第61話 無縫

「よおーし!いっくよー!!」


まずはメグが動き出した。


強化した脚で左右にステップを踏みながら、高速でナンナに接近する。


「大地よ、妨げよ。」


ナンナが手を振り上げると、それに呼応するように土壁が現れた。


「どーん!」


メグの肩幅よりも厚く作られた土壁が、前蹴りひとつで崩れ出した。


「お転婆さんね、もう!」


「アハハ!それ〜!!」


メグの声に合わせ、土球が大量にナンナに向かい飛んで行った。


一つ一つがナンナの顔と同じくらいの大きさがあり、とても避けきれない。


「鬱陶しいわね…風よ、私の壁となれ!!」


土球が接近してきたところで、ナンナの周囲に竜巻が発生した。


土球は風に飲み込まれ、天高く舞い上がり地に落ちた。


「今度はこっちの番!!

風よ、我が敵を切り裂け!!」


「よっ、とっ、はっ、と!」


ケントが言うところのカマイタチがメグを襲うが、信じられない事にメグはそれを避けた。


「ちょっと!!風の魔法って避けられる物じゃないでしょ!せめて防ぎなさいよ!!」


敵ながら、ナンナの言はもっともだった。


なぜなら、風は視認できない。

当たり前だ。


であれば避ける事など出来るわけもなく、風魔法の対処法は壁などを作り出す事が主で、避けるなど勘頼みのハイリスクな行為とされていた。


「えー?でもこの辺にくるって分かってるんだから、避けるよね?」


「…なるほど。私が甘く見過ぎていたようね。」


「…??」


正に天才肌、という発言に、ナンナのメグに対する警戒度が上昇した。


「貴女を認めるわ、メグ。ここからは本気でいくわよ。」


「はーい!ありがと!!

 私もどんどんいくよー!」


メグもパッと思いつく中で1番の魔法を使用する。


「疾く走れ、我が身体!!」


「おいで〜ノッポさん!!」


ナンナは速度強化によってメグに接近戦を仕掛けようとしたが、メグが自ら作り出した石像の肩に乗って上昇していった事により、失敗に終わる。


「ノッポさん、行け〜!!」


「ちょ、ちょっと!こら!?」


石像はナンナを踏み潰そうと足踏みを繰り返すが、速度が強化されたナンナには当たらない。


「じゃあ必殺技!どっかーん!!」


メグが叫ぶと石像の巨体が宙に舞い、うつ伏せの体勢でそのまま落下してきた。


「じょ、冗談じゃないわよおお!」


ナンナは必死で駆け出した。


下敷きになった場合、良くて大怪我、悪ければ死ぬ。


洒落にならない。


「わあああああああ!!!!!!」


ナンナの叫びもむなしく、フィールドにとてつもない墜落音が轟き、次いで砂埃がフィールドを覆った。


大半の人間は墜落音で聴覚を、砂埃で視覚を奪われた。






そんな混乱渦巻くフィールド上で、ナンナは改めて集中力を高めていた。


元々掛けてあった速度強化の甲斐もあって、なんとか石像に潰されずに済んだのだ。


その上で現状を分析すると、このフィールド上の混乱はむしろ好都合であるように思える。


(メグの強みは無詠唱魔法と自由な創造性。それに風魔法を避けるほどの動体視力。化け物染みてるけど、この砂埃のなかでは視界は確保できない。それに使える魔法も限られる。接近して格闘戦に持ち込めば、いける!)


そして目を瞑り、気配を探った。


聴覚も視覚も奪われた。


しかしナンナはメグを見つけ出す。


気づいてしまえば目でも視認できる距離だった。


(…空!?なるほど、そうすれば足音も聞こえない…)


ナンナはその利点に気づき、同じく宙に浮いた。


そのままメグに近づいていき、少し抵抗はあるものの、背後から延髄斬りを浴びせた。


ガッシャーン!!!!!


「!!??」




「ヘヘ、鏡の世界へようこそ!!」


ナンナの上下左右至る所で、メグがこちらに向かって手を振っていた。




————————————————




その後もナンナは走り回り、鏡を割って回ったがメグの本体には一度も辿り着けなかった。


(なによ、この魔法。なんなのよ!この試合始まってから、ずっとこの私が子供扱いじゃない!)


そう、ナンナはこの試合、一度も主導権を握れていない。


こんな事は生まれて初めてだった。


(大丈夫、やれる。良く考えたらこんな鏡なんて全部壊しちゃえば良いのよね。焦って思考力が低下してたみたい。良くないわね。)


そう考えたナンナは、土魔法で大きな塊を作り、それを自らの前方へ突き出した。


大きな破砕音と共に土塊が進んでいき、遂に日の光が見えてきた。


(出たところを狙われるかもしれない。慎重にいきましょう。)


土塊の陰から外を見ると、周囲にも上空にもメグの姿は無い。


ホッとしたのも束の間、鏡で出来たドームの中からメグの声が聞こえてきた。


「出ちゃったのかー。じゃあ次だね!」



ナンナはドームを警戒するが、何も起こらない。


暫しの時が経ち、流石にナンナの警戒が緩み始めた頃、突如背後から声が聞こえた。


「アハハ、失敗失敗!!」


なぜか傷だらけのメグが姿を現し、次の瞬間、ナンナの意識は刈り取られた。

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