第44話 導き

「キーンさん!」


「おお!見たかケント!」


珍しく興奮したケントに迎えられ、キーンは笑顔を見せた。


「さすがキーン!やっぱり強いね!」


「ありがとうございます!」


メグの無邪気な賞賛を受け、キーンは顔を綻ばせた。


そのキーンの背中に、衝撃が走る。


バシィ!!


「痛ッ!なんじゃ!?」




「良くやった。」



ジョンだった。


「…ジョンさん…ワ、ワシは…」


「ああ。お前は良くやってくれた。

後は俺達に任せろ。」


「………はい。」


キーンはジョンの言葉に大きく礼をすると、俯いたまま身体を震わせた。


察したケントが無言で木陰へ連れて行き座らせると、キーンは体育座りをして自分の太い腕に顔を埋め、しばらくの間身体を震わせていた。



————————————————



毎回の事になってきているグラウンドの整備が終わり、いよいよ中堅、ケントの出番がやってきた。


相手は第四学院中堅ゴッティーザ。

一回戦の第二学院戦では唯一接戦を演じている選手で、順当にいけばケントが圧勝できる相手だ。


(だからこそ危険な相手ですね。

 一応最低限の下準備はしておきましたが…)


ケントは警戒を滲ませながら観客席を見渡した。


(……見つけた。やはり父上と母上は来てくれていますね。有難いことです。あの2人も一応追加ですね。)


ケントは久しぶりに見たドリスとマリーナに軽く手を振り、フィールド中央へと向かった。



ケントがフィールド中央に着くと、既にゴッティーザが審判から何やら注意を受けていた。

一回戦から続く反則スレスレの行為に対する牽制だろう。


(まあ、フリックさんにあれだけの事をしたのですから、反則等で逃してやりはしませんがね。)


ケントは静かに怒っていた。

フリックは言わずもがな、キーンにもが掛けられていた。

それは木陰へ誘導する際に確認した。

つまり、大事なチームメイト2人を傷つけようとしたのである。


(フリックさん、キーンさんは、私がジョンとメグの弟という事ももちろんありますが、本当に私に良くしてくれていた。

そんな2人を傷つけようとしたのですから、キッチリと代償は払って貰いましょう。)


静かに決意を深めていくケントに、審判からの注意をようやく受け終えたゴッティーザが話しかけてきた。


「よう、お前ジョンとメグの弟なんだってな。」


「…ええ。だからなんでしょう。」


「いや別に?あの2人とか両親とかが傷つけられたらお前はどんな顔すんのかなって思ってよ。」


ゴッティーザはそう言うと醜悪な表情でケントに更に話しかける。


「ああ、逆でも良いか。お前を傷つけてお前の家族や仲間達の顔を見る。こっちの方が楽だわな!

ゲヘヘ…」


「お好きにどうぞ。」


「あん?」



まだ話の途中であったが、審判の号令で試合が開始される。


「両者離れて!

 始め!!」



かくして中堅戦が始まった。



ケントは試合開始後ノータイムで空中に巨大な火球を作り出した。


「ま、待て!なんだその速度は!?」


ケントはゴッティーザの静止が聞こえたのか聞こえなかったのか、そのまま巨大な火球をゴッティーザへ激突させた。


その速度は先鋒戦でジャカが使用した物とは比べ物にならず、ゴッティーザにとってみれば、向かってきたと視認した時にはもう既に身体に衝撃を感じていた。


フィールドには轟音が響き渡り、巨大な火球がゴッティーザに直撃した。


この衝撃的なシーンを誰もが目にしたが、これに危険な魔法だと注意できる者はいないだろう。


何せ先鋒戦で同じ事が起きており、それは見過ごされているのだ。


フリックの時は内密にケントが回復させた為に無傷で済んだが、今回はそうはいかない。


しかし土埃が晴れた後に観衆の目に映ったのは、ほぼ無傷で立つゴッティーザと、その前に立つケントの姿であった。


これには観衆も目を丸くしたが、何故かゴッティーザも観衆と同じような表情をしており、その理由は誰にも分からなかった。


会場の空気が異様な物になる中、ケントがゴッティーザへ掌を向けると、ゴッティーザが視界から消えた。


「ぅぐぁあああああ!!!!!」


どこからともなくゴッティーザの叫び声が聞こえ、ケントも少し動いたかと思うと、観衆の視界から消え失せた。




ややあって、審判が2人の様子を見ようと動き出す。


観衆の席からでは遠過ぎて見えづらいが、フィールド上に立っている審判からは、2人が突如フィールドの地面に発現した穴に入っていった事がしっかり視認できていた。


そして審判が穴の近くまで来ると、穴の中から2つの影が飛び出した。


もちろんケントとゴッティーザである。


着地した所を見やると、またもや2人とも外傷は無さそうだ。地面に膝をついているゴッティーザは青白い顔をしているが、意識もあり外傷も無い以上、審判も試合を止める事は出来なかった。


そしてケントはおもむろに歩いてゴッティーザへと近づき、顔を近づけて小声で話し掛けた。


(人質を取っているのでしょう?使ってみてはいかがですか?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る