンの帽子へ手を伸ばす。



キーンは邪魔そうに腕を払うが、既にそこにはレードルフはいなかった。



これまでも繰り返してきた攻防が、ここでも続く。


そうこうしている間にもフリックは赤チームの帽子を掻っ攫い続ける。


気がつくと、フィールドにはキーン以外には白チームしか残っていなかった。


「ご苦労、少年。キーンを押さえ続けるとは、やるじゃないか。」


「ふん、対抗戦では大層なご活躍だったらしいが、こんなもんか。あの陰気ヤローの方がずっと厄介だぜ。」


無双を続けてきたフリックが、レードルフの横に並んだ。


キーンはレードルフのせいで思うような動きができず、顔を真っ赤に染めて憤慨している。


「くそ、フリックさん以外にもこんな奴がいたとは…」


しかしまだ勝負は終わっていない。


キーンの帽子を奪わなければ、逆にキーン一人に全滅させられる可能性もあるのだ。


「さて、じゃあそろそろ行くぜ、代表者サマよ!」


レードルフは一言を放つと、ここまで見せなかった最高速度でキーンに迫った。



「こいつ!やらせるか!!」



キーンは接近するレードルフに左肘を曲げ防御体勢を取った。



しかしその左腕は空を切る。



レードルフは体を屈めてキーンの腕を掻い潜ると、キーンの背中に回りその頭に右手を伸ばした。



「オラアア!!!!」



「ふん!!」



キーンは右回りに体を動かし、右腕でレードルフの背中を押した。



レードルフの右手も空を切り、体が前方に投げ出される。



「まだ…」

「お疲れ様。」



レードルフが体勢を立て直しキーンへ向き直ると、そこには赤い帽子を人差し指に掛けてクルクル回すフリックが立っていた。



「キーン、隙だらけだったよ。」


「くそ…」



「白チームの勝利!!」



会場内に大歓声がこだました。



————————————————



(レードルフ…やはり彼は逸材でしたね。キーンさんを相手にあの立ち回り。しかも彼の陽動により、勝負の大勢は決していた。私があの場にいたとして、あのような事ができるかどうか…)


ケントは既知の仲であり対抗戦前には訓練を共にしたキーンの脅威を正しく認識している。


レードルフは飄々とこなしていたが、キーンの掴みを躱し続けるのは容易な事ではない。


しかもフリックが味方である状況において、キーンを引きつけ続ける事は今回の競技に関しては最適解と言えよう。


レードルフが意識していたかは定かではないが、レードルフの活躍によって白チームは優勢に事を進められた。


ケントが更に評価を高めてフィールドのレードルフを見やると、何やら小競り合いが起きていた。


「……!……」


なぜかレードルフがチームメイトのフリックに詰め寄っている。


(ダンボ!)


気になったケントは魔法を行使して、どんなやり取りが行われているのか観察する事にした。




「テメエ、何横取りしてくれてんだ。アイツは俺の獲物だろうが。」


「待て待て。僕と君はチームメイトだろう?君が陽動をしたからキーンに隙ができて、その隙を僕が生かした。なんの問題があるんだい?」


「テメエは散々取っただろうが!俺はアイツを倒す為に散々気を引いてやったってのによ!」


「君は…いや、すまない。しかし…」


「しかし、じゃねえ!!」


レードルフはなおもフリックを問い詰め、フリックはタジタジだ。


側から見ていると言い掛かりに近いが、このやり取りに何故かケントは目を見開き、俯いていた。

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