第67話 却下
「戦え、とは?」
唐突なシルバの申し出に、ジョンが戸惑う。
「なにも命懸けでって訳じゃない。
ただ、俺達は近い将来ここを出て自分達の力で生きていく。
自分の立ち位置が知りたい。」
(なるほど、自分で言うのも可笑しいですが、対抗戦の代表者となった私と対等に戦えれば、少なくとも同年代ではトップクラス。
外に出るだけの実力が備わったかが知りたいと…一理ありますね。
さすがシルバ。)
「構いませんよ。今からですか?」
「ああ。すまんな。」
「いえ。私も勉強させてもらいます。」
ケントは謙遜ではなく、本心からそう言った。
ケントはチェンバロとの戦いを経験し、メグとジョンの戦いを見て、自分がまだまだ自分の殻に閉じこもっていることに気づいた。
いわゆる、無知の知である。
故に、周囲の人々から学び、自らを向上させていきたいと考えていた。
シルバはケントにはない経験をしているので、学ぶ事も多かろうと考えたのだ。
2人が訓練で使用している広場の中央に向かうと、訓練をしていた6人も手を止めてこちらを見つめる。
2人はそれを気にせずに、戦闘体勢を取る。
広場に風が吹き、2人の髪がなびいた。
息が詰まりそうな静寂を切り裂き、先手を取ったのはシルバだ。
「いくぞ!」
「ええ。」
シルバの初手は魔法を使わない打撃であった。
鋭い蹴りがケントに向かうが、無詠唱で障壁を作り出したケントはするりと避ける。
逆に右拳でシルバを打とうと狙うが、シルバは既にそこにはいない。
「こっちだ。」
シルバは背後からケントを羽交締めにした。
ケントが回避でシルバから目を逸らした隙に、ケントの視界から逃れていたのだ。
シルバはそのまま頭突きを当てようとするが、ケントは両手を挙げてするりと抜けると、逆立ちの体勢から両脚でシルバの胸を打った。
「うっ…」
ケントはそのまま両脚で着地すると宙に浮かび、振り向いて炎を放つ。
たたらを踏んでいたシルバは避け切れず、被弾して仰向けに倒れ込んだ。
「ま、まだまだ…」
「今日はここまでにしましょう。」
ケントはシルバの眼前に立ち、回復魔法を施した。
回復したシルバは悔しそうだ。
「まだ遠いか。」
「そうですね。やはり戦闘のセンスは素晴らしいのですが、魔法無しではなかなか厳しいでしょう。」
「そうだな。やはり実戦となると、馴染んでいない魔法は使いづらかった。」
何故せっかく訓練した魔法を使わなかったのかと疑問を抱いていたが、これでケントは納得した。
「今後も宜しく頼む。」
「ええ。また時々こうして訓練の成果を確かめるようにしましょう。」
2人は和やかに握手を交わすと、他の6人と合流し、魔法の訓練を再開した。
————————————————
そして期末テストが執り行われた。
学年順位が発表され、上位を1組の生徒が独占した。
ミレーネ先生曰く、例年はここまで明確に差が生まれないらしい。
ケントは魔法掲示板に表示された順位を思い返していた。
『期末テスト学年別成績
第一学年
第一位 ケント
第二位 イルマ
第三位 ファム
第四位 マイト
第五位 セレサ
・
・
・
第十一位 レードルフ』
(レードルフさん、自分のやり方でここまで順位を上げてくるとは予想外でした。
恐らく一度目の定期テストでは、今まで培ってきていなかった部分の差が大きく出てしまったのでしょう。
授業での振る舞いを見ても、態度の割に自学の姿勢は垣間見えていましたし。
それにしても、私の想定以上の方のようですね。今後が楽しみです。)
「ケント。お前の提案に関してだが。」
ケントはジョンの言葉で、思いを馳せるのをやめた。
今は生徒会メンバーが集合し、学期末の会議中である。
「はい。いかがでしょうか。」
「俺達だけでは決め兼ねる。学院長や、場合によっては領主にまで話を通さねばなるまい。」
「そうですか。できれば来年度、早ければ今年度中にも着手したかったのですが…」
落胆を見せたケントに、マールが声を掛けた。
「でも面白いわよ、これ。実現したらもっと多くの生徒がイキイキと過ごせるようになるわ。」
「うんうん!やっぱりケントは凄いよ!まだ入ってきたばっかりなのに!!」
メグは相変わらず明るくケントを褒めちぎった。
「そうだな。俺としても進める事に意義はない。近々学院長に話に行こう。」
「ありがとうございます。お願いします。」
「では次、メグの提案だが…」
前向きな言葉をケントに掛け、ジョンは次の議題に移る。
「はいはーい!私のもみんなイキイキするよ!ね!!」
「却下だ。なんだこれは。」
「えー!?『ケントの良い所を語り合う会』だよ!クラスの子達はみんな楽しみにしてるのに!!」
「生徒会主催でやる意義がない。却下だ。」
「えーーー!!!!????」
廊下にまで響き渡るメグの声に、第一学院の生徒達は今日も温かい気持ちになるのであった。
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