第76話 成分補充
ケントがマールとメグに散々弄り回されている頃。
第六学院の生徒達も第一学院同様、帰途に着いていた。
「ロッシ、お前んとこどうだった?」
「今ちょっと忙しいんで、ちょっと黙っててください!」
「あん?」
チェンバロがロッシの視線を追うと、その先にはナンナとクリス、それ以外の女子メンバーが揃って何やら話していた。
「久しぶりの女の子成分……!!
うおぉお……!今の僕なら目からでも摂取できる気がする…!!
目覚めよ、僕の真なる力…!!」
「何アホな事言ってやがんだお前は」
「痛ッ!」
チェンバロがロッシの頭をどつく。
「訓練の話を聞きてえんだよ。お前らんとこも厳しかったのか?」
「最悪でしたよ!!もう二度と行くもんか!!」
ロッシはチェンバロの言葉で訓練の事を思い出してしまったのか、女子を見つめていた先程までとは打って変わって、強い憤りの表情を見せる。
「やっぱりか…何がキツかったんだ?」
「一に女子不在。二に2週間野宿。三に運動量が過剰。四に食事の摂取量が過剰。五に全員が筋肉バカ。」
ロッシは指を立てながら答えた。
「大抵同じだな。お前らも魔獣退治か?」
「は?そんなんやったんですか?僕だったら逃げますね。逃げてナンナさんに慰めてもらいます。」
ロッシはここでようやくチェンバロの顔に目をやった。
2週間しか経っていない筈だが、少しぶりに見たチェンバロは、なんだか大人になったように見えた。
「考えが浅えわ。
お前、ボルクさんから逃げ切れると思うか?
魔獣なんかよりよっぽど素早いあの肉の塊から?
おい、ロッシどう思う?
なあ。なあなあ。
俺の目を見て言ってみろよ。」
「悪かったです、悪かったですよ!
だからその血走った目を僕に向けないでください!!」
ロッシの本気の叫びに、チェンバロも自分を取り戻した。
「ダメだな、俺が取り乱すなんてキャラじゃねえ。一回落ち着くか。ロッシ、また後でな。」
「はい。また。」
ようやくチェンバロとの少し狂気じみたやり取りを終え、ロッシは小さく息を吐く。
やれやれと首を振った後、ロッシは改めて、女子を舐めるように見つめる。
その姿はなにか空いてしまった穴を埋めているように見え、視線に気づいた者たちも指摘できないまま、時は過ぎていくのであった。
————————————————
夕方のうちに第一学院に辿り着いたケントたちは、一度寮に戻り荷物の整理、暫しの休息を取った上で、再度合流した。
誰が言い出すでもなく自然と打ち上げを実施する流れになっており、帰省をする生徒達は翌朝の出発を予定している。
合流場所はカフェテリア。
広く開放的で、清潔感のあるテーブルとイスが多数並んでいるスペースだ。
ちなみにケントは使用したことがなかった。
食事は寮母のヘンディが用意した。
今回初めて特別補講を受けたメンバーは知り得なかったが、毎回の恒例行事らしい。
今回の補講参加者は数が多いが、その分不足した人手はシルバたちで補ったらしい。
彼らも近くに佇んでいた。
「シルバ、ただいま戻りました。」
「ああ、無事でなによりだ。……」
「シルバ?」
シルバがケントを見て押し黙ってしまったので、流石のケントも訝しむような目でシルバに問いかけた。
「お前、また強くなりやがったか…」
「ええ、恐らく。また貴方からは遠ざかったかもしれませんね。」
この返答に、シルバは少し驚いた顔はしたものの、獰猛な笑みを浮かべてケントと肩を組んだ。
「それでこそお前だ!宜しく頼むぜ。」
「ええ。ではまた。」
「おう!」
シルバは疲労を見せながらもその場を辞した。
そろそろ打ち上げが始まりそうだ。
「皆、お疲れ様。俺を含め、得るものの多い補講だっただろう。
これからの課題はそれぞれあるだろうが、まずは疲れを癒そう。
今日は楽しんで行ってくれ!乾杯!」
『乾杯!!』
それを聞き、バイキング形式の食事に手をつける生徒達。
その後も打ち上げは夜遅くまで続き、誰もいない夜の校舎には、カフェテリアから聞こえる話し声や笑い声が響き渡っていた。
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