第85話 組み分け

新入生も学院に慣れ、例年であれば何もない二学期のこの時期。


第一学院は揺れていた。


「おい、聞いたか?闘技祭だってよ!」

「聞いたよ。僕はあんまり関係ないね。」

「おおお!!!やっと俺が陽の目を浴びる時が来た!!見ててください、メグ様!!」

(出たよメグ信仰…)


校内の至る所で同じようなやりとりが広がっていた。


学院長のベアムースが生徒達の前で闘技祭の開催を発表した為だ。


「ケントくん!学院中が盛り上がっているね!!」


「そうですね。しかし定期テストと体育祭を控えたこの時期にこの盛り上がりは少し心配になりますね。」


「はは、でも第一学院の人達はオンオフしっかりしてるから大丈夫だと思うよ?」


ケントはマイトとイルマと共に移動教室の最中だった。


「そう言うイルマは落ち着いていますね。」


「そうだね。まずは得意分野から固めていきたいと思ってるからかな?今は定期テストの事しか頭に無いよ。」


イルマは長期休暇を経て更に力強くなっていた。

今では頼もしさを感じる程。


入学当初の気弱な印象は払拭され、潑剌とした雰囲気を醸し出していた。


「そうですか。それが良いでしょうね。」


ケントは前を向き、教室への移動を再開した。



————————————————



定期テストは波乱無く終了した。


一学年一位は変わらずケント。


その後にファム、マイト、イルマとケントと親交のあるメンバーが上位に名を連ねた。


今はもっぱら、明日から始まる体育祭の話題で持ちきりである。


「ケント、あなたは何に出場するんだっけ?」


「リレーと綱引きです。ファムは玉入れでしたか?」


「玉入れ?石入れの間違いかしら。」


ケントの前世と微妙に種目名が異なる為、ケントは脳内で変換しながら会話をしていた。


「そうです、石入れ。確か石を魔法で飛ばして遠くの穴に入れるんでしたか。」


「そうよ。本当はリレーも出たかったんだけど…各学年1人だけってちょっと厳しくない?」


基本的に全生徒が一種目は何かに出場する事になっているが、リレーのような種目は選抜制になっている。


ケントは各学年1人しか出場できないメイン競技のリレーの代表選手に選抜されていた。


「…しかし学年順になっていないとはいえ、ジョンと走るのは厳しいですね。もちろん楽しみでもありますが。」


「そうね。ちょっと先輩達の期待が重過ぎる気もするけど…でもケントなら大丈夫よ!」


「ありがとうございます。精一杯やってみますよ。」


第一学院の体育祭はほとんど全ての種目において、学年の垣根が無い。


赤チームと白チームに分かれて合同練習を行った結果、ケントはリレーの華であるアンカーに任命されていた。


(しかしこの世界でもリレーや綱引きがあるとは…なんだか面白いですね。何か関わりでもあるのでしょうか。私が佐藤謙としての記憶を持っているのもおかしな話ですし…機会があれば調べてみるとしましょう。)


「…!……ケント!聞いてるの!?」


「はい。なんでしたか?」


いつの間にかファムから気を逸らしてしまい、何か聞き逃してしまったようだ。


「まったく…。同じチームなんだし、頑張りましょうねって話!」


「失礼しました。はい、ジョン達に痛い目を見せてやりましょう。」


「私はそんな大それた事は言えないけど…マイトもセレサも向こうなんだから、負けられないわ!」


ファムの言う通り、チーム分けでケントとファムは赤、マイトとセレサは白チームに振り分けられていた。


ケントと面識のある主だったメンバーは以下の通りである。


赤チーム

マール(6年)

メグ(5年)

キーン(4年)

スティーブ(3年)

ケント(1年)

ファム(1年)

イルマ(1年)


白チーム

ジョン(6年)

フリック(5年)

ギーク(5年)

トモヨ(4年)

ゲレラ(2年)

マイト(1年)

セレサ(1年)

レードルフ(1年)


ケントと面識がある=対抗戦か生徒会のメンバーである為、体育祭でも目立つと思われるメンバーが多い。


(レードルフさんと何かしらで競ってみたかったのですが…これは闘技祭に持ち越しですかね。)


ケントは対抗戦以降、授業とは違う緊張感のある場でレードルフと相対したい、という思いを抱えていた。


この時のケントのようにそれぞれの生徒が様々な想いを胸にしている中、体育祭の開催はもうすぐそこまで迫ってきていた。

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