第84話 ようやく

「ケント、お前の提案が採用された。」


「ありがとうございます。どの案ですか?」


場所は放課後の生徒会室。


ジョンがケントにはっきりと言った。


「全てだ。闘技祭に関しては本年度から導入される。」


「それは…なかなか思い切りましたね。確かに特別な費用はかかりませんが…」


ケントが小さくない衝撃を受ける。


長期休暇前の事だ。ケントはジョン経由で学院長のベアムースへ提案を行っていた。


しかし近年中に一つでも提案が通れば良し、と考えて相談した内容が全て通ったのだ。驚くのも無理はない。


しかも一つは本年度から実施するとの事。


「闘技祭はいつ実施予定なのですか?」


「一月の予定だ。二月では学年末テスト、その前は長期休暇だ。今学期では準備期間が足りない。次年度からは一学期になる予定だ。」


「なるほど。楽しみですね。」


「ああ。」


ケントが提案したのは3つ。

闘技祭の開催はそのうちの1つだ。


ケントは対抗戦において、生徒が闘技部門と学術部門に分かれるにも関わらず、闘技を競う場面が少な過ぎると考えていた。


その為、闘技を評価する場を増やす為の提案として、この闘技祭を提案するに至っていた。


ケントがこの課題を発見するに際して、同級の一人の生徒を念頭に置いていたのは間違いない。


(今回のランキングを見ても、対抗戦出場者は学術にも長けている人ばかりのようでしたからね。もしかすると必要無かったかもしれませんが。)


ケントは席替えによって前の席に移動してきた生徒を思い浮かべ、微笑を浮かべるのであった。



————————————————



「おい、お前また強くなってないか?」


「そうかもしれませんね。でもシルバも大したものですよ。もう魔法は板についてきましたね。」


週末、ケントは一学期から継続してシルバ達の訓練に立ち会っていた。


「まあな。夏の間は俺達も仕事がほぼ無かったから、訓練に集中できた。」


そう言うシルバは日に焼けて真っ黒になっていた。


「そういえば、今日はシルバ達に伝えておきたい事があるんです。」


「俺達に?じゃあ全員呼ぶか。お前ら、集まれ!」


6人の男女がバラバラと集まってきた。


「なに、シルバ?」


「知らん。ケントから俺達に話があるらしい。」


シルバの言葉に、6人とも期待とも不安とも取れるような表情を浮かべた。


「そんなに身を固くしないでください。悪い話じゃありませんから。」


ケントはそう言うが、そうもいかない。表情が変わらないのを見て、ケントは諦めてそのまま話し始めた。


「第一学院では、恐らく来年度から闘技科と学術科に分かれて入学試験を行います。」


シルバも含め7人の視線がケントに集中した。


「皆さんの実力であれば、少なくとも闘技科への入学試験は余裕を持って通過できるでしょう。そこで皆さん、学院生になるつもりはありませんか?」


「……本当に悪い話ではなかったな。しかし決断は…」

「なりたい!」


シルバが結論を先延ばしにしようとしたところで、元気な声がそれを遮った。


「リュレー!?お前…」


「私もファムちゃんとかセレサちゃんと一緒に学校通いたい!ね、ブランもショコもそうでしょ?」


「まあ…そうですわね。憧れが無いと言ったら嘘になります。」

「…私は甘い物が食べられればそれで良い。」


「もう!ショコはいっつもそれなんだから!とにかく私達は学院生になりたいの!!」


女子3人組はファムとセレサと行ったカフェが忘れられないのだろう。


それぞれ理由は若干異なるようだが、3人ともに学院生になる事はやぶさかでは無いようだ。


「お前達はどうだ?」


「俺は行ってみてーな。」


「ドッカ…なんでだ?」


7人の中で一際小さいドッカ。

しかし度胸と知恵があり、シルバの右腕として信頼を集めている。


「ケントに助けられたとはいえ、俺達は元々孤児だろ?そっから学院に入って色々学んで卒業後に大活躍する。男ならこれにワクワクしねえ奴はいねえだろ。」


「まあ…それはそうかもな。ギュードはどうだ?」


シルバはドッカの言葉に少し心を揺さぶられていたが、平静を装ってギュードに話を振った。


「ふん、まあ君達の熱い気持ちも分からないでも無いが、考えても見たまえ。学院に入ればほぼ半分は女の子だよ?それだけで入学を希望するには十分だよ。」


「…わかった。」


ギュードはすらっと背が高く、整った顔立ちをしていた。

性格は…第六学院の誰かと似たようなところがある。


「ブンタはどう思う?まあお前は聞くまでもないか。」


「入る!入って食堂のメシ食い尽くしてやる!!」


ブンタはギュードを上から押し潰したような体格をしている。


その言葉通り食い意地が張っており、かねてから学院の食堂への憧れを語っていた為、誰よりも入学の意思は固いだろう。


「そうか。わかった。ケント、満場一致だ。」


「では良い知らせになりましたね。シルバもそれで良いのですか?」


一人だけ意見を聞いていないシルバに、念の為ケントが問いかける。


「俺はこいつらと共に行く。目を離すと何するかわからないしな。」


「何よそれー!問題児扱いしないでよね!!」


「そうだぞ、シルバ!俺はただメシを腹一杯食いたいだけだ!」


「ケーキ…」


「ああ…まだ見ぬ女の子が僕を待っている…」


「あらあら…」


「ったく…」


口々に好き放題のメンバーを見やり、シルバはフッと笑うと遠くに目を向けて訓練の再開を宣言した。

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