第75話 告白
2週間の訓練を終えた生徒と野狼のメンバーが、競技場の外に整列していた。
代表してマテウスが挨拶を行う。
「今回参加した全員にとって、とても有意義な時間となりました。
2週間、ありがとうございました」
『ありがとうございました!!』
生徒達が一斉に頭を下げる。
「こちらこそとっても楽しかったわ。また一緒に戦いましょ。」
ボルクが代表して返答するが、野狼のメンバーは様々な表情を浮かべていた。
不敵な笑みを浮かべたゲイル。
威圧するような雰囲気を放ちつつ、満面の笑みを浮かべたガリウス。
感情の抜け落ちたようなタリア。
寂しそうにしつつ引き攣った笑顔を見せようとしているアゼリア。
野狼メンバーにも色々と感情が揺れ動く2週間になったようだ。
「はい、じゃあ行くわよ。」
ボルクはそう言って颯爽と歩き出し、野狼メンバーもそれに従い去って行く。
(とても有意義な時間になりましたね。格も上がりましたし、魔物とも戦えた。野狼…特別補講のゲストとしては最高の人選でした。)
「俺達も帰るか。」
ジョンの言葉に、第一学院の9名が頷き行動を始める。
「ジョン、もう行くのか。」
「ああ。お前と会うのは大体半年後だな。」
対抗戦とこの補講を通じて仲を深めたジョンとマテウスは、お互い歩み寄り固い握手を交わした。
「ケント。お前これからどうすんだ?」
「はい。ひとまずコレアさんのところに行って色々と学ばせて頂く予定です。」
チェンバロもケントの今後を気にしているようだ。
「コレアさんって…コレア=ヤネンか!?お前の人脈どうなってんだよ!?」
「偶然お会いして、仕事を持ち掛けられただけです。私が何かした訳ではありませんよ。」
ケントは事もなげに言うが、チェンバロは顔を顰める。
「つってもな…敏腕で有名なうちの領主と顔馴染みっつーか仕事頼まれるってなかなかだが…まあケントだしな。」
「本当に偶然の産物ですから。何か得るものがあれば、チェンバロさんにもお伝えしますよ。」
「伝えられても俺が生かせるかはわからんが…まあ頑張ってこいよ。またな、ケント!」
「はい。チェンバロさんもお身体に気をつけて。」
チェンバロとケントはこの訓練中に習慣となったグータッチを交わし、笑顔を見せた。
「さて…」
ケントはチェンバロとの挨拶を終えると、目的の人物を探し始めた。
その人物はマール、メグと抱きしめ合って別れを惜しんでいる最中であった。
「ナンナさん、ちょっとよろしいでしょうか。」
「あなたは…ケントくん?どうしたの?」
「ちょっとここでは…向こうの木の陰に行きましょうか。」
この提案には、共にいたマールとメグも疑問符を浮かべた。
「わかったわ。行きましょうか。」
ナンナも事情は分からないが、ケントの表情を見て後に続く。
わざわざ人気の無いところに呼び出すぐらいだ。流石にメグも、もちろんマールもついていこうとはせず、その場に佇み様子を伺っていた。
やがて木陰に着いたケントは、何やらナンナに話しかけ始める。
それを聞いたナンナはまず驚愕の表情を浮かべた後、何か言葉を発し、少し涙を浮かべた後、最後には笑みを浮かべてケントを抱きしめた。
離れたところからこの様子を見ていたマールとメグは、最初こそ不安そうな顔だったものの、その表情は徐々に変化していき、ナンナがケントに抱きついた時には目を合わせてニヤケ顔になった。
ナンナが第六学院のメンバーの元へ帰っていき、それを見送ったケントが第一学院のメンバーに合流しようとしたところ、後ろ首を掴まれた。
「ケント、お姉ちゃんに何か言っておいた方が良いんじゃないかな!」
「そうね、報告は大事よ。」
未だニヤケ顔の収まっていない2人にケントが捕まる。
「…?特にありませんが。」
「またまた!マールさん、こんな事言ってますよ!」
「やあねえ、メグさん。モテる男は違いますわね!」
その後の帰り道でもケントは否定を続けたが、勢いづいた女子二人には太刀打ち出来なかった。
「これが本物…ボル姉もまだまだだったんですね…」
ようやく第一学院に辿り着く頃には、ケントは遠い目をして真っ白に燃え尽きていた。
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