第43話 堂々

異様な雰囲気の中、フィールドの修繕も終わりいよいよ次鋒戦が行われる事になった。


キーンの相手である、ポポがフィールド中央へゆっくりと歩み寄った。


一回戦では相手を魔法で宙吊りにしていたぶった挙句、自ら棄権した危険な生徒だ。


そんなポポが目の前に来ても、キーンは瞑目したまま仁王立ちしていた。


「それでは次鋒戦を始める。ポポ君、第四学院はここまで威力が過剰な魔法を使用し過ぎている。この試合でもそんな素振りを見せた場合、没収試合も辞さないのでそのつもりで臨みたまえ。」


「はいはい、大丈夫ですって。」


「なんだ、その態度は…」


審判が食ってかかろうとするが、それをなんとキーンが止めた。


「構わん。」


「は?なに?」


「威力が過剰な魔法を使おうと、魔法使用を阻害しようと、構わんと言ったのだ。好きにしろ。」


キーンはそう言うと、自ら右手を差し出して握手を求めた。


「ヒヒ、何を言ってるのか分からんが、まあ宜しく頼むわ」


ポポはそう言って握手に応えた。

これで十中八九魔法使用を阻害される事になるだろう。


ケントは頭を抱えていた。


(キーンさんは何を考えているのですか!自分から身体的接触をするなんて。私の言葉を聞いていなかったのでしょうか…)



「それでは両者離れて!

 始め!!」


ケントの苦悩を余所に、次鋒戦は開始の火蓋を切った。




「ぬおおおお!!!!」


開始と同時にキーンがポポに殴り掛かる。


ポポは軽いステップでそれを躱すと、キーンから少し距離を取り小魔法を発動した。


「恵みの大地よ、敵を妨げよ!」


ポポの周辺にキーンの背丈程度の土壁がいくつも発現した。


「うおおおお!!!!」


キーンはそれを自身の肉体で破壊しながらポポへと向かっていく。



手こずりながらも最後の土壁をキーンが破壊した時には、ポポはもうその場にはいなかった。


「うああああ!!!!」


キーンが視界から消えた。


キーンが土壁を破壊している間、ポポは土壁の手前に魔法で穴を掘っていた。


土壁にキーンの意識を集中させ、破壊し切った後にある落とし穴に気づかせないようにしたのである。


(意外とテクニカルな戦い方をしますね…もしかするとこちらがフリックさんに仕掛けた事に気づき、キーンさんが逆上する事まで想定していたのでしょうか。そうなると、キーンさんの性格まで考慮に入れていた事になります。やはり…)


ケントが思案に耽る中、フィールド上は次なる展開を見せていた。


「ヒヒ、これで終わりかな?

 恵みの大地よ、楔となって、

 我が敵を貫け!」


ポポの次なる魔法がキーンを襲う。


落とし穴下部の土が円錐状に突き出し、キーンを貫こうとしている。


ケントで言うところの、タケノコの魔法である。


観客が凄惨な場面を想像してフィールドから一斉に目を背ける。





しなし、実際のフィールド上では驚くべき事が起きていた。



「うおおおおお!!!!!」


キーンは円錐状に突き出した地面を逆に利用し、落とし穴から飛び出した。


ケントすらもこれは想定出来ておらず、フィールドに足を踏み出した所であった。


余程の勢いで突き出されたのか、キーンの勢いは止まらない。


ポポの眼前に着地すると、ポポの腰にその太い腕を回してがっちり固定した。


「捕まえたぞ。」


「ヒッ!」


ポポの顔が引き攣る中、キーンは腕に込めた力を強め、ポポを持ち上げた。


「うぐっ…」


「さて、行くかの。」


底冷えすら感じさせる声で言ったキーンは、先程自分がはまっていた落とし穴へと近づいていく。


ポポはジタバタ動くも、キーンの膂力により声すら碌に出す事が出来ず、詠唱が出来ないため魔法が発動出来ない。


遂にキーンは落とし穴の目前まで辿り着いた。



「フリックさん。アンタの無念。

今ワシが晴らす!!!」



そう言うと、ポポを抱えたまま落とし穴へと逆さまに落下していった。






ケント含め、観客達からは穴の中で何が起きたのか視認できない。


審判が穴に近づき確認すると、棘のような土がそこら中に生えている中、そのの地面に頭から串刺しになっているポポと、その横で胡座をかいたキーンの姿が見えた。



「第一学院の勝利!!」



審判のその声に、先鋒戦から続いていた異様な雰囲気を吹き飛ばすような、特大の歓声が会場内に轟いた。


その歓声に、胡座をかいていたキーンは微笑を浮かべながら立ち上がり、力を込めるように拳を握ると、爽やかな表情で青い空を見上げるのであった。

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