第86話 今後

体育祭当日。


青い空、白い雲。


晴天に恵まれ、全校生徒がフィールドに整列していた。


シチュエーションは対抗戦と同様だが、整列している人数は大きく異なるものだった。


対抗戦は6つの学院の代表者10名ずつで60名に対して、今回は約240名が6学年で約1500名である。


その大人数が立ち並ぶ姿は、壮観であった。


「これより、体育祭を始める!諸君の健闘を祈る!」


ベアムース学院長の宣言に、会場内は歓声に包まれた。


体育祭は2日に渡って開催される。


千人以上の生徒が競技に参加するのだから、当然だ。


とはいえケントのように複数種目に出場する生徒もいる為、2日で終わらせるのも至難の業である。


その為、複数種目が同時並行で行われる事になっていた。


(まずは徒競走ですね。マイトの活躍を見に行きたいですし。同時刻開催の大玉投げにも興味があるのですが…こちらには知人は参加しないですし、仕方ないでしょう。)


ケントはメイン種目の一つである徒競走の応援に向かった。


チア部の応援もあり、とても華やかな雰囲気だ。


特に赤チームには、チア部の目玉、マールとメグが揃っている。


白チームに非があるわけではないが、華やかさを比較すると赤チームに軍配が上がるのはケントですら分かった。


(こんな中で走るのはさぞ爽快でしょうね。フリックさんやロッシが見たら何と言うか…)


ケントが珍しく俗っぽい事を考えていると、聞き慣れた大声で呼び止められた。


「おお、ケント!お前も徒競走見に来たんか!!」


「ええ、キーンさん。マイトが出場するので、その応援を。」


「そうか。じゃあワシも一緒に観戦しようかの。」


二人は無関心だが、ただでさえ巨躯で目立つキーンにケントが合流してしまったせいで、周囲の視線が集中した。


しばらく観戦したところで、キーンが不意に話しかけて来た。


「ここで話すことじゃあないんじゃが…ケントはこれから、どうするつもりじゃ?」


「どうする、とは?」


「闘技祭がケントの案じゃというのは聞いた。慧眼じゃ。わしも現状には問題を感じておった。でもそのままズルズルと来てしまったんじゃ。それを入学して半年も経たないお主が変え始めておる。これは凄い事なんじゃぞ?」


キーンはフィールドから目を離さずに語り続けた。


「じゃからこそお主には、ここで学び続ける以外の選択肢もあるんじゃないかと思っての。この学院じゃ、お主には狭過ぎるんじゃないか?」


「それは…まだ決めていません。私にはもう少しここでやりたい事がありますので。」


「そうか。まあまだ先は長いんじゃ。しっかり考えたらええ。急に変な話をして悪かったの。」


そう言ってキーンは話を切り上げた。


何気ない会話だったが、しばらくケントの心を揺さぶり、後の行動に影響を与える事になるのであった。



————————————————



その後も競技は続き、マイトは上級生も居並ぶ中で、一位を勝ち取って来た。


「マイト、おめでとうございます。」


「ケントくん!見ていてくれたのか!なんとか一位になれたよ!!」


マイトは健康的に汗を光らせ、満面の笑みを見せた。


「先輩方もいたのに、流石ですね。頭ひとつ抜けていましたよ。」


「僕もケントくんには負けていられないからね!来年はケントくんと赤白に分かれてリレーで対決するんだ!!」


「それは…素晴らしいですね。私も負けませんよ。」


当たり前のようにケントのいる未来を語るマイトに、キーンの言葉が頭に残っているケントは少し言葉が詰まった。


そして短期的視野でしか物事を捉えられていなかった事を恥じ、自分の今後に想いを馳せるのであった。

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