第71話 魔族?
(なるほど…戦闘系、非戦闘系は自己申告で振り分けた上で、その後の適性は実戦で確認する。実に効率的で単純化されていますね。ボルクさん…口調に癖はありますが、とても合理的な方ですね。)
ケントはボルクの評価を上方修正した。
「じゃあ広がってねー!はい、スタート!!」
突如始まった戦いに戸惑う者も多かったが、対抗戦闘技部門の出場者達は切り替え早く野狼のメンバー達に向かっていった。
まずはケント、ジョン、マテウスがボルクへと向かっていく。
「あら、いきなりアタシ?度胸あるじゃない!良いわよ、どんどん来なさい!」
そう言って、丸太のように太い腕を広げた。
ケントは無詠唱で風の魔法を放った。
(カマイタチ!)
人に向けるには危険すぎる魔法だが、ボルクの圧倒的な存在感に、発動させられてしまった。
「うぉらああああ!!!!」
先程までのクネクネしたボルクからは想像もつかない野太い声が聞こえたかと思うと、視認できないはずの風魔法はボルクの両腕にはたき落とされた。
「え?」
戸惑うケントを尻目に、ジョンとマテウスがボルクに襲い掛かる。
「……」
「ふっ!!」
示し合わせたようなコンビネーションで、ジョンは右腕、マテウスは左脚でそれぞれ打撃を放つ。
「フフッ」
しかし不敵な笑みを浮かべたボルクの左腕、右脚にそれぞれの攻撃が防がれた。
「ぃよいしょーー!!!!」
かと思うと、伸ばしたジョンの腕とマテウスの脚を掴まれ、放り投げられた。
(馬鹿な、こんな人間がいるとは…大人と子供と言っても、ジョンもマテウスさんも大人顔負けの体格なのに…。そういえばあの口調、もしかすると本当に人間ではなく魔族なのでは?)
ケントが見当違いの推測をしている間も、ボルクにあしらわれる形で戦闘は続いていった。
一方、剣士のゲイルに対してはフリック、トモヨ、クリスが戦闘に入っていた。
「同じ剣士として、その高み、見定めさせて頂きます!!」
トモヨが自前の剣を構えた。
「ふん。」
一方、ゲイルはだらりと脱力したまま、鋭い目つきで3人をただ見つめる。
「ふう…クリスくんと共闘する事になるとは…複雑な気分だよ。君の掻き回しには期待しても良いのかな?」
「あまり期待しないでほしい。隙が全然見当たらない。」
対抗戦で対戦した2人が言葉を交わす。
「じゃあその隙を、僕達で作ろうか!!」
フリックはそう言いながら、自らに無詠唱で速度強化を掛け、ゲイルへ向かって駆け出した。
「やっぱり無詠唱…!負けてられない。」
そのフリックを見て、クリスも後から駆け出す。
フリックとクリスは自然と前後の関係になり、ゲイルの射程範囲ぎりぎりの所を高速で駆け回る。
駆け回る、といっても速度が高まりすぎて、飛んでいると言った方が正しいような動きだ。
その2人に対し、ゲイルは左手の親指で鞘から刀を少しだけ出し、刃が少し見えた程度のところから、チン!と音を立てて鞘へ刀を戻した。
2人は訝しみながらも動き続けようとしたが、突如とてつもない圧力の風に当たられ、吹き飛ばされた。
「なに!?」
「???」
フリックとクリスは何が起きたのかもわからない。
しかしゲイルはそんな2人を気にも留めず、トモヨを見つめて口を開いた。
「来い。」
「やあああ!!!!」
トモヨが裂帛の気合を込め、ゲイルへと向かっていく。
ゲイルまであと5メートル。
ゲイルは動かない。
ゲイルまであと4メートル。
ゲイルはまだ動かない。
ゲイルまであと3メートル。
ゲイルはまだ動かず、トモヨは剣を上段に構えた。
ゲイルまであと2メートル。
ゲイルはまだ動かない。
トモヨは剣を振り下ろす。
ゲイルまであと1メートル。
それでもゲイルは動かない。
トモヨは振り下ろした剣を中空で止め、ゲイルへ向かって突き出す。
ここでゲイルの眉がピクっと動いた。
ゲイルまであと…
ガキィン!!
必殺の間合いで繰り出されたトモヨ渾身の突きは、ゲイルの刀に弾かれた。
剣がトモヨの手から離れ、宙を舞う。
しかしトモヨは剣を追う事もなく、呆然としていた。
見定める事など到底できないほどの差が、ゲイルと自分の間にあると理解してしまったから。
暫し呆然としていたトモヨだが、突然笑顔を見せ、剣に向かって足取り軽く駆け出した。
地面に刺さっていた剣を手に振り返ると、ゲイルに向かって微笑む。
「もう一度、お願い致します。」
「ふん。」
「なんだか僕達、やりづらいね。」
「同意。」
師弟のような空気を醸し出すゲイルとトモヨに、共闘する筈だったフリックとクリスは、居心地の悪さを感じながら再度陽動に向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます