第72話 トーナメント
ボルクとゲイルが無双の強さを発揮している一角から離れたところには、魔術師のタリアが立っていた。
「えーっと、私の所には…?一、二、三、四…五人?多い、多いよちょっと!!」
アゼリアが非戦闘組の生徒と共に抜けた事で、魔法をメイン戦法としているメンバーは全員がタリアのところに集結していた。
第一学院からは、マールとメグ。
第六学院からは、ナンナ、チェンバロ、それともう一人は対抗戦の時にはいなかった男子である。
「だってよロッシ。ガリウスさんとこ行ってこいよ。」
「嫌ですよ。僕はスマートに美しく戦いたいんです。そしてモテたい!せっかくナンナさんだけじゃなく第一学院の美女が2人もいるのに、なんでむさ苦しい方に行かなきゃならないんですか!」
「いやいや、お前声デカいよ。あ…」
チェンバロがロッシの背後に目をやった。
「そうやって振り向かせといて背中押したりするんでしょ?分かってるんですよ?チェンバロさんのやり口は。僕は絶対筋肉トーナメントには参加しませんからね!」
「喜べ。お前はシードにしてやる。」
低く重い声が背後から聞こえ、ロッシは震えながら後ろを振り向く。
当然、後ろにいたのはガリウスだ。
「鍛えがいのありそうな奴だ。みっちりしごいてやろう。」
「いや、ちが、違う…」
ロッシは必死でもがくが、ガリウスに頭を掴まれ連行されていった。
「いーーやーーだーーーー!!!」
「はい、ご愁傷様。ぷぷ。さて、タリアさん。人数は整いましたね。」
「…ま、まあいっか。じゃあやろう。」
タリアはそう言うと、あえて詠唱を開始した。
「GOD’s field!!」
短い詠唱に対し、明らかに強靭な障壁が出現した。
しかも生徒達は、詠唱の意味すらわからなかった。
「これを破ってご覧なさい!」
タリアは少し自慢げに生徒達を煽ってくる。
しかしそんな煽りには乗らず皆冷静に状況を見ていたが、一人だけが憤った訳でもないのに飛び出した。
「すごい!固そう!!ちょっと頑張ってみちゃうね!!」
メグだ。
「ノッポさん、どかーん!」
得意の石像がタリアの障壁に踏みつけ攻撃を行う。
「きゃあああ!!!!!」
巨大な石像の踏みつけにタリアは悲鳴をあげるが、障壁はびくともしていなかった。
「ふ、ふん!全然効かないんだから!!」
「すごーい!ノッポさん、次いこー!!」
メグはそう言ってその場にうつ伏せに倒れこむ。
すると何が起きるか。
「うわきゃあああ!!!!!」
石像がタリアに向かって倒れ込んできた。
それはそれは恐ろしい。
しかし、石像は地面に辿り着く事はなかった。
石像の胸のあたりで接触したタリアの障壁に支えられるような形で、少し宙に浮いていた。
「これもダメかー。どうしよっかなー」
「ちょっと!これどけなさいよ!」
呑気なメグにタリアが言い募る。
「おい、これどうすんだよ…」
「メグさんは相変わらずね…」
「ウチの子がごめんなさい…」
置いてけぼりになってしまったチェンバロ、ナンナ、マールは、介入もできないまま茫然と状況の推移を見守る事しか出来なかった。
その頃ガリウスはというと、悪鬼のように暴れ回っていた。
「ガハハ!なかなか骨のあるやつらだ!どんどんかかってこい!来なけりゃこっちから行くぞ!?」
そんな筋肉の塊のようなガリウスを相手取っているのは、キーン、グライザ、無理やり連れてこられたロッシ、そしてドッセーナという第六学院の生徒の4人だ。
「なんで僕がこんな…スマートじゃない…」
「ロッシくんは素直じゃないなあ。結局いつも男子とばっかりいるくせに。」
「うるさいぞ、ドッセーナ!僕は女の子にモテるために生まれてきたんだ!その為にこの筋肉トーナメントで優勝して、華の魔法グループに入るんだ!!」
「筋肉トーナメント…?」
ロッシにのんびりと話し掛けるドッセーナだが、その身体はキーンやグライザよりもさらに大きい。
しかもその体にはでっぷりと脂肪が蓄えられており、垂れた目と相まって優しげな雰囲気を醸し出している。
「ハッハ!ロッシはシードらしいからな。私達でまずは当たろうか、キーン!」
「当然じゃ。もう一度行くぞ!!」
キーン、グライザは既に一度ガリウスに吹き飛ばされていた。
しかしそれは二人の闘志の強弱にはなんら影響を与えていない。
そしてキーンとグライザは勢いをつけ、ガリウスへと突進していく。
「うおらあああ!!!!」
「ふん!!!」
「効かんわああ!!!!!」
元の立ち位置から動かずに2人を再度吹き飛ばしたガリウス。
「求めていたのはこんなのじゃない。僕はこんな所にいる筈では…」
現実離れした人間同士の衝突、少し離れた位置で現実逃避をしているロッシの姿に、ドッセーナは目尻を下げ、苦笑を浮かべるのであった。
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