第69話 告知
一学期が終了した翌日。
特別補講に向けて2日しかない準備日の内1日を、ケントはシルバ達との訓練に充てていた。
今はシルバを模擬戦で圧倒し、ひと休みしている所である。
「ちょっと頻度が多くありませんか?模擬戦は少し間隔を空けたほうが効果的なのですが。」
「良いんだ。俺達は週末以外も訓練をしてる。毎週末にチェックをするぐらいでちょうどいい。」
「わかりました。まあ二週間不在にしますし、今日のところは大目に見ましょう。」
シルバ達には、特別補講で不在にする旨を伝えた。
野狼が来ると聞いてついていきたそうにしていたが、今の立場での参加は難しいと伝えてなんとか納得してもらった。
どうやら野狼は彼らのヒーローらしい。
(ファムといい、シルバといい…これだけ人気となると、なにか理由があるんでしょうね。お会いするのが楽しみです。)
そんな事を考えながらも、自らをより高めて行く為にも少年少女達の動向をじっくりと観察するケントであった。
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続いて、ケントはヤネン領主の元を訪れていた。
「やあ。対抗戦では大活躍だったね。」
「お久しぶりです、コレアさん。」
コレア=ヤネン。
ドリスやマリーナと同世代でヤネンの領主をしているやり手の男だ。
「こっちは久しぶりって感じでもないがね。で、今日はどうしたのかな?もしかしてもう働けるのかい?」
「いえ。逆に特別補講でお伺いするのが遅れそうでしたので、その報告をと。」
「そうか。一年生の一学期に特別補講を受けられるなんて、大したものだ。でも、遅れるって事は、その後は来てくれるのかな?」
「はい。そのつもりです。それで、具体的な業務内容をお伺いしても宜しいですか?」
ケントは紙とペンを取り出しながら、真剣な面持ちでコレアを見つめた。
「うん。君に頼みたいのはね、このヤネンの分析と改善案をまとめて欲しいんだ。」
「それは…私で宜しいのですか?」
想定よりも重要性の高い業務内容に、ケントは驚きを隠せない。
「君が良いんだよ。引き受けてくれるかい?」
「私は構いませんが…なぜ私に?もっと適任者がいそうなものですが。」
街の改善・改革など、本当に領主、もしくは直近の部下ぐらいしか携われないのが普通だ。
ケントの疑念ももっともだろう。
「最初に会った時の事を覚えているかい?」
「はい。ファムと検問所で揉めた時の事ですね。」
「ファム?ああ、学院の同級生だものね。そう、その時。
君は大人顔負けの市場分析をしてのけた。それも、街に入って数分で。誰にでも出来る事ではない。」
コレアは指を一つ立てた。
「それに、君はこの街には来たばかり。この街にまだ染まっていない。」
コレアが二本目の指を立てる。
「そして、まだ子供だ。子供側の言語化された意見は、なかなか手に入りにくい。」
三本目の指を立て、コレアは微笑を浮かべケントの目を見つめた。
「こんな所かな、君に頼みたい理由は。
改めてどうだろう、引き受けてくれるかい?」
「是非もありません。引き受けさせて頂きます。」
「ありがとう。特別補講が終わって落ち着いたら、僕を訪ねてくれれば良い。わかるようにしておこう。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
ケントが受諾すると、場の空気はリラックスしたものに変わる。
「しかし君は本当にしっかりしているな。ドリスはともかく、マリーナの息子とは思えないよ。」
「父上達とは顔馴染みでしたね。確かに母上はなかなか元気な方ですが、昔からそうだったんですか?」
「そう!マリーナは元気なんてもんじゃなかったよ!冒険者の時にね…」
そこからは両親の過去を知るコレアとの話が弾み、気がつくと多少の時間が過ぎていた。
「申し訳ありません。お忙しい中、お手を煩わせてしまいましたね。」
「僕も楽しかったから構わないよ。じゃあ、またね。特別補講、楽しんでおいで。」
「はい。ありがとうございました。
失礼致します。」
ケントはその場を辞すると、領主の館から去っていった。
「ドリス、マリーナ。君たちの子供は立派に育っているね。君たちともそろそろ会って久しぶりに話をしてみたいものだ。」
残されたコレアは窓からその姿を見届けると、まだ明るい空を見上げて一人呟いた。
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