第62話 惨劇

「第一学院の勝利!!」


「やたっ!!」


ナンナを置いて陣営に駆け戻ってくるメグは、幼き頃の姿を思い起こさせた。


(石像に鏡世界、最後はワープ。

メグの自由な創造性がモロに出ましたね。ナンナさんがあそこまで翻弄されるとは思いませんでしたが…)


「メグ、おめでとうございます。

 圧倒的でしたね。」


「ありがとー!楽しかったあ!!」


心からの笑みを浮かべるメグの姿に、流石のケントも破顔した。


「そういえば、その身体中の怪我はどうしたのですか?」


「あ、これ?そうそう、ケント!

聞いてよ〜!………」


メグの愚痴が続いた。


要約するとワープで失敗した所為で負傷したが、一旦帰って来てからの再チャレンジには成功できた、との事だった。


しかし若干気になる話もあった為、後ほどの検討材料とするつもりである。


ひとまずこれで2勝2敗。


優勝の可能性を残してジョンに繋ぐ事ができた。


「メグ様!素晴らしい!!お疲れ様でした!!」


「いやはや、圧勝でしたなあ。」


「良くやった、メグ。」


「ヘヘ、やったね!いえーい!!」


他のメンバー達も集まって来たので、ケントは少し離れてメグを祝福するメンバー達の様子を見守った。


(さて、これでようやく最終戦ですか。しかしここで出てくるのがマテウス…それ以外の相手ならジョンは必勝でしょうに…)


大将戦はジョン対マテウス。

2人とも年代を問わず最強の一角と目されている。


副将戦の開始前もそうだったが、会場内は一種の興奮状態だ。


最上まで上がったボルテージが、下がる気配を見せない。


それだけこの試合への注目度が高いという事だろう。


「よし、行くか。」


「ジョン、頑張ってくださいね。」

「お兄ちゃん、気をつけてね!」

「ジョンさん、お願いします!

 メグ様に優勝を!!」

「ジョンさんならやれる!

 見させてもらいますわ!」


ジョンに一人一人声を掛けて行く。


頷いていたジョンだが、改めてケントに目を止め、声を掛けてきた。


「ケント。見ていろ。」


「はい。かしこまりました。」


交わされたのはシンプルな会話のみ。


それだけのやり取りを交わすと、ジョンはフィールド中央へと向かっていった。


(ジョン、これで最後です。頑張ってください。)


ケントはジョンを見送った。



————————————————



一方、第六学院。


「おーい、起きろよナンナさん。

 ナンナさーん!」


チェンバロがナンナを介抱していた。


外傷はそれほど無いため、逆に魔法で回復する事もできず、今の状態に陥っていた。


「仕方無い、俺は行ってくる。」


マテウスが諦めてフィールドへ向かおうとしたその時、ナンナの目がパチっと開いた。


「マテウス!待ちなさい!!」


「うおっ!ビビった…ナンナさん、急に大声出すなよ!」


近くにいたチェンバロは驚いて尻餅をついてしまったが、ナンナは気にする素振りさえ見せなかった。


「マテウス!準備運動はしたの!?柔軟は!?」


「ああ、大丈夫だ。相手はジョンだからな。今すぐにでも戦える。」


マテウスが気合のこもった表情を見せるが、ナンナは呆れた顔を見せた。


「今すぐやるんでしょうが!当たり前でしょ!!絶対勝つのよ!!」


「ああ。お前の仇は俺が討とう。」


マテウスは真剣な面持ちでフィールド中央に立つジョンを見つめる。


「あ、当たり前よ!私の分まで絶対勝つのよ!負けたら許さないんだから!!」


「任せろ。では行ってくる。」


マテウスはナンナの声を背に、フィールド中央へと向かった。


「…勝ちなさいよ。マテウス。」


「ナンナさん、負けちまったなあ。

 まあ気にすんなって!

 マテウスさんが勝ってきてくれる…」


「うるさい!アンタは黙ってなさい!」


チェンバロがナンナをケアしようとしたが、視線で射殺さんばかりに睨みつけられた。


「あーあー、随分だな。俺は勝ったってのに。」


チェンバロは独り言のつもりで呟くが、ナンナの顔が更に恐ろしい物に変貌した事で、自分の失態を悟った。


「…チェンバロ、良い度胸ですわね。私を愚弄するとは…相応の覚悟はできていると見做して宜しくて?」


「あ、いや、その…」


チェンバロは後ずさった。


ナンナは満面の笑みでチェンバロに近づいていき、間もなく大将戦が開始されるというこのタイミングで、惨劇の幕が上がるのであった。

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