第70話 初見
特別補講を実施する競技場へ向かう当日。
準備を済ませたケントは、これからの二週間に思いを馳せていた。
(まだ見ぬ野狼の皆さんに加えて第六学院…チェンバロさんには成長した姿を見せなければ…あ、あとナンナさんにはお聞きしたい事もありましたね。)
「ケントー!早いわね。」
「ファムこそ。気合いが入っていますね。」
「当たり前よ!野狼よ!?まだ伝わってないみたいね!こっちに…」
「あ、マールさん。こんばんは。」
またもやファムからの野狼談義が始まりそうだったので、ケントは早々に脱出した。
それぞれと挨拶や会話を交わしていき、気づけば集合時間となっていた。
「さて、そろそろ行くかの。全員揃っておるか?」
「ベアムース学院長!メグ様がまだ来ておりません!!何かあったのでしょうか!?ちょっと見てきます!!」
「ま、待つのじゃフリック!!」
点呼をとったベアムースは、返答と同時に走り出したフリックを慌てて止めた。
「なんですか!!メグ様に何か起きているかもしれぬという時に!!」
「心配は不要じゃ。来たぞい。」
寮の方を指すベアムースの言葉に、フリックはもちろん全員がそちらを見た。
そして呆れた。
「ごめーん!遅れちゃった!!」
「メグ、その大荷物は何が入っているのですか?」
メグは補講に必要な荷物よりも明らかに大きな荷物を背負ってきた。
「えー?お菓子とか遊ぶ物とかだよ!楽しみにしててね!!」
満面の笑みをケントに向ける。
「そうですか…着替えや洗面道具は持ってきましたか?」
「あ!ちょ、ちょっと待っててね!」
そう言って駆け戻るメグ。
一行が出発したのは、それから数十分後であった。
————————————————
翌日。
夏の照りつける日差しの中、ヤネン一の規模を誇る競技場に、第一学院と第六学院の生徒、計20名が集結していた。
「ようケント。思ったより早く会う事になったな。」
「チェンバロさん、おはようございます。そうですね。私もこんなに早くお会いする事になるとは思っていませんでした。」
早速チェンバロがケントに話しかけてきた。
周囲を見ると、ジョンとマテウス、メグとナンナなど、対抗戦で関わった生徒達が親交を深めている。
キーンとグライザなど、笑顔で握力勝負に励んでおり、顔を紅潮させていた。
フリックはと見ると、ファムと一緒にクリスと話そうとしていた。
クリスはあまり口を開かないので、フリックもファムも困り顔だが。
そこに、良く通る声が響き渡った。
「みんな、おはよう!
うんうん、学院の垣根を越えての交流。良いわぁ。
今日からみんなと一緒に訓練をする、野狼のボルクよ。よろしくね!!」
『よろしくお願いします!』
いよいよ野狼のメンバーが競技場に現れた。
ひとまず他の生徒達と共に挨拶をしたケントだが、早速ボルクに違和感を感じていた。
(え?今この身体が仕上がっている筋肉質の男性が話していましたよね?口調が何か…それになんだかクネクネしていますが、あれは…?)
ケントは初めて見る人種に戸惑いを隠せない。
横にいたチェンバロは、なぜかその様子を見てニヤケ顔だ。
そんなケントの戸惑いは置き去りに、野狼のメンバーの自己紹介が続く。
「ゲイル。剣士だ。」
「私はタリアです。魔術師です。」
「俺はガリウス!盾使いだ!!」
「アタシはアゼリアだ!ヒーラーをしている!よろしくな!!」
(男3、女2でリーダー、剣士、魔術師、盾使い、ヒーラーですか。
バランスが良い気はしますが、課題もありそうですね。)
「それじゃあ、早速訓練を始めましょうか!まずはチーム分けだけど、そうね、戦闘が得意じゃないって子はアゼリアの所に集まって!」
この声に、第一学院からはギーク、スティーブ、ファム。第六学院からも3人がアゼリアの元に集まる。
「おお、6人も来たか!よしよし、アタシがあんた達に冒険者ってのは戦闘だけじゃないって事を教えてやるよ!ついてきな!!」
アゼリアは嬉しそうに言うと、鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で、なぜか競技場から出て行った。
「ちょっと、アゼリアちゃん!洗脳しないでよ!?」
「わーかってるよー!!」
ボルクの大声に、それに負けない大声で返すアゼリア。
先が読めないこの状況に、ケントはワクワクしていた。
(この流れだと、残ったメンバーは戦闘系の訓練になりそうですね。14人の生徒に対して、野狼のメンバーは4人。密度の濃い訓練が期待できそうですね。)
「さて、じゃあ残った子達は、まずは私達と戦ってみましょうか!」
思ってもみないボルクの声に、ケントを含めた生徒達は呆然とするのであった。
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