第45話 万端

ケントの囁きを聞いたゴッティーザは、青白くさせていた顔から徐々に変貌させ、またも醜悪に笑った。


「そこまで分かっててこれか。

 まあ良い。後悔するのはテメエだ。行け!」


そう言ってゴッティーザが手を振り上げると、会場内でゴッティーザの手の者がそれぞれ後方から、ジョン、メグ、ドリス、マリーナ、ミレーネまでも狙う為に動いたのがフィールド中央だからこそケントには見えた。


「はあ…」


「グヘヘ!これで形成逆転だなあ?散々いたぶってくれやがってよ。

すぐ終われると思うなよ!?」


「お好きに。」


「は??」


ケントはゴッティーザの近くから離れない。手を伸ばせば届くような近距離に留まり続けていた。

 

「だから言ったでしょう?

 お好きにどうぞ。

 好きにして下さいよ。」


「グヘヘ、これは脅しじゃねえんだぜ?俺がもう一度手を挙げれば、俺の仲間がお前の大切な奴等を…」


「良いからやれ!!」


ヤケになったようなケントの声に、ゴッティーザは腹を決めた。


「グヘヘ、そうかいそうかい。

 可哀想な家族達だ。

 恨むならこの自分の事しか考えていない末っ子を恨めよ!」


そう言って、右手を高らかに上げる。と、同時に、会場内で複数の火の手が上がった。



「ガッハッハ!!ただの脅しだと思ったか!そんな訳が無い!どれどれ、こいつはどんな表情を…」


ゴッティーザが俯いていたケントを見つめていると、不意に先程までと全く変わらない表情のケントが顔を上げた。


「さて、終わりの時間です。

 まあ、可哀想なので猶予をあげましょうか。」


というとパチン!と指を鳴らした。

しかし、何も起こらない。


「なんだそれは?大体お前、家族が心配じゃないのか!?」


「家族ですか。今も応援してくれている家族には、感謝していますよ。」


「なんだと!?そんな筈が…」


ゴッティーザが対象を見ると、ジョン、メグ、ドリス、マリーナ、ミレーネは全員無事である。


周囲の人間は少し驚いているようであったが、その騒ぎも収束しかかっているようだ。


「な…お、お前…なんなんだよ…

 なんなんだよおっ!!??」


「私はこれから指を鳴らします。

どこかのタイミングで、指を鳴らすと同時に水を生成し、その水はあなたを呑み込むでしょう。

その水から抜け出すには、私がもう一度指を鳴らすか自力で抜け出すかしかありません。

高速回転する水から、あなたはどれくらいで脱出できるんでしょうね。

では、参りましょう。」


パチン!


「な、何言ってやがんだ…水だと…?」


パチン!


「人を溺れさせる量の高速回転する水なんて、大魔法じゃねえか…そんなの一瞬で発動できる訳…」


パチン!

パチン!

パチン!


「ぐ…う、嘘だよな?そんな事しないよな?」


パチン!

パチン!

パチン!

パチン!

パチン!


「わ、悪かった!俺が悪かった!

 降参するからゆ…」


パチン!


「ゴボゴボ…グァガババ…」


宣言通り、ゴッティーザはケントの作り出した水球の中に呑み込まれていた。


「さて、頑張って下さいね。今のところ脱出した人はいないので、脱出できたら第一号で…

ああ、もう気絶ですか。不甲斐ない。」


パチン!


水球が発散され、中にいたゴッティーザは気絶したまま地面に水ごと叩き落とされた。


審判と目が合ったケントは、恭しく礼をした。


「第一学院の勝利!!」


会場内に歓声が轟いた。


騒がしい会場内を見渡したケントは、改めて我が家族の無事を確認すると、満足そうに頷いて自分の陣営へと向かって堂々と歩き出した。



————————————————



「なかなかエグい事をするのう。

先鋒、次鋒戦で相手が使った魔法で攻撃する事で抗議する術を防ぐ。

誰も見ていない所で回復するから試合を止める事もできない。

先程の障壁もケントか?」


「ええ。懸念がありましたから一応。今回で確信に変わりましたがね。」


「そうか。確信というのは?」


ベアムースの質問に、ケントは淡々と答える。



「第四学院に内通者がいますね。フリックさんを罠にはめ、キーンさんの性格を熟知しており、私の家族関係を把握している人間が。」


「な!?」


ケントの言葉に、ベアムースは愕然とした。

しかし心当たりがあったのだろう。

すぐに表情を切り替え、険しい顔を見せた。


「…それはもしや、あやつらか?」


「ええ、十中八九。ただ私も確定的な証拠を掴んだ訳ではないので、断定はできませんが。」


「なるほど。これで今年の第四学院が過剰に他校の生徒を痛めつける理由が分かったぞい。」


「…メグにも伝えますか?」


「いや、あやつなら大丈夫じゃ。

身体的接触を避けるようにという話は既にしておるから、問題無いじゃろ。」


「…了解致しました。」


不穏なものを感じつつ、ケントは修繕が進んでいくフィールドをただ見つめるのであった。

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