第83話 対抗
長期休暇も終わり、ようやく登校日がやってきた。
ケントにとっては待ち遠しい日であったが、他の生徒にとっては違う。
屍のような顔でのそのそと歩く者が多かった。
そんな中、背筋をしゃんと伸ばして歩く見慣れた二人組を前方に見つけ、ケントは足を早めた。
「おはようございます。マイト、イルマ。」
「おお、ケントくん!おはよう!今日も良い天気だね!!」
マイトは良く日焼けした顔で満面の笑みを見せた。心なしか体つきも力強くなっているように見える。
長期休暇の間も野外で鍛錬をしていたのだろう。
「久しぶりだね、ケント。なんか…強くなった?」
続けてイルマも挨拶を返してきた。意外な事に、イルマも良く日焼けしている。恐らくマイトと共に鍛錬に励んだのだろう。マイトとは違い、目に見えて精悍になっていた。
「強く…なったのですかね?もしそうだとしたら、特別補講の成果だと思いますよ。」
自分でもわからない格の高低を見抜いたイルマに驚きつつ、ケントは言葉を返した。
「特別補講!その話が聞きたかったんだ!是非詳細を頼むよ、ケントくん!!」
「その話は教室でしましょうか。色々と面白かったですよ。」
ケントはそう言って、マイトとイルマを促した。
今日は教室に向かう前に、魔法掲示板に寄らなければならない。
遅れるのを嫌っての発言だが、マイトも同意見だったようだ。
「そうだね!変動をしっかりチェックしなければ!!」
第一学院では学期ごとにクラス・席が入れ替わる。
その為、まずは魔法掲示板を確認しなければならない。
「さて、どうなっているやら。」
————————————————
ケント達は1年1組の教室に共に入って行った。
結果としてこの3人のクラスが変わる事は無かったという事。
しかし座席の位置は変動していた。
「やっとここに来れたわ。宜しくね、ケント。」
ケントの席は左前の首席。
その隣にはファムが座っていた。
「ええ、よろしくお願いします。」
ケントはファムと挨拶を交わし、自分の席について教室内を見渡した。
「ファムくん!次は負けないぞ!」
「ええ、私も譲る気はないわ。」
ファムの右隣にはマイト。
「マイト、大きな声出さないでよ。」
マイトのさらに右隣で嗜めるイルマ。
「おはようございます!またケントさんの後ろですね!」
ケントの後ろには、一学期と同じくセレサ。
「おはようございます。セレサ。」
「ちょっと!足前に伸ばさないでくれる!?椅子に当たるんだけど!」
「チッ」
そして一番の驚きは、ファムの後ろ、セレサの右隣に座るレードルフ。
「レードルフさん、おはようございます。」
「……」
「レードルフさん、おはよ…」
「うるせえ。関わんな。」
ケントはわざわざ教室の後ろまで行かずともレードルフと話せて嬉しそうだ。
教室内の雰囲気としても、ケントとレードルフが固まってくれたのを喜ぶ反面、接触の機会が増える未来を嘆く、複雑な心境の者が多かった。
そんな席替えでざわつく教室に、一際高い声が響く。
「みんな、おはよう!ちゃんと課題はやってきたかなー?」
ミレーネ先生が教室に入ってきて、騒ついた教室が落ち着いた空気に変わる。
「うんうん、みんなちゃんと新しい席に座ってるね!次は左前の席に座れるように、みんな今日から頑張りましょー!!」
能天気なミレーネ先生だが、その言葉を素直に受け止められた者は多くなかった。
ここにいる全員が対抗戦を観戦して、ケントのいる高みに尻込みしている。
そこを目指そうと本気で考えているのは、数人しかいなかった。
「あ、あれ?みんな元気無いよー!休み明けで疲れちゃったかな?」
ミレーネが困り顔を見せるが、クラス内の雰囲気は変わらなかった。
ケントが好まぬ雰囲気だ。
(自分で言うのもなんですが、もう同学年に相手になる者はいないかもしれませんね。そうなると…)
「ケッ、腰抜けどもが」
大きな声では無いが教室内の全員に聞こえる程度のボリュームで、ケントの右後ろから悪態が聞こえた。
「レードルフくん…そんな言い方しちゃダメです!」
「うるせえ。俺に指図すんな」
レードルフはまたもや呟くように、かつ何かが欠落したような表情を浮かべながら言葉を口にした。
「俺は…俺は負けねえ。負けられねえ…」
自分に言い聞かせるように放った言葉は、クラスメイト達の心に染み込んでいくのだった。
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