第74話 兄弟

「私ですか?」


突然、格という不透明なものの高さを指摘されたケントは、自覚がない為戸惑う。


「ええ。あなた、学院に入る前はどんな訓練をしてたの?」


「魔法をたくさん使う事と、時々野獣や魔獣を討伐してましたね。」


「それよ。」


「どれですか?」


それと言われても、ケントには判断がつかなかった。


「魔獣の討伐。それが生物の格を上げる方法なのよ。それをしない限り、アナタ達は一生、上位の冒険者には勝てないわ。」


「なぜ魔獣の討伐で?」


ジョンが当然の疑問を呈した。


しかしボルクは首を振り、答えの持ち合わせがないことを示した。


「残念ながら、それは判明していないわ。わかっているのは、魔獣を倒すと格が上がって、肉体と精神、魔法の威力なんかが強くなるって事だけ。ケントくん、今一年生なんでしょ?」


「はい。」


「この子の素養があったとしても、一年生でここまで成熟した子はいないわよ。こんな世界でもね。」


マテウス、ジョン、チェンバロはうんうんと頷いているが、ケントはあまり腑に落ちていなかった。


(私は佐藤謙としての記憶があるから、多少順序立てて考えるくらいの事はできますが…それが魔獣を討伐したからだ、というのは実感が湧きませんね…)


「まあ、そういうわけだから、今から外に行くわよ!この2週間でバリバリ魔獣を倒して、どんどん強くなっちゃいましょ!」


そう言うと、ボルクの巨体が宙に浮いた。


「みんな空は飛べるわよね?良いトコロに案内するわ。」


ボルクの言葉に、マテウス、ジョン、ケントは宙に浮き、ボルクに従った。


「チェンバロ、アンタもさっさとしなさい!置いてくわよ!!」


「置いてって欲しいとこなんだけどなあ…まあやっと魔獣狩りのお墨付きももらえた事だし、ここはついてくか…」


チェンバロは渋々重い腰を上げ、ボルクに従った。


「よし!じゃあ飛ばすわよ〜!!」


ボルクが競技場から北に飛行を開始し、やがて5人は空の彼方へと飛び去って行った。



————————————————



そしてあっという間に2週間が経過した。



「おい…結局最初の昼飯しか碌なもん食ってないぞ…」


「まあ良いじゃないの、チェンバロ。アンタも格を上げたワケだし!!」


ようやく競技場に帰ってきたボルク達だが、チェンバロは異様に気が立っていた。


「それとこれとは別だろ!まさか一回も帰ってこないとは思ってもみなかったわ!!着替えとか持ってきてたこっちの気持ちも考えやがれ!!」


「チェンバロは反抗期ねえ。あんまり聞き分けがないと、また魔物の住処にぶち込んじゃうぞ?」


「反抗期とかじゃねえだろ!真っ当な指摘だわ!!そんで魔物とか言うな!思い出したくもねえ!!」


チェンバロは青い空を見やり、遠い目をした。


「おーい、ケント!お兄ちゃん!!無事だったんだね!!」


ボルクとチェンバロのそんなやり取りをよそに、メグが駆け寄って来た。


「すまない、メグ。心配掛けたな。」


「お兄ちゃん、大丈夫だよ!ボルクさんと一緒だし、危ない事はないかなーと思ってたんだけど…あれ?無事??」


メグが首をかしげるのも無理はない。


マテウス、チェンバロを含め、ボルク以外は皆、着衣がボロボロになっていた。


「ああ、問題ない。訓練で多少汚れたが、心身共に無事だ。」


「そうなの?ケントも無事?」


「はい。メグもお元気そうですね。」


愛する兄弟の無事な帰還に、メグはここでようやく満面の笑みを浮かべた。


「私は元気だよ!そうそう、ケント!タリアさんすっごいんだよ!!」


「そうですか。ボル姉もなかなか凄かったですよ。ねえジョン。」


「ああ、ボル姉は凄い。まだまだ遠い。」


「ボル姉…?」


妙な呼び名を繰り返す2人に違和感を覚えたメグだったが、すぐに気を取り直した。


「でもでも!タリアさんはもっともっと凄かったんだよ!!」


「そうか。また聞かせてくれ。」


そう言うと、ジョンは木陰に座りこんだ。


メグがそちらを見やると、同じ木の下でケントが既に眠りに落ちている。


やがてジョンも目を閉じ、たまたま倒れ掛けたケントがその肩に頭を乗せた。


珍しい寝顔のそっくりな兄弟を見て、メグはふくれっ面を笑顔に変えた。


「お疲れ様。あと、おかえりなさい。お兄ちゃん。ケント。」

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